第17話
僕は先に風呂から上がり、待合室で賀代が出てくるのを待っていた。
「お待たせ~。」
「ああ。"夢のひととき"に戻ろうか。」
僕らぐらいの年頃の二人が一緒にいたら、誰が見ても恋人同士に見えるだろうな、
そんな事を考えているのを賀代に見透かされぬように、できるだけ自然な振る舞いを心掛けた。
「夢のひととき」に戻る。
「乾杯!」
あらかじめコンビニで買っておいたビールや弁当やおつまみを広げ、酒盛りを始めた。
「おい、シンちゃん、少し寒くなってきたんじゃないか、ちょっとストーブを見てくれないか?」
僕は薪ストーブの蓋を開けて中を覗いた。
実は薪ストーブの扱い方がよくわからない。
加減がわからないから適当に薪をくべた。
「戸崎さん、冬の間もずっと美深にいるん?」
「そんなことないよ~。札幌と美深を行ったり来たりだよ。」
3人共通の話題は、やはり美深のことや北海道ツーリングの事だ。
戸崎さんは取材の仕事で北海道のあちらこちらを何度も行き来しているから、北海道や旅人社会の裏の裏までよく知っている。
賀代も戸崎さんや僕ほどではないが、北海道のあちらこちらを旅したようで、旅先での出来事を話してくれた。
賀代はライダーなのか?ジェアラーなのか?
賀代がバイクに乗る姿を想像してみたが、あまり似合ってない気がした。
「おい、シンちゃん、薪を入れすぎただろう?なんだか暑いぞ。」
「あ、すいません。実は薪ストーブの扱い方がよくわからなくて。」
「なんだよ~。まあ、いいか。暑いほうがビールがうまいからな」
戸崎さんを中心にライダーハウス談義になった。
「ライダーハウスはな~、善意の宿だからな、""泊めさせてもらっている"という感謝の心で泊まれよ~。」
うんうんと頷きながら聞く賀代の顔は酒が進んだせいなのか幾分赤く染まっている。
しばらくすると、また少し寒くなってきた。
「おい、シンちゃん、ストーブ見てくれないか?」
「はい。あ、今度は賀代ちゃんが見てみなよ。」
「いやや。火が消えてたらややこしいから。シン君が見て。」
もうしょうがないなあ、と言いながら僕は薪ストーブの蓋を開けてみせた。
「ほら、賀代ちゃん見てごらん。まだ消えてないよ。」
賀代は薪ストーブの中を覗きこんだ。
「あ、ほんまや。まだ消えてへんな。」
賀代の横顔が少し微笑んだかに見えた。
賀代は薪をそっと丁寧に何本かくべた。そして蓋を閉めた。
「ほら、シンちゃん、ちゃんと見とけよ。薪はあんなふうにくべなきゃダメだよ。」
「そうっすね。わかりました。」
ほどよい暖かさになった頃に、僕らは布団を敷いて、三人で川の字になって横になった。
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