8話 お前がわからないことが俺にわかるはずないじゃんね

シャニは今日も井田の部屋にやって来ていた。


「イダはいるか!」


「はいはいいるよ(本当にうるせぇ女だな。マジでそのうち強姦してやろうか)」


「お前は何故ギルドに来ないのだ!聞けばあのオークの一件以降依頼を受けていないそうじゃないか」


「あぁそうだな(だって面倒臭ぇもん。金も前のがまだあるし無くなったら受けりゃいいじゃんよ)」


井田はベッドに転がりながら答える。自堕落の極みである。


「お前というやつは…。ロザリア!お前は何故こいつを注意しないんだっ!」


シャニは井田では話にならないとふんだのかベッドの隅で井田に買ってもらった絵本を読んでいるロザリアに標的を変える。


「…イダがすることにロザリアは従う」


「なんだとっ」


シャニは驚愕する。


「お前はいい子だな(だから早くヤらせてくれ)」


井田はロザリアの頭を撫でる。


「…えへへ」


ロザリアは気持ちよさそうに目を細めて微笑んだ。


それを見てシャニは何故か腹が立った。


「イダお前!こいつを育てるんじゃなかったのかっ!逆に甘やかされてどうするっ!」


「ちゃんと育ててるよ(主に性的にな)」


「そんなのは育てているとは言わんぞっ!互いに甘やかしあってるだけではないかっ!」


「しつこいな。大体お前はなんで俺にこんな構うんだ?」


「無論私がお前に構う理由など…!」


そこでふっとシャニは考える。


「何故だ…。何故お前に私はここまでしているのだ?」


「さぁな(お前にわかんねぇことが俺にわかるわけがねぇだろ、常識的に考えろカス)」


「…もういい今日のところは帰る」


シャニは急に静かになったかと思うと部屋を出ていってしまった。


「なんだあいつ(生理かな?)」


「…ロザリアもよくわからない」


人間の心を持たない男と人間の心がわからない怪物はただただ首を傾げた。






シャニはギルドの広間にある隅の席に座り考えこんでいた。


(何故だ。何故私はイダに構ってしまうんだ)


これまでそんなことは一度もなかった。


一人の人間にここまで関わろうとすることなど。


だからこそ今自分がイダに対して抱いている気持ちがシャニには理解出来ないでいた。


(大体いつからだ。私がこんなにもイダを意識するようになったのは)


オークから助けられた時か?はたまた最初に井田の寂しそうな背中を見た時か?


それはシャニ自身にもわからない。だが今こうしてシャニは井田の事を意識しはじめているのだ。


(あぁ、イライラする。なんなのだこの気持ちは)


シャニは鬱々とした気持ちを抱え机に突っ伏した。


「あれ?シャニ様どうしたんですか?こんなところで」


そこに戦乙女のメンバーの二人がやってきて突っ伏しているシャニに話しかける。


話しかけられたシャニは顔を上げ二人の方を見る。


「あぁ、お前達か。実はな…」


シャニは二人に自分が今悩んでいることを話すか迷ったが結果話すことに決めた。


「…シャニ様。もしかするとそれは恋なのでは?」


「…恋?」


「はい。今のシャニ様の話を聞いた限りですとそんな気がします。一人の殿方のことが気になって仕方がなかったり、他の女性といてほしくないと思ったりするそれが恋です」


言われてみれば今彼女が言ったとおりだった。

井田がロザリアを撫でていた時に感じた、あれはきっと嫉妬だったのだ。


「…そうか。私は恋をしていたのか…そうか…フフッ」


「シャニ様?」


「いや、ありがとう。助かった」


シャニは立ち上がり、再度井田のところへ行く事に決めた。


分かってしまえば、もう悩む事はなにもない。


今度は引っ張ってでもここに連れてくる。


シャニは勉学だろうが恋だろうが全て全力でやることに決めているからだ。


そうしてシャニは歩きだす。


さぁ、いこう。私の初恋の人の元へ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る