5話 さようなら公衆便所、こんにちはペットじゃんね

白い少女ロザリアは目の前で倒れる男を見下ろし尋ねた。


「…どうしてウサギさん達を殺していたの?ねぇどうして?」


男は一命は取りとめてはいるものの満身創痍で動けない状態である。


「お…俺達人間は…生きていく為に動物を狩らなくちゃいけないんだ。必要なことなんだよ」


「…だから罪もない動物を殺すの?あんなにふわふわで可愛いウサギさんを矢で貫いて殺してしまうの?ロザリアよくわからない」


「……」


男は何も答えられず黙りこむ。


「…もういい。だったらロザリアがウサギさん達を守る」


そう言い、ロザリアはその小さな右手に持った巨大な鎌を振り上げる。


それを見た男は自分の死を受け入れ目を閉じた。


「マリア、ナタリーすまない」


そして鎌がハンスの首を切り落とそうとするその刹那


「そこまでだ」


突如二人の間に女が現れ、鎌を剣で受けとめた。


互いの刃がぶつかった瞬間衝撃波のようなものが発生する。


その際にハンスは気絶してしまう。


「…あなた誰?」


「私の名はシャニ・ドメイス・ロックハート。お前を葬る者だ」


両名がつばぜり合いをしている間に戦乙女のメンバー達が急いでハンスを退避させた。


「…ウサギさん達はロザリアが守るの。邪魔しないで」


「怪物風情が何を言う。お前達は壊す事しか出来ぬ化け物だろうが」


「…そんなことない。この山のウサギさん達はロザリアが守ってみせる」


両者は睨み合い一触即発の雰囲気を醸し出している。


(ヤベェあの娘マジで可愛いじゃん。怪物って聞いたから角とか生えてんのかと思ったけど普通の女の子じゃんよ。違いがあるとすればアルビノみたいに全身が白いことか。ぶっかけてさらに白くしてやりてぇなぁ)


一方すぐ隣で傍観しながらゴミのような思考をしている井田。


「おいイダっ、お前なんのつもりだそこをどけっ」


シャニが睨みあいながらたまらず怒鳴る。


「…あなた馬鹿なの?」


流石のロザリアも井田の行動が理解出来ないようだ。


「あっ俺のことは気にしなくていいんで。そのまま続けてくれていいんで」


井田は二人に指摘されるもどこ吹く風である。


「イダお前っ!後ろに下がっていろっ!」


つばぜり合いを続けながらも井田が邪魔で動くに動けないシャニ。


「…そう。死にたいなら死ねばいい」


だがロザリアはそう言うとつばぜり合いをいきなり解き井田に切りかかった。


「っ!イダっ!」


シャニはすぐに反応するも一瞬間に合わない。


そして井田の体は上と下の体が今生の別れ、にはならずいつもどおりであった。


ロザリアはそんな井田を何度も切りつけるが井田には傷ひとつつかない。


「…どういうこと。確かにロザリアはあなたを切ったのに」


「無駄だ。俺という観測者を傷付けることは君にはできない(いいからヤらせろや)」


「…観測者?それはなんなの?」


「世界の理を見通す者さ。俺はこの力で全てを観測する(お前の体の全てをな)」


「…世界の理。…なら教えて観測者さん。人間はどうして罪もない動物達を殺すの?」


「それは動物界でも同じだろう。自分より弱い者を食べなければ生きられないからだ。生きていくには食べなければならない。そして食べるということは殺すということだ(このガキも面倒臭ぇな。適当に答えとこう)」


「…でも、人間はロザリアの友達のウサギさんを殺した…」


「君だって何かを食べるだろう。だがそれには当然命がある。そしてその命にはきっと友達や家族がいただろうな(うるせぇなコイツ。ガタガタぬかしてんじゃねぇよ)」


「…それは…」


「生きるということは矛盾だらけだ。傷つけて傷つけられて何が正しいのかなんて誰にも分からない。だがな、きっと答えなんてどこにもないのさ。それは生きている俺達自身が作り出すもんだ。確かに友達を殺されたのは残念だが、俺達はただ殺すわけじゃない。俺達が食べ生きていけることへの最大限の感謝をこめているんだ(なんか自分でも何言ってるかわからないけど適当に丸め込んどけ、ガキだし)」


「…ロザリアわからないよ」


井田の(適当な)言葉に座り込み戦意を喪失するロザリア。


「…イダ、少しいいか?」


ずっと剣を構えたまま井田達を見ていたシャニが井田に小さい声で話しかける。


「イダお前一体何者なんだ。先程の鎌をすり抜けたのも全く避けているようには見えなかったが」


「言っただろ。あれが俺の力だ(どいつもこいつもうるせぇな。女は俺に尻つきだしときゃいいんだよ。男は死ね)」






井田の説得?によって誰一人の死者も出さずに済んだ一行はロザリアの処遇を決めかねていた。


「我々としてはこの危険な怪物を野放しにしておくわけにはいかないが、無抵抗の者を殺すのもしのびない。方法はともかくとして倒したのはイダだ。お前が決めろ」


言われて井田は考える。


(あれ、これヤれんじゃね)


「あぁ、コイツは俺が責任を持って面倒を見る(主に股間でな)」


「なっ!お前正気かっ!?こいつを飼うと言うのかっ!いくらなんでもそれはっ」


シャニは井田の発言に驚愕し叫んだ。


「飼うんじゃない。俺はこいつを一人の「人間」として育てる。こいつはまだ子供だ。何がしてよくて何がしちゃいけないことなのかまだわからないんだろう。だから俺がこいつを育てる(そしてたくさんご奉仕させる)」


シャニは井田が言う事を理解できないのかしばし考えた後、井田を鋭い目で見つめる。


「…わかった。お前がそう言うのであれば私に異存はない。だが覚えておけ?何かあれば私はそいつをすぐに殺すからな」


「はいよ。あぁ、あと少し俺に教えて欲しいことがあるんだが(あぁ、面倒臭ぇなぁ)」





それから数時間後、ハンスは自宅のベッドで目を覚ました。


「あぁ!あなた無事で良かった…」


「お父さんっ!お父さんがいなくなっちゃったらと思うと私っ!」


二人の家族に抱きつかれてハンスは生きていて良かったと実感する。


だが自分が何故助かったのかはわからない。


「…ぐすっ…お父さんこれなぁに?」


そんな時ナタリーがハンスの胸のポーチからはみ出る紙を見つけた。


(こんなもの入れていただろうか)


ハンスは不思議に思いポーチから紙を取りだし広げる。そこには汚い文字でこう書いてあった。


おっ世話になりもした。

こりからもお仕事頑張ってくださう。

あなたは奥さんっと娘さんっの大切な存在だす。

体には気をつけてくどさい。

それではさやうなら

イダより


「誤字が酷い…だが…私は彼になんてことを言ってしまったんだ…本当に申し訳ない…」


ハンスは目から涙を流した。それは嬉し涙でも悲しい涙でもなく後悔の涙だった。


「お父さん?何が書いてあったの?」


ナタリーはハンスが広げた手紙に目を通す。


「っ!イダさんっ!私探してくるっ!」


ナタリーは両親が止めるのも聞かず外へ飛び出した。



そしてナタリーが外へ飛び出していくのを見届けた二人の影。


「お前が文字がわからないから文字を教えるのは全然構わなかったんだがこれでよかったのかイダ。顔ぐらい見せればいいだろう」


「いいんだよ俺はもうあの家族には会っちゃいけないのさ(あー公衆便所に一発かましたかったぜちくしょう)」


井田はその場から反対に歩きだす。


シャニはそんな井田の後ろ姿を見る。彼の後ろ姿は少し寂しそうに見えた。


こうして明日へ向けていやいやながらも井田は歩き続ける。


(よっしゃああっ!女の子のペットGETォォッッ!!!)



これはそんな男の物語である。

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