⑤王女→女王おおおお!!!!???

なかなかお目にかかれない光景であった。

最強の騎士軍であるピュリオンナイトが、一人の少女に向かって、完璧な姿勢でDOGEZAをかましているのだ。

うん、さすが『イケメンのるつぼ』と称されるピュリオンナイト。DOGEZAの姿勢まで美しい。……などとあほなことを考えている場合ではない。

「えっと……アル、なんかした?」

「え、あ、いや………特に……」

アルに聞いてみるものの、覚えがないという返事。

ちなみに俺の傷は『黒山羊さん』が即効性回復魔法をかけてくれた……のだが、まだダメージは残っていて、背中から腰にかけて鈍い痛みが走っている。どうやら手加減無しでやられたようだ。ふざけるなよピュリオンナイト。

まあ、もちろん後で仕返しはするつもりだが、今はそれよりも聞かなくてはならないことがある。

「『お戻りください』ってどういうことだ?」

俺は未だDOGEZA続行中のピュリオンナイトに向かって聞いてみる。

「………。」

目標、沈黙を維持!

「聞こえてるか?」

「………。」

「てめえ耳聞こえてんのか?おおん!?」

「ファスト、チンピラみたいになってるよ……」

だがしかし、沈黙を保つピュリオンナイト。のリーダーっぽい人。

「俺じゃだめだ、らちがあかん。アルの命令は素直に聞くんじゃないか?」

「ご命令を。」

「やっぱりなあ!」

俺、こいつらに人と思われてない疑惑発生中です。

「『お戻りください』ってどういうことなんだ。説明しろ。」

「話せることと話せないことがありますが……」

「すべて包み隠さず話せ。」

「ですが王女様―――――」

「うるさい。僕は今、大事な人を傷つけられて怒っている。さっさと話せ。」

アルがキレ気味に返す。が依然として隊長は話すのを迷っているようで、何かを考えているような顔をしていた。

それにしても……可愛い奴め。俺の口元が緩んでしまったのはお前のせいだぞ!シリアスな場面なのに、顔がにやけちゃうだろ!

折角だ。隊長が話し始めるまでの間に仕返ししてやろうじゃあないか。

俺はアルの耳元に顔を近づけ、「今夜は多め。」とだけ呟く。

それだけで十分だった。

ボッ!という音を立てそうな勢いでアルの耳たぶが真っ赤になる。仕返し、成功!

俺は今度は別の意味でにやにやと笑ってしまう。ああ、可愛い。

しかし、俺の優勢は一瞬で終わりを告げた。

アルがこっちを向くと、真っ赤な顔のままでボソッと「……期待してる。」と呟いたのだ。破壊力満点である。おおっと!?俺の可愛い息子が高揚の余り天高くガッツポーズをとろうとしているぞ。ヤバいな。シリアスな場面でスタンドアップしないでくれよ?

俺は耐え切れずに目をそらしてしまう。それを見たアルが、勝ち誇ったような満面の笑みを浮かべた。チクショウ。また負けた。せめてもの抵抗で今晩は寝かせないぜ。俺のパンツァーファウストが火を噴くぜ。

……リア充もげろとかいう声が聞こえて来たけど無視。

ちなみに『黒山羊さん』は、俺に回復魔法をかけると「用事を思い出しました」とか言ってどっか行った。あの野郎、めんどいのを嫌って逃げたに違いない。

と、ちょうど俺たちが攻防を繰り広げ終えたところで、今まで沈黙を保っていた隊長が口を開いた。俺とアルは慌ててそちらの方を向いた。

「わかりました。お話しましょう。」

「あ、ああ。」

「真っ赤になった顔で言っても威厳がないぞ、アル。」

「君もだ、ファスト。」

「えっマジ!?」

「マジだって。鏡見てみ?」

「うわああいっそころせよおお!!!」

「ファスト、それ、元々は僕のセリフ。」

再び会話をし始める俺とアルを見て、隊長がしばらく視線を空中に迷わせた後、恐る恐るといった感じで聞いてくる。

「あの……お邪魔……ですか?」

「「うん邪魔」」

即答。

一刀両断にされた隊長は寂しそうな顔をすると、仕方なく命令に従おうとしたが、教会を出て行こうとしたところで放たれた、「冗談だってwww」というアルのセリフになんとも言えない絶妙な表情を浮かべた。

