1話 公衆便所は公共のものじゃんね

(フ○ックしてぇなぁ)


井田は異世界の町を歩いている。

異世界に転生してすぐに井田は死のうかと考えた。


何故か。


答えは単純明快、井田という男は面倒臭いことが大嫌いだからであった。

異世界で生きていくことなど現実世界より面倒臭いにきまっているとこの男は思ったのだ。

だが今こうして井田は生きて歩いている。

そして何故生きているかというとそれはどうやっても死ねなかったからだ。

馬の尻の穴にわざと浣腸をしてバックキックされようが、馬の金玉を鷲掴みにして顔面を踏みつけられようが無傷だったのである。


これがチートの力なのかはわからないが結果死ねないことに変わりはないので井田はあてもなく歩くことしかできなかった。


異世界の町を見て通常の人間ならば驚きや感嘆の声をあげるのであろうが、井田にあっては心底どうでもいいことなので何を見るわけでもなく淡々と歩き続けている。


井田が脳内で体位をひたすら念仏していると男が女をナンパしている現場に出くわした。どうやらいつの間にか井田は路地裏に入ったようだ。


「なぁいいだろ」


男は焦れてきたのか女の手を掴んだ。


「きゃっやめてくださいっ」


女は抵抗するがその華奢な体では男の力には敵わない。

そのまま壁に押し付けられてしまった。

井田は今にも情事が始まりそうなその光景をただ眺める。


(自殺する前に抜きまくったけどもう溜まってきたなぁ。これをおかずにして後で抜くか)


そんな下衆なことを考えながら井田は男の真後ろで眺め続ける。最低のゴミ野郎である。

しかしそんな井田に気付いた男は女の服を脱がすのを止めた。


「なんだてめぇ、さっきからこっち見やがってケンカ売ってんのか?」


男は情事を邪魔されたことに腹が立ったのかいきなり喧嘩腰な口調である。


「ちょっとあんた何してんだよ(やめんじゃねーよ)」


井田もせっかくの情事が中断され思わず喧嘩腰になる。


「てめぇに関係ねぇだろ。痛い目見ないうちにとっとと失せろ」


「関係ないわけないだろ。女の人が襲われてたら見過ごせるわけないだろ(むしろガン見するじゃんよ)」


井田も負けじと言い返すが滑稽かな、会話が噛み合っていない。

とうとう相手の男は激昂し井田に殴りかかる。

しかし男の拳は井田に当たることはなく、空をきる。だが勘違いしないでほしいのは井田が拳をよけているわけではないことである。


男は井田に向けて拳をふるっているのに井田の顔スレスレを殴っているのだ。


さながら気が触れた者のように空中を殴り続けた男は疲れはて昏倒してしまった。


(甘いっ!甘いわっ!そんなんでへばってるようじゃ立派なAV男優にはなれないじゃんよ!)


この男は果たしてどこを目指しているのか。

そして井田はそのままその場を去ろうとする。


「あのっ待ってくださいっ!」


すると先程男に襲われそうになっていた女が井田を追いかけてきた。


女は井田の前まで走ってくると突然井田にその金髪の頭を下げる。


「ありがとうございました!おかげで助かりました」


井田は面倒臭いことになったなと思い適当に言葉を返す。


「いや別に(あーあ、犯されてるとこ見たかったなぁ)」


女はそんな井田の言葉を聞いて井田を謙虚な人だと勘違いしたのだろう。勘違いも甚だしいのだが。


「私ナタリーって言います。もしよろしければあなたのお名前を教えていただいてもよろしいでしょうか」


(名前覚えんの面倒臭ぇな、公衆便所でいいか。ちょうど犯されそうだったし)


「井田だ」


井田はクズの極みな事を考えながら答える。


「イダ…素敵な名前…イダ様ですね。この度は本当にありがとうございました」


再度ナタリーは頭を下げ、そしてナタリーの髪の毛や体からフワッと女性特有の匂いと仄かな汗の香りが漂ってきた。


井田は欲情した。必ず、このとめどない欲望を除かなければならぬと決意した。井田には恋愛がわからぬ。井田は、ただの童貞である。股間を扱き、股間と遊んで暮して来た。それゆえ性欲に対しては、人一倍に敏感であった。


(さぁ早く人気のないところに行き股間と遊ぶのだ)


井田はそう決断し去ろうとする。


「あのもしよろしければ私の家で夜ご飯を食べませんか?ちょうど買い出しの帰りだったので」


それを聞いて井田は考える。


(これもしかしたらヤれんじゃね?)


「ありがとう。世話になるよ(主に股間がな)」


こうして井田はナタリーの家に向かうこととなった。

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