第21話
美深への旅から1週間が過ぎた頃、僕は賀代に電話してみることにした。
実は、美深の旅の帰り道、僕が北海道を旅していた時に撮った風景写真を賀代に渡しておいたのだ。
『「家に帰ったら見てごらん。あ、今は見ないでね。」
「今見たらあかんの?じゃあ、帰ったら見るねんで」』
こういうことをしておけば、電話をかける口実も作れるし、次の約束にもつなげられそうだから。
「笑っていいとも」を見終わったあと、賀代に電話をかけた。
「あ、シン君…。どうしたの?」
「いや、別に用事があるってほどじゃないけど…。そうそう、このあいだ渡した写真は見てくれた?」
「うん、見たで。彼氏もいい写真だって言ってる。なあ、タケちゃん、写真綺麗だったよな?」
電話の向こうから男の声が聞こえた。
「は!?」
僕は声にならない声を出したかもしれない。
「シン君もタケちゃん知ってるやろ?ほら、白川さんのところで合ってるやん。タケちゃんがウチの彼氏やで。」
僕は次の言葉を探すことが出来なかった。
「シン君、もう電話せえへんでな。じゃあな。」
いったい、何が起きたのか。
僕はベッドに倒れ込んだ。
目を開けているのもつらく、かと言って閉じる余力もなかった。
ただ、死にかけの病人のように横たえていることしか出来なかった。
"僕らはここから始まるのだろう"
愚かにもそんな事を思った、滑稽で無様な抜け殻。
悲しみ、怒り、嘆き…
あらゆる負の感情が頭からつま先まで駆け抜けては消えてゆく。
気がつくと外が暗くなっている。
重く、そして気力の失せた体をなんとか起こしてみる。
ヘッドホンをして、ジョン・レノンの「IMAGINE」を聴いてみる。
その時初めて、涙が流れていることに気がついた。
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