いと、あわれなり。

アルと一緒になって笑っていたのはアルの横にいた男だったような気がするが、その男はいったい誰だったんでしょうねえwww

たしか「本気にしてやんのプギャー」とか言って煽ってた気がするなあ。

さてと、

「本題に入ろうか。」

「本題に…ああ!先越された!」

「へっへーん。」

「こいつー!」

「………どうぞそのままイチャイチャしていてください。一生。」

唐突にブチ切れられた。

そんな隊長に対し、アルは隊長の肩に手を置くと、

「はは、そうおこらないでくれよランパード。ちょっとふざけただけじゃないか。」

「姫様は昔からおふざけが過ぎます!本気かと思いましたよ!」

「僕がお前のことを忘れてるはずがないだろう?」

「一瞬忘れられてるのか不安になりましたがね!?」

おおっと。なんだかなれなれしいぜ。

あれ、なんだろ、この感じ。久しぶりに会った……友達みたいな。

「えっと、二人は……」

「ああ、知り合いだよ。」

「ええっ!?」

驚く俺。マジですか!?

このイケメン(ジョニデ似)が、アルの知り合いだと!?

もしかしてだけど二人って前は……?いや、無いだろ。無いと思う。無いでほしい。

大混乱に陥る俺。

「紹介しよう、僕の世話係だったランパード。」

ああ、世話係ね。

俺はアルの説明によって何とか理性を立て直す。

がしかし、真に驚くべきはそこではなかった。

「ランパード・パトラッシュです。以後、お見知りおきを。」

「パトラアアアアアアッシュ!!!!!」

アルと隊長が知り合いだったと知った時よりも驚く俺。

まさかここまで来て日本における不朽の名作アニメに出会ってしまうとは。日本人なら誰でも見たことがあるだろう?フラン○ースの犬。

ほとんどの人が、ラストシーンは涙なしでは見れないであろう。かくいう俺も、十二歳で初めて見た時は「パトラアアアアアアッシュ!!!!」と叫んだものである。

久しぶりの再会(人違い)の余韻に浸っていると、アルが俺の紹介を始める。

「で、ランパード、こっちがファスト。僕の、えっと………」

お前まさか余計なこと言うつもりじゃ――――

「……婚約者。」

やめろそれは地雷だ!と叫ぶ間もなく、アルが思いっきりスイッチを踏んだ。

「ほほう…?」

ほらねやっぱり!娘はやらん状態じゃん!

今にもちゃぶ台持ってきそうじゃん!あ、持ってきた!どこから持ってきたんだ!?

「初めまして、ファストくん?」

ねえなんで語尾が上がってんの!?

なんで疑問形の時の発音なの!?こわいよ!

「は…じめまして。」

俺は戸惑いながらも握手をする。

ぎゅううううっ!と握力の限界を試すかのような力で握ってくるランパード。

「いたたたた!」

「ああ、すみません。少々力を入れ過ぎてしまった。(棒)」

握られていた右手には、指の形がくっきりと。……うわあ、都市伝説に出てきそう。

怖いよこの人!?とてつもないファザコンだよ!?

今もちゃぶ台と俺を交互に見てるし!

あ、なんかを素早く持ち上げてから投げる動作の練習をし始めた。

満々じゃん。ちゃぶ台を返さずに投げる気じゃん。

怖いので、この話題から必死に話題をそらす……てか今更気づいたけど、これタダの雑談大会じゃないか!

あ、ほら見て!?隊長以外のピュリオンナイト皆暇を持て余しちゃってるよ!?ほっといてごめんね!?

ああ!頼むから教会の備品でサッカーしないであげて~!

「サッカーやろうぜ!」

やめろ!そのネタはあかん!あそこの会社は結構うるさいんだよ!

