第9話

「やあシンちゃん、ここがすぐわかったかい?」


まるで旧知の仲であるかのように白川さんは迎えてくれた。


「ところでシンちゃん、仕事は見つけたか?」


「いえ、あまり探す気がないので…ブラブラしてます。」


「ダメだよ~、働かなきゃ!」


「すんません。」


働く気のない僕を諌める言葉が続く。

ぶっきらぼうな話し方だが、根は真面目そうな人であるのがわかった。


白川さんのところには、先客が2人いた。


ひとりは鹿島さん。


「お~、お前がシンか!話は白川から聞いてるぞ。歌を歌うんだってな。」


「歌を歌うぐらいしかできることがないんですよ。よろしくお願いします。」


この人もなかなかにぶっきらぼうである。

鹿島さんに会うのは初めてだが、この人もまた旧知の仲であるかのように話しかけてくれた。


もうひとりは野村さん。

スラリとした美女であるが、相変わらずフレンドリーな人である。

野村さんとは初対面ではなく、

夏、旅の途中に立ち寄った美深町の「旅人まつり」の間、何度か会っている。


「シンちゃん久っさしぶり~!元気?」


「久しぶりっすね!見ての通りですよ!」



今宵この場所に集まった4人は、北海道の話、旅の話に花を咲かせた。


「ところでシンちゃん、今週末は暇かい?」


「ええ、まあ…。」


「週末は、もっといろんなヤツが集まるから、来れるなら来なよ。」



北海道に残って"越冬"する旅人や、札幌に住む旅好きな人達が、夏が終わっても週末毎に白川さんのところに集まるという。


「話は変わるけどさ、働いてないと暇だろう?どうやって時間を潰してたのさ?」


「まあ、テレビを見たり飯食ったり、それの繰り返しですよ。あ、あの民宿にいた賀代ちゃんを覚えてますか?」


「ああ、覚えてるよ。」


「賀代ちゃんの案内で温泉に行きましたよ!」


「えー、いきなりデートかい!」


「いえ、そんなんじゃないですってば!ただ案内してもらっただけです!」


「シン、ホントの事を言えよ~。」


鹿島さんも僕にからかい気味に言った。


からかわれても、悪い気はしなかった。


なぜか野村さんは、この話に絡んで来なかった。

所在なげに、ビールが半分入ったコップをくるくると回している。



「ちょうど良かった、今週末は賀代ちゃんも来るから、シンちゃんも必ず来いよ!」


「だから、そんなんじゃないですってば!」


酒も入り、話も弾み、白川さんの所に泊まる流れになった。

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