2話 自分語りとか誰得じゃんね

(おれはお家に帰るぞ!公衆便所ーッ!!)


井田は非常に帰りたかった。出来るならば綺麗な女性の家(胎内)へと帰りたかった。


それもそのはずナタリーの家についていきながら股間を切磋琢磨していた井田の幻想があっさり打ち破られたからであった。


今井田の前にはナタリーの父親と母親がいる。


「ナタリーを助けていただき本当にありがとうございました」


「この娘は一人娘なのでこの娘になにかあったらと思うと…ありがとうございました」


「は、はぁ…」


(てっきりひとり暮らしなんだと思ってたが親と暮らしてるのか)


人から頭を下げられ慣れていない井田はむず痒い気持ちになる。はずもなく


「お父さんもお母さんもイダ様が困ってるでしょ。イダ様、すぐご飯を作るので待っていてくださいね」


(くそっ、なんてアットホームな空間なんだ。これじゃあ公衆便所と一発かますなんて夢のまた夢じゃんよ)


この後に及んでも相変わらずゴミクズの井田であった。


「そういえばイダ様はどこからいらしたのですか?見慣れない服装ですが」


井田のジャージを見て不思議に思ったのかナタリーの父親のハンスがたずねてくる。


(面倒臭ぇなぁ、お前の隣の嫁寝取んぞ?)


「日本です」


井田は異世界から来たことを隠す必要もないと思ったので正直に話した。


「ニホン?聞いたことない国だなぁ…マリアは聞いたことあるか?」


「いいえあなた、聞いたことありません。イダ様は私達が知らないとても遠いところから来たのですね?…イダ様?」


井田はナタリーの母親であるマリアのこぼれ落ちそうな胸の谷間を凝視していたのをマリアに気付かれてしまった。

人の話を聞く気がないただの変態である。


「イダ様夕食が出来ましたよ」


微妙な空気になったところにナタリーがやってきた。ナイスタイミングと言わざるを得ないだろう。

ナタリーは皿をそれぞれの前に置いていく。


「今日のメニューは野うさぎのソテーと野菜たっぷりのシチュー、それに赤ワインです」


皿には肉汁あふれるソテー、椀には野菜盛りだくさんのシチューが入っていた。赤ワインも鮮やかな色で食欲をそそる。


「ではいただくとするか」


そんなハンスの声で皆食事を始める。


井田も特になんの感慨もなく食事を食べ進めていく。

すると井田はナタリーがじっとこちらを見ている事に気付き面倒臭いと思いながらも食事の手を止めた。


「どうした?」


問われたナタリーは顔を伏せてしまう。


「いえ…イダ様があまりにも黙々と食べていらっしゃいましたので私の食事がお気に召さなかったのかと」


それを聞いた井田は


(面倒臭っ!食事くらい黙って食わせろよ、だから公衆便所なんだよお前)


「いや美味しいよ。こんなに美味いもの食べたことがない」


落ち込まれるのも面倒臭いので適当な言葉を並べた。クズの中のクズである。

その瞬間ナタリーは先程までの落ち込みが嘘のように顔を綻ばせた。


「ほ、本当ですかっ!良かったですイダ様に喜んでもらえてっ」


ハンスとマリアはそんなナタリーを見て少し嬉しそうな顔をしてうなずいていた。





食事も終わり井田がそろそろ帰るからどこか宿を教えてもらえないか?と言った時にナタリーの両親は井田を引き止めた。


泊まる場所がないのなら一日家に泊まっていけばいいと。

井田は断るのも面倒臭いなと思い渋々了承した。

一体何様だというのであろうか。

風呂も入り、案内された部屋のベッドで井田がくつろいでいると部屋の扉がノックされる。


「はい(誰だよめんどくせーな)」


井田が返事をすると扉が開き、現れたのはネグリジェ姿のナタリーであった。


「失礼します。イダ様少し良いですか?」


(ふぉぉぉっ!!!夜這いキター!!!)


「どうしたんだ?こんな時間に」


ナタリーは顔を赤くしながらベッドにいる井田の隣に腰掛ける。


「イダ様、今日は本当にありがとうございました。もしあのままイダ様に助けていただけなければ私はあの場で純潔を散らしていたでしょう」


(能書き垂れてねぇで早くヤらせろ)


「なぁイダ様って言うのはやめてくれないか。俺は様付けされるような人間じゃないからな。呼び捨てで構わない」


「そんな…いえ、わかりました。それではイダさんとお呼びしますね」


そう言ってナタリーは井田の肩に頭を寄せる。


ナタリーの風呂上がりの良い匂いが鼻腔をくすぐり、井田の腰のダムは決壊寸前になった。

そして井田がナタリーの肩に手をかけようとしたその時


「私お父さんとお母さんに恩返しがしたいんです」


ナタリーが唐突に語りだした。


(で、出たー!隙あらば自分語り!こういうの本当面倒臭ぇからやめてくれよ!)


井田が内心うんざりしている中、ナタリーは語り続ける。


「だから早く私が働けるようになって狩りを仕事にしているお父さんに楽をさせたいんです。そしていつか良い人を見つけて子供を授かって二人に見せてあげたい。それが私を生んでくれた二人へのなによりの恩返しだと思うから…」


井田がしばらくナタリーの話を聞き流していると隣から規則正しい寝息が聞こえてきた。

どうやらナタリーは眠ってしまったようだ。赤ワインで酔ってしまっていたのもあるかもしれない。


(チャンス!!ここでやらねば男じゃないじゃんよ!!)


井田はナタリーのネグリジェを脱がそうと再び肩に手を伸ばす。


「お父さん…お母さん…大好きだよ」


その時ナタリーが寝言を呟き満足そうに微笑む。

それを見た瞬間井田は気持ちが急激に沈んでいった。

あんなに抱きたかったナタリーの体も何か自分には触れてはいけない物のように感じたのだ。


(なんか抱くの面倒臭くなったわ。寝たいけど公衆便所がいちゃ寝れねーしな。部屋まで運ぶか面倒臭ぇけど)


井田は眠っているナタリーを起こさないようにお姫様抱っこしてナタリーの部屋まで運ぶ。


(あー重いな。この公衆便所体重何キロだよ)


そして、井田がナタリーをベッドに下ろした時、ナタリーの部屋の扉が開いた。


「やはりあんたはそういうヤツだったんだな」


そう言って立っていたのはナタリーの父ハンスであった。


(やっべ、見つかった)


「いやこれは部屋に公衆…娘さんが来て眠ってしまったので自分の部屋に寝かせてあげようと」


「言い訳は無用だ。ましてや娘のせいにするようなやつの話なんて聞きたくない。昼間のマリアを見るあんたの目を見た時からおかしいと思っていたんだ。あんた体が目的でナタリーを助けたんだろ?」


ハンスは怒りを殺したような声で言ってくる。


「いやそれは」


「…明日の早朝には出ていってくれ。仮にもあんたには娘を助けてもらった恩がある。だがナタリーには金輪際顔を見せるな。でなければあんたを殺す。わかったな?」


それを聞いて井田は否定するのも面倒臭くなり、わかったと了承し部屋に戻り眠った。

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