危険を感じ取った俺は、すぐさま話を終わらせることにした。

「はい雑談終了―!で、ランパード、なんでアルを連れ戻しに来たの!?」

「ああ!そうじゃった!」

気づいたランパードの顔が、途端に険しくなる。まるで、伝えることをためらっているかのように。

やはり、悪い知らせか。

「いいですか、姫様。落ち着いて、聞いてください。」

と前置く。アルにというよりかは、自分に言い聞かせているようだった。

「わかった。」

途端に真剣な顔になったランパードに、アルも緊張した面持ちで答える。

ランパードは、一回深呼吸を入れると、


「お父上のあとの、王が、亡くなられました。」


「っ!そうか。」

アルがこわばった顔で答える。

「だがなぜ僕の元に?本妻と男子がいたじゃないか。」

「………全員、殺されました。」

途端にアルの顔にしわがよる。

「ほかの王族は?」

「申し訳ございません……。」

そう言った時のランパードの表情は、これが最悪の事態であることをはっきりと示していた。

「誰にだ。」

「分かりません。しかし他国の者であると考えられます。」

スパイを送り込み、重要人物を先に殺しておいて指揮系統を麻痺させてから国を乗っ取るという手口は、もはやマニュアルといっても差し支えないくらい手あかのついた手口である。まんまと引っかかった前国王は相当の間抜けだろう。

「…………………それで僕にどうしろと。」

「戻って王座にお就きください!どうかお願いいたします!もうすでに他国から、われわれに不利な協定を結ぶよう、かなりの圧力がかかってきています!このままでは我が国は属国と化します!民が苦しみ続けることになります!アルセイフ王女様!どうか民に救いをお願いいたします!幸い、指揮系統はまだ持っています!ですがいつ崩れるか分かりません!その時には一斉に反乱がおこり、民が犠牲になります!今のうちに指揮系統のトップにお立ちください!」

