第25話
年末年始の休みに入った。
つまらない仕事から開放されて、旅人に還る瞬間。
僕は軽の4×4にギターを放り込み、北に向かって走らせた。
路面は圧雪、少し吹雪いている。
北海道に生まれ育った人なら冬は厄介な季節なのだろうが、都会育ちの僕には雪に閉ざされたこの季節はむしろ新鮮だ。
美深町を通過する。
戸崎さんの民宿「夢のひととき」は雪に埋もれていた。
多分、春までオープンしないのだろう。
稚内を過ぎ、左側に海を見ながら宗谷岬へと向かう。
ここは天気がいい時はロシアが見える。
旅人モードの僕は、海の向こうの世界へと思いを馳せた。
そして宗谷岬。
予約していた、岬にほど近い宿に車を停め、白川さん達が待つバス停に向かう。
バス停と言っても、バス停表示板があるだけではない。
寒さや吹雪に備えて、大きめの待合室があるのだ。
このバス停に来る最終バスは夕方5時。この時間を過ぎると、次の朝までバスの利用者はいない。
その時間を使って、夏の旅人はここで宿泊し、冬の旅人はここで宴を催す。
今夜は年越しの宴だ。
バス停の扉を開けると、白川さんや鹿島さんや野村さんはもちろん、見た顔、見ない顔、いろいろな旅人の面々がいた。
東京や横浜からも友人が来ていた。
「おっ!シンちゃんの登場だ!」
「うぃーす!みなさんお揃いっすね!」
僕はギターを抱えて、さっそく1曲披露する。
「それでは行きますっ!津軽海峡冬景色!」
「イェーイ!」
「♪上野発の夜行列車降りた時から 青森駅は雪の中~」
この曲を選んだのは、僕の心情が理由ではない。
バス停を打つ吹雪の爽快さを表現するのにピッタリの曲だと思ったからだ。
数曲歌った後、久しぶりに再開した仲間たちとしばし談笑した。
誰かのラジオから除夜の鐘が聞こえた。
「ハッピーニューイヤー!!!」
今年こそは、きっといい年になるだろう。
みんなの熱気と鍋の湯気で、待合室の窓が曇っている。
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