井田物語~俺は戦いにならないチートで異世界を生きなきゃいけないらしい~

丸太郎侍

プロローグ

今男の目の前には怪物が立っている。

イノシシの頭、筋肉隆々の二メートルは越えるかという体、そして右手に持っている太い棍棒。

その凶悪な見た目はまさに怪物と呼ぶにふさわしい姿であった。


グオオオオオオオオッ


そして怪物は雄叫びをあげながら棍棒をその男の脳天に叩きつける。

普通の人間であれば頭がポップコーンのようにはじけてもおかしくない一撃。

だが男は全く微動だにしない、それどころか叩きつけた魔物の棍棒がへし折れてしまった。


「なにぃっ!?今まで一度も折れた事がないオレの棍棒がっ!貴様何者だっ!」


男はその死んだ目で怪物を見つめながら答える。


「…俺の名前は井田だ(お前喋れるんかい)」


そう、これはこの男「井田 豊(いだ ゆたか)」の物語。


井田物語である。


そして何故井田は今怪物と戦っているのか、それは井田が現実世界にいた時から話をさかのぼる。







「だからお前は何回言わせるんだよ、ここはこうだって言ってるだろう」


「すいません…すいません…(はぁ…もう会社での人間関係疲れたな…なんで同じ人間なのにヘコヘコ頭下げなきゃいけねぇんだよ。だったら腰ヘコヘコしたいじゃんね)」


この井田という男、目が死んでいる以外は真面目そうな見た目とは裏腹に相当なクズであった。

井田は会社が終わると夜の道を一人歩く。


(はぁ…空から女の子でも降ってきて俺の事見ていきなり発情して犯してくれねぇかな)


井田がどうしようもないことを考え歩きながら、ふと横を見ると道路の真ん中に成人雑誌が落ちているのを見つける。

そしてこの男は非情に性欲に従順な男であった。

雑誌が目にはいるや否や一目散に道路へと駆け出す。


トラックが横から迫っているのにも気付かずに。


衝撃は一瞬で井田は地面をバウンドして近くにあった公園に飛んでいき地面に不時着、尻を上に突き出しながら死ぬという壮絶な最後を遂げた。


そして井田は自分がいつのまにか白い空間にいることに気付く。


「…ここは天国か?」


井田が辺りを見回していると目の前に白い服の男が現れる。


「私は神、理由はめんどくさいから省くけどお前を異世界に転生させるから」


男はそんなキテレツなことを井田に言うが、ほとほと生きていくことに疲れていた井田は即拒否する。


「いやもう生き返りたくないんで、めんどくさいんで」


男は面倒そうな顔になったあと何も聞かなかったかのように続ける。


「じゃあ、チートを1つやるから適当に言ってよ」


「…マジで転生したくないんです、転生だけは勘弁してください。異世界って戦ったりするんですよね?もうなにもしたくないんです。お願いしますこのまま死なせてください」


井田は土下座をして男に懇願する。プライドも糞もあったものではない。


「わかった。戦いにならないチートをお前にやろう。じゃあ転生させるから頑張ってー」


男が手を振ると井田の体が後方から引っ張られる。


「お願いします!異世界に転生したくないんですお願いしますお願いします!」


慌てた井田は男の片足にすがりついて最後の悪あがきをする。


「痛い痛い!足がとれちゃうっ!離せっ!」


男はすがりつく井田をなんとか引き剥がそうと足で蹴りつける。

そして虚しくもすがりついていた井田は手を離してしまい後方の渦に引き込まれていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る