「矢面に……立てというのか…………!?」

「申し訳ありません!民を……民を救ってください!」

ランパードはアルの前に座り込むと、……正座し、頭を床につけた。つづけてピュリオンナイトたちもそれに倣う。

異様な光景だった。

「どうか…お願いいたします!」

迫りくる何かから必死に逃げるかのように、床に顔をこすりつける者がいる。

ただひたすらに頭を床に打ち付けている者がいる。

最初の時とは全く違う、プライドをかなぐり捨てた土下座。

それだけ切羽詰まっているのだろう。それだけ民を想っているのだろう。

そして、それを見ている俺の姫様は、


「顔を……上げろ。」


やっぱりな。そうだよな。

お前ならそう選ぶと確信してたよ。

「僕にできることなら……何でも言え。」

「「「「姫様!」」」」

騎士たちが涙でぐじゃぐじゃになった顔を上げる。

その顔には、ようやく差し込んできた光を追い求めるような期待感があふれていた。

「君たちの気持ちはよく分かった。僕も協力しよう。ただでさえ一度国を捨てているのだ。僕は二度も民を見捨てることはできない。」

ピュリオンナイトたちが一斉に頭を下げる。

その耳元でアルが二言三言何か話伝えると、ピュリオンナイトたちはいっせいに敬礼をした。

そして一礼すると、教会から出て行く。

教会の中には俺とアル、二人だけが残される。

静寂が立ち込めるこの聖なる空間で、俺とアルは見つめ合う。

アルは俺をしっかりと見据える。

その瞳が俺の眼の奥を見る。俺も負けじと見返す。

長い、長い静寂が続き――――このまま時が止まるんじゃないかと思った時――――アルは、切り出した。


「ファスト。」


「行くな。行ったら…。」


その先は恐ろしくて、進むことができない。言ったら、本当になりそうな気がして。

逆に、言わなければ、アルが、死なないような気がして。


「なあ、民って、お前にとってそんなに大切なものなのか!?他人だぞ!?そんな奴らのために…………お前に、命を懸けてほしくない。」


虐げられてきた。俺は。ずっと。そうしているうちにわかったことがある。

この世界で自命を懸けて守るようなものは一つだけだ。自分の大事なものだけだ。


「そう……だね。でも、ごめん。僕は…………見捨てられ……ない。」


アルはとぎれとぎれに言葉を紡いでゆく。透明な液体が頬を伝って床へと落ちる。


「俺と一緒に行こう。帰るんだ!俺の世界に!いっしょに暮らして、いっしょに馬鹿やって!……………………いっしょに、生きてゆこう。」


俺の視界がぼやける。目が見えない。アルの姿をとらえられない。


「アル!」


最後の、叫びだった。俺は叫ぶことで聞こえなくしたかったのかもしれない。


「ファスト。好きだよ。だから、別れて?」


「………。」


恐れていた。一言を。


「どうしても、変える気は、ないんだな……?」


「うん…。だからファストは向こうに帰って。今を逃したらチャンスはないから。」


黒山羊さんは、今日に死ぬと言っていた。状況からして、嘘を吐くメリットはない。術者である黒山羊さんを失えば、当然ながら向こうへ帰ることはできなくなる。

戦争は今日中には終わらない。殺し合いがそう簡単に終わるわけがない。

だからアルは言った。帰れと。今じゃないと帰れないんだよ、と。

だから俺は思った。


ああ、上等だよ。と


「…………るよ」


「えっ?」


「やってやるよ。隣の国のくそ野郎共をぶっ殺して、国を作っていく最中にアルも俺も死ななければいいんだろ?」


「え、ファスト…………?」


「行くぞ、国に。」


「正気!?帰れなくなるんだよ!?」


「嘘ついてるんだって!よしんば死期が近かったとして、戦争一つ終わるまでくらい生きてるだろ!」


「それでも死ぬかもしんないじゃん!そもそも戦争で死んだら?戦死しなくても、国が負けたらファストは殺されるんだよ!?ファストは家族に会いたくないの!?」


「ああ、会いたくないね。反吐が出るほど嫌いだよ!」


会いたいとも思わない。これは本心。俺に関心がなかった家族。俺が学校で何をされようと、何もしてくれなかった家族になんて――――――――


「じゃあなんで泣いてるんだよ!」


はたと気づく。あ、俺なんで泣いてるんだろう。会えなくなるかもしれないから?いやでもそんなはず。無い。


「あ、ああ………。そっか。」


これは。そういう涙か。


「ほらやっぱり帰りたいんじゃないか!帰れ帰れ!僕は実は最初からファストが嫌いだったんだよ!ほら分かったか!?さっさと帰れ!お前が消えようが何しようが僕は全く傷つかない!ファストなんか大っ嫌いだ!嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い……!!!」


「うるせえ!」


俺は、泣きながら嫌いと連呼するアルを抱きしめる。そして、無理やりその唇に自分のそれを重ねる。


「むごっ!ももも!もももも!」


なんか言ってるが、無視である。

アルが足をばたつかせて抵抗してくるが、俺は唇を離さない。

それどころかさらに強く押し付ける。

アルが本気でもがく。だが無駄な抵抗だ。

アルを落ち着かせるためのキスなので、アルが抵抗を続けるほど、どんどん時間が延びていく。―――――――――






―――――――「はあ…はあ…やべえ、酸欠だ…………。」

延びすぎぃ!!

やっとアルが抵抗しなくなった時には、俺ももう疲れ果てていた。アルも抵抗のし過ぎで体力を消費したようだ、押し倒された体制のまま動かない。

俺が息を整えた後も、アルはそのままだった。予想外に効きすぎたようだ。


「あのさ、アル。」


「なに?」


とりあえず生きていたので一安心である。酸欠で倒れたりしたらシャレにならない。

生存確認が取れたところで、俺はかねてより気になっていたあの問題について聞いてみる。


「嫌じゃなかった…よな?」


「そこ気にしてたんかい!」


アルさんの鋭いツッコミが入る。


「いや、まあ、嘘だよな、とは思ってたんだけどね……。女心はわからないから。」


「これでも?」


抵抗する間もなく押し倒される。そのままアルの顔が近づいてきて、唇同士が触れたところで止まる。「はいわかりました」とだけ返すと、クスリと笑われた。


「あーあ迫真の演技だったのに。アカデミー賞モノの『嫌い』だったのにな…。というか、あそこは察して帰れよ。君のことを気遣ってたんだからさ。」


「あのなあ、気づいてないようだから言っておくとだなあ、俺は別に帰りたいなんて思っちゃいないんだよ!」


「じゃあなんで泣いてたんだよ!」


「決別の涙だよ!」


「ほらやっぱり帰りたいんじゃん!大切なんじゃん!」


もう何言おうと墓穴である。泣いてしまったのは事実。実際、俺自身帰りたいとは少なからず思っている。

だが、それより大切なものがある。故郷を捨てても守りたいと思う人がいる。

だから俺は、否定した。


「違う!お前が!必要なんだ!俺の!人生には!」


「へ!?」


「いいか、言うぞ!?あのな、俺はな――――――――


言うが早いか、俺はアルを強く抱きしめる。痛いよ、とアