32話 姫様を救えじゃんね 5
井田は今この国の姫と会場内を歩いている。
それもぴったりとまるで恋人のようにくっついてである。
「なぁもう少し離れて歩いてくれないか(いいぞぉもっとやれぇっ!あふんあふん)」
「……」
さっきからこの姫様はこの調子である。
井田としてはむしろウェルカムだが、いくらなんでも着ているドレスが乱れた少女がおっさんにくっついて歩いているというのはいささか目立つというか、はっきり言って犯罪臭がただよっていた。
そしてそんな目立つ格好で歩いていた井田は案の定姫を探していた兵士達に見つかってしまう。
「姫様探しましたよ!トスバ様も大層心配して……姫様その男は……。っ!?そのドレスはどうされたのですか!?貴様ネム姫様になにをしたぁっ!!」
そしてネムの乱れたドレスを見た兵士達が井田を取り囲み抜刀し、そして今にも目の前の男を切り殺さんとする彼らを井田にくっついていたネムが止める。
「やめなさい、彼は私の命の恩人よ。この者への無礼は私が許さないわ」
「命の恩人?……全員武器を降ろせ。姫様どういう事か詳しく聞かせていただけますか?」
ネムは先ほど自分に起こった事を戸惑いながらではあるが、兵士達の隊長であろう男に話す。
余程怖かったのだろう、心なしか体がまだ震えている。
「なるほど話はわかりました……よし全員今すぐこの会場を封鎖するよう手配しろ!そのクズどもを必ずや見つけだし晒し首にしてやるのだ!」
「オオオオオオッ!」
兵士達は雄叫びをあげ、自分達が仕える主の一人娘を辱しめた下衆共を捕らえようと奮起した。
結局彼らはネムに振り回されてはいるが、ネムをとても大事に思っていたのである。
が、それも再度ネムが止めた。
「いいえその必要はないわ。それにこの事はお父様には伝えないでちょうだい」
兵士達はネムの言葉に唖然となる。
「いやしかし……!」
「二度も言わせないで。この事は今ここにいる私達だけの秘密にしてちょうだい…勝手に飛び出した私が言うのもおかしいけれど、でもお父様にこれ以上心配をかけたくないのよ…お願い」
そう言ってネムは彼らに頭を下げる。
これには流石の兵士達も黙るしかなかった。
「……わかりました。ですが姫様は安全の為にトスバ様と私達の元に戻ってください。それが条件です」
「……わかったわ」
ネムは頷き彼らのもとに歩いていく。
無事ネムが戻ってきた兵士達はボーっと突っ立っている井田に頭を下げた。
「どなたか存じ上げませんが、姫様を助けていただき本当にありがとうございます」
「いやそんな(お前達の大事にしてる姫様は俺が寝取ってやるから覚悟しとけよ!)」
まぁ頭を下げる相手を間違えているようだが。
そして兵士達とネムはその場を去ろうとしたが、ネムが突然振り向きずっと聞きたかったことを井田に尋ねた。
「ねぇ、あなたの名前は何て言うの?」
「……俺の名前は井田だ」
「イダ……ね、本当にありがとうイダ。あなたの事絶対に忘れないわ」
そう言って今度こそネム達は去っていった。
「はぁ……(結局あのガキとはヤれなかったけど、でも唾はつけられたみたいだし結果オーライじゃんね)」
去っていったネム達を見送りながら井田がクズな事を考えていると後ろから声をかけられる。
「イダお前こんなところにいたのか!もうギルド代表戦が始まってしまうぞ!」
「……イダ遅い」
振り向けばシャニとロザリアが立っていた。
「あぁ、今いくよ」
井田は手をひらひらして彼女達のもとへ歩いていく。
間もなくこの会場でギルド代表戦が幕を開けようとしていた。
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