第24話

今年も残すところあと2週間となった。


僕は木材商社「丘珠コーポレーション」でバリバリと働いている。


と、言いたいところだけど、現実はそうではなかった。


毎日のように社長にドヤされ、先輩にドヤされ、ドヤされることが仕事みたいな毎日だった。


まあ、無理もなかった。

やる気のなさが歩いているような僕だったから。

そして、怒られることが自分の仕事なのだと、半ば開き直っていた。


家に帰ると、留守番電話の着信ランプが点滅していた。


「まさか、賀代か?なあんてな。」


賀代なわけがない。

賀代は今頃彼氏とよろしくやってるはずだ。


「おい、シンちゃん!最近どうしたんだい?たまには顔出せよ~。」


白川さんだった。


賀代との最後の電話の時から、僕は旅人つながりの人とは会っていなかった。

カッコ悪いところ、元気のないところを人に見られたくなかったから。


週末、僕は白川さんの家を訪ねた。

いつものように、鹿島さんと野村さんも来ていた。


「やあ、シンちゃん、最近どうしたんだい?全然顔を見せなかったじゃないか?」


「すいません、就職したから来る暇がなくて…」


そこに鹿島さんが口を挟んだ。


「シン、それだけじゃないだろ?賀…」


言いかけたところで、野村さんが鹿島さんを肘でつついて牽制した。


「ま、久しぶりにシンちゃんが来たんだし、飲も飲も!」


みんな野村さんに促され、飲み始めた。


ひとしきり酔いが回った頃だろうか。


「シンちゃん、ごめんなさい…。」


突然野村さんがそういった。


「どうしたんすかぁ?飲み過ぎじゃないすか?」


「実は私…、賀代ちゃんに彼氏がいることを知っていたの。シンちゃんが楽しそうだったから、なんか言いづらくて…」


僕は、ひどく酔ったふりをして答えた。


「僕がバカだったんすよぉ。賀代ちゃんみたいな可愛い娘に、彼氏がいないわけないっすよねぇ。ハハハハ…。」


野村さんは話を続けた。


賀代の彼氏はたけしとかタケちゃんというキャンパーネームで呼ばれている、名の知れた旅人である事。

タレントのビートたけしに似ているからそう呼ばれてる事。

たけしが戸崎さんや旅人達と活発な交流があるという事。

賀代とたけしは1年ぐらい前から一緒に暮らしている事。

そして、ここのところ2人の仲がギクシャクしがちだった事。


旅人離れした賀代が旅人の世界に違和感なく溶け込んでいたのはそういうことだったのか…。


僕はショックで頭を抱えそうなところを我慢して、酔ったふりを続けた。


「もう関係ないっすぅ~。どうでもいい事っすよぉ~。」


僕は本当に酔うためにビールを何本も空けた。


それでも、酔いが深まることはなかった。


そんな僕の心中を察したのか、白川さんが話題を変えた。


「シンちゃんは年末年始は休みかい?」


「休みっすよ。」


「みんなでさ、宗谷岬のバス停で年越しをしようと思ってるんだけど、シンちゃんも来ないかい?」


「あー、行きます行きます。ぜひともお願いしますっ!」


1人で過ごすはずだった年末年始に予定が出来た。

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