第19話
明くる日、9時を少し過ぎた頃に美深を離れた。
「また札幌で会いましょう!」
「戸崎さんまたな。またどこかで会えたらええな。」
「またどっかで会おうな、お二人さん。気をつけて帰れよ!」
美深を離れるのは名残惜しい。
きっと賀代も同じ気持ちだろう。
クルマの中には、僕のお気に入りのカセットテープが20本程度積んである。
それを聴かないで、ラジオをかけていた。
同乗者がいるときは、音楽の好みが合わないかもしれないから、ラジオをかけることにしているから。
不意に、ドリカムの「未来予想図Ⅱ」が流れる。
賀代は即座に反応した。
「ウチ、この歌が大好きやねん。」
賀代の年頃の女は、だいたいドリカムが好きだから、これだけでは賀代の音楽の好みを知ったとまでは言えないだろう。
「そうなんだ、いい曲だよね。」
まだ出会ってそれほど月日が経っていないせいだろうか、話題が途切れがちになってきた。
車窓からラブホテルが見える毎に、賀代が話し始める。
「このホテルはな、部屋があまり綺麗じゃないんやで。」
「このホテルは少し料金が高いんやで。」
こんなことを話して、僕を妬かせたいのだろうか。
人生いろいろなものだし、人は綺麗な道ばかりを歩いているわけでもない。
しかし無言でいるわけにもいかないから
「へー、そうなんだ。」
と相槌を打つほかなかった。
「あ、途中札幌通るよな?シン君の住んでるとこ見てみたいから寄れへん?」
「別に見せるほど立派じゃないけど、寄っても構わないよ。」
僕のアパートに着いた。
本当に大したアパートではないけれど、外壁が白く、部屋にはロフトがついていて、今時の雰囲気だけは備えていた。
賀代は何も言わずに家の中を見ていたが、
「ウチもこんなかわいいアパートに住んでみたいわ」
と、ぽつりと言った。
「シン君ありがとう。」
賀代はなぜ僕のアパートを見たかったのだろう?
引き続き車を走らせ、賀代の住む町へと向かう。
銭函、小樽、余市。
そして、待ち合わせたバス停の近くに着いた。
「着いたよ、疲れたでしょ?」
「まだ着いてへんで、家の前まで送って。」
賀代の家のそばまで行くのは初めてだ。
「ここがウチの家やで。」
賀代の家はどことなく山小屋っぽい、北海道らしい暮らしができそうな家だった。
女の子が1人でこんなところに住んでいるとは、よほど北海道らしい暮らしが気に入っているのだろう。
「気をつけて帰ってな。じゃあな。」
「うん、またね。」
僕は離れ難さを感じながらも、ゆっくりと車を走らせた。
ルームミラーに手を振る賀代が映る。
僕はブレーキを5回踏んでみせた。
きっと僕らはここから始まるのだろう。
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