3話 股間の為なら死ねるじゃんね
井田豊は面倒臭い事が大嫌いである。
それはどんな事柄よりも確実で揺るぎない事実であり、そして井田が思う面倒臭いこととは生きることである。
だが井田は今日もこうして目を覚ます。
「ふあぁああ、面倒くせぇなぁ」
井田は昨晩ハンスに言われたとおりに早朝に目を覚まし支度を整えはじめた。
この先の事など考えていないが、面倒臭いので考えようとは思わない。置き手紙でも残していこうかとも思ったが生憎日本とこの世界の文字は違っていたのであきらめた。
部屋を出て誰もいないリビングを通り玄関の扉を開ける。
「ごっ!」
開いた扉に何かが当たる感触がする。
見れば扉の向こう側で小太りの中年が頭を押さえ呻いていた。
「すまんな」
井田は面倒臭い事になりそうなので一言謝り中年の側を通り抜けようとする。人間性の欠片もない非道な男である。
「…あんた見ねぇ顔だがハンスさんとこの親族かい?実は大変な事になったんだ」
中年は井田の腕を掴み切羽詰まった様子で話し出す。
(うるせぇなこのデブ俺を巻き込むんじゃねぇよ!)
井田は内心悪態をつくも中年は落ちつきを取り戻しながら喋り続ける。
「実はハンスさんともう一人の仲間が少し前に山に狩りにいったらしいんだが、その一人だけがさっき傷だらけで帰ってきたんだ。なんでも山に女の姿をした怪物が出たって話だ。ハンスさんはその仲間を逃がす為に囮になったらしいが今ハンスさんがどうなっているかはそいつにもわからない。ギルドにはもう報告してメンバーが山に向かってる。最悪の場合、あんたたち親族に遺体を確認してもらうことになる」
「なんだって?女の怪物?それはどんな姿をしてるんだ?」
井田が食い気味に聞いてくるのを訝しげに思いながら中年は答える。
「なんでも凄く可愛い女の子の姿をしていたらしい。それで油断していたところを襲われたんだと」
そして中年は伝えたぞと言うと足早に去っていった。
井田は足りない頭で考えた。このままギルドが山の怪物を倒してしまうのは少しもったいないのではないかと。
せめてそうなる前に怪物のご尊顔を拝みたい、怪物がギルドメンバーに凌辱される様を明日のおかずにするためにこの目に焼き付けねば。
そうなれば性は急げである。怪物が倒される前に山に向かわなければならない。
全ては股間の為に。イエス股間。アイラブ股間。
井田は山に向け一直線に駆け出した。
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