第16話
民宿「夢のひととき」。
ここはいつでも営業しているわけではない。
季節営業というわけでもない。
そもそも「営業」という言葉に見合うような利益が出ているのかもわからない。
戸崎さんの気が向いた時に開けている、そういうところなのだ。
どこか戸崎さんの人生を投影したような、そんな宿だった。
そのような気まぐれな宿ではあったが、夏の間は旅人がひっきりなしに来るから毎日のように開けていた。そのときは僕も宿泊者のひとりだった。
たくさんの思い出がここに染みついている。
今日は、あらかじめ戸崎さんに連絡して開けてもらっていた。
「久しぶりやな・・・」
賀代もここに泊まった事があるようで、懐かしそうに辺りを見回していた。
「シンちゃん、賀代ちゃん、よく来たね。」
戸崎さんは薪ストーブを焚いてくれていた。
暖かい。
「二人で温泉に行っといで。俺はさっき行ったから。」
ひとしきり休んだあと、戸崎さんに促されて「夢のひととき」から車で10分程度離れた美深温泉に行った。
ここの温泉は広大な公園やキャンプ場の敷地内にある。
夏、ここで開かれた「旅人祭り」に参加して楽しく過ごした事を思い出した。
「なんか、懐かしいわぁ~」
賀代も、この場所に思い出があるようだった。
「旅人祭り」の時に賀代に合った記憶はない。僕とは違う時期に訪れたのだろう。
こんなにも遠く離れた場所にそれぞれの思い出があるということが、嬉しくもあり、切なくもあった。
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