23話 やれやれではなく一生懸命にじゃんね

(…知らない天井だ…)


気がつくと政次は見慣れない白い部屋のベッドで目を覚ました。


「…!?…政次?政次!目を覚ましたのねっ!あなた、政次が目を覚ましましたよっ!あぁ!神様ありがとうございます…!!」


「ああ!…生きていてくれて本当に良かった…」


見ると隣で自分の父と母が泣き叫んでいた。

政次は自分は先程まで異世界にいたはずなのに、何故父と母がここにいるのだろうと両親に尋ねる。


「…どうして父さんと母さんがいるの?」


それを聞いた母が慌てる。


「政次、あなたもしかして記憶が!?あぁ、どうしましょうあなたっ!政次が!政次が…!」


「落ち着きなさい母さん、政次も混乱しているんだろう…政次、お前は交通事故に遭ったんだ。トラックに轢かれてな」


それは覚えている。

政次が異世界に行くことになった原因であるからだ。


そう、政次は朝学校に行く途中交通事故に遭っていたのだ。

そして神に手違いで殺してしまったと言われ異世界に転生させられた。

だがそれならば、何故今この現実世界に生きているのだろう。

それが政次には不思議でならなかった。


「事故に遭ったお前は一ヶ月の間、意識を失っていたんだ。そしてたった今目が覚めた…本当に…生きていてくれて…良かったっ…」


父はそう言い、目に涙を浮かべる。

いつも厳しい父がこんな顔をするなんて珍しいなと政次は場違いな事を思っていた。


父も母も泣いていた。

学校でイジメにあい、自分なんて死んでしまったほうが良いんじゃないかと思っていた。

でもこうして今目の前で、自分が事故に遭い死んでしまうかもしれないと思って泣いてくれていた両親がいる。

自分を必要としてくれている人がいる。

それだけで政次は胸が一杯になった。


「っ!父さん…母さん…心配かけてごめん…!本当にごめんなさい…!」


政次は泣いた。

人生で一番泣いた。

生きていて良かったと死ぬほど泣いた。

病室で親子三人で泣いた。


自分が異世界で暮らしていた一ヶ月、あれが夢だったのか現実だったのかはわからない。

だがそんなことは、もうどうでもいい。

自分はこれから現実世界でやれやれとではなく一生懸命に生きていくのだ。


政次は泣きながらそう思うのだった。

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