⑭えっ俺戦うん?
「ファスト様に頼みがあるのです。お願いしてもよろしいでしょうか」
「駄目です」
この間わずか0.02秒である。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!ブリブ(ry
「そのネタ汚いんでやめてもらっていいですか……?なんで異世界にまで進出してんだよあの弁護士……。」
ア゛の数が違うのはまあ仕方ないな。それはそうと、マジでなんで異世界にまで知れ渡ってんだあの弁護士……。
「唐澤〇洋さんのことですか?私もよく知らないのですが、聞いた話によれば、姿が見えないという厄介な、しかも途方もない数の敵にケンカを売ったらしいですよね!本当にかっこいいです!惚れてしまいます!」
「う、うん、まあ……そうだね。」
結果としてめっちゃいじられてるけどな。そういや俺も一時期ハマったなー。
「私、ファンなんです!本気でカッコいいですよね!」
「う、うん。」
若干引く俺。
「結婚するんだったら、唐沢さんみたいな人がいいですね。……まあ私、とっくの昔に婚期は過ぎてますけど。」
「う、うん。」
「というわけで、戦ってくれますね、ファストさん!」
「う、うん。……って、しまったあああああああああ!」
「言質取りました♡」
そういうクレイさんの手には、いつの間にか黒色のICレコーダーが。
しまった、完全に嵌められた!てか『言質取りました♡』ってどっかのラノベでみたことあるような気がするんだが………大丈夫かこれ。
「やっと了解してくれました~!よかったよかった。」
「いや、なんで俺が戦う話になってるの?」
「……?」
「『……?』じゃないよ!そう言いたいのはこっちだよ!」
笑顔で首をかしげるクレイさん。マジでこの人悪魔や……。
「えっと……、説明、要ります?」
「むしろ要らないと思ってたの⁉」
それはさすがに予想してなかったよ!想定の範囲外だよ!さすがに説明くらいあると思ってたよ!
軽くショックを受けている俺をよそに、クレイさんは説明を始めた。
「じゃあ簡単にご説明いたしますね。まず、この国の貴族の中で、特に大きな権力と資金を持った貴族が二人いらっしゃいます。ウェスト様とベルモンド様です。ファスト様はご存じないかもしれませんが、彼らの支払う税金によってこの国の財政が成り立っていると言っても差し支えないくらいです。」
「やばいな。」
二人で国を動かすとか半端なくない?てか前国王死んだんならもうそいつらが王様でいいじゃん。アルと俺のことはほっといてくれればよかったのに。そうすれば日常系で話が続いてっただろうから俺も戦わなくていいしアルもたくさんの仕事に疲れなくていいし最高じゃないか。
「実はそういった話も出てはいたのですが、当のお二人が『王族の方がまだいらっしゃるのに僕たちが王になるのは国を乗っ取ったみたいでダメだ!』とかなんとか言い出しまして……」
「わーお。ありがた迷惑ぅ。」
「まあ、それは置いておくとしてですね。ファスト様にお頼みしたいのは、ウェスト様に関することです。」
そう言うと、クレイさんは片手を口に当て、声を潜めて
「実は、ウェスト様がひそかに国家転覆を企んでいるとの情報が諜報部に入ってきております。」
「………………マジで?」
「真偽のほどは不明です。もちろん私共が城を守るためにおりますし、軍もあることですからウェスト様一人だけでの国家転覆は無理です。しかしその情報ではウェスト様は他国の人間と手を組み、水面下で新兵器の開発を行っているらしいのです。いくら私たちの方が単純兵力で優っていても、万が一ということがあります。ましてや新兵器がもしも魔法に関連するものだった場合、その兵器一つで簡単に国が崩壊してしまうかもしれません。とにかく情報が欲しいです。そこで潜入調査を行いたいのですが、一つ問題があります。何があろうとも、絶対にウェスト様に見つかってはならないということです。」
「『絶対に』……?」
「はい。先程申し上げた通り、ウェスト様は強大な財力を持っております。万一潜入捜査がばれ、しかもウェスト様が何もはかりごとなどしていなかった場合、まず間違いなくウェスト様はお怒りになられるでしょう。そしてその流れでウェスト様からの税金がなくなったら――――」
「―――国が、動かなくなる。」
「理解が速くて助かります。」
つまりは資金源をキープしたい、でも資金源の腹の中を探りたい、ってことか。
「で、どうしますか。今度は本気ですよ?」
クレイさんが、俺の顔を下から覗き込むようにして言ってくる。
俺は少し考えてから、クレイさんの顔をしっかりと見据えて、
「わかりました。やりましょう」
「そう言ってくださると思っていましたよ。まああなたの場合だともしもこの国で反乱が起きたら、守りたい人が確実に争いにまきこまれますしね。」
「………………」
クレイさんは、図星をつかれ若干照れて黙り込んだ俺に背を向けて
「では、これで失礼いたします。あ、あと……」
と、振り返ると、
「アルセイフ様との『お楽しみ』は、ほどほどにしておいてくださいね?」
と、にっこりと笑って言った。
………見透かされてる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます