④王国騎士の華麗なる×××

「さっさと俺とアルを日本に転生させろ。」

俺は『黒山羊さん』を睨みつけた。

そんな俺とは対照的に、『黒山羊さん』は怖いほどやさしい微笑を浮かべると、一瞬だけ、遠くを見るようなそぶりを見せ、少し考え込むと、

「…いいよ。」

「ならば実力行使しかない……って、え…!?」

まさかの許可であった。

クライマックスこんなんでいいの、というくらいの。

何かもうちょっとこう…激しい戦いとか無いの?

「そう思ってんだったら戦ってもいいけどね。」

「俺の心をナチュラルに読むな!」

全く、気を抜く暇がないな。

怒る俺をけたけたと笑ってやり過ごす『黒山羊さん』。そんな『黒山羊さん』に、俺は前々から考えていた疑問をぶつける。

「お前に聞きたいことがある。なぜ俺を呼び出した。なぜ呼び出せる力を持っている。そして、お前の最終目的は、なんだ。何がしたいんだ。」

「質問が多いなあ。まあいいや。まず一つ目の質問の答えは、『楽しめと』だよ。」

「命令…?誰にだ。」

「『神』だよ。」

「なぜ神に命令された。」

「あの時、僕が最初の【転生者】として呼び出されたとき、言われたんだ。力を貸してやるから楽しめ、ってね。これが二つ目の質問の答えだ。」

「………。」

「何もないなら、三つ目の質問の答えね。『楽しみたい』。どうせ『神』に操られるんだったら、楽しまなきゃ損じゃないか。それに僕はもうすぐ死ぬ。今日中にね。そういうことになってるんだ。」

「なぜわかる。」

「直感。」

なぜ直感できる、と聞きかけた俺よりも早く『黒山羊さん』が再び口を開いた。

「………僕には、大切な人がいたんだよ。あの人のことは今でも大切に思ってるし、それだから帰りたいっていう願望もある。でもそれはかなわないんだよ。僕は選んでしまったから。生きる道を。生き残って『神』の駒となる道を。結局僕は、彼女がいなくても生きていけたんだよ。あんなに、あんなに。好き、だったのに。はは、所詮僕の『愛』なんてちっぽけなものだったんだよ。」

それっきり、『黒山羊さん』は黙り込んでうつむく。

顔は見えないが………泣いているんだろう、きっと。

よっぽど好きな人だったんだろう。『あの人』が途中で『彼女』に変わって行ったことに、黒山羊さんは気づいていなかった。

俺はずっと『黒山羊さん』を恨んできた。だけど恨むべきは、もっと別にいるのではないか。そういう気持ちが俺の中で芽生える。

俺はだれを恨むべきなんだ。『神』か?いや、『神』も操られている可能性がある。

確実に言えるのは、俺は俺たちをもてあそんで、ほくそ笑んでいやがるくそ野郎を許さないということだ。絶対に。その心臓に風穴を開けるまで、俺は死ねない。

黒山羊さんは、ようやく顔を上げると、

「すまない。取り乱した。」

その目は充血していて、やはり泣いていたんだな、と場違いにも感じてしまう。

黒山羊さんは、もう一度目をこすると、俺に問いかける。

「まあ、それで?君は?」

その時だった。

突然、バアアン!と音を立てて教会のドアが開かれた。思わず後ろを振り向いた俺が目にしたものは、竜。

双頭の竜をモチーフにした金色の紋章が乱入者の胸で輝く。

「ピュ…ピュリオンナイト!?」

王国内最強の、騎士軍。

一騎で小国一つを滅ぼすほどの実力を持つと言われる、【超難職アブソリュート】の一種。

まさに最強の騎士。ちなみに顔もその職にふさわしくゴツイ。

例えるなら………髭を全く剃ってないシュワルツェ○ッガーである。

シュワちゃん、元気かな。別に知り合いじゃないけどね。

イケメンである。外国人のイケメンってかっこいいけどゴツイよね。

そんな騎士たちは、周りを見回すと、ある一点で視線を止める。アルだ。

そしてそのまま、周りにいる俺たちには目もくれず、一直線にアルへと向かって歩いて来る。やばい。怖い。ターミネーターかよ。

気のせいか、彼らの靴の奏でるリズムまでがタタンタンタタン、といっているように聞こえる。

「アル、下がれ。」

俺は慌ててピュリオンナイトとアルの間に割って入った。

がしかし。

「どけ。」

早―――――――――――

ドガッ!

俺は一瞬で教会の壁にたたきつけられる。

「ゴッ……ハッ……!」

衝撃で肺から酸素が押し出され、うめき声すら出せない。

床にずり落ちた俺は、アルを守るため立ち上がろうとするが、

「ファスト!」

アルの悲痛な叫びが響き渡り、俺はそのまま膝から崩れ落ちる。

全身が痛い。立ち上がれない。体が動かない。

俺は痛みに耐えながら首だけを動かしてアルのほうを見る。

と、そこには。










「姫様!どうかお戻りください!」











アルに土下座している、ピュリオンナイトたちの姿があった。

「………えっと、どういう状況ですかね。」

思わず痛みも忘れてつぶやいた俺だった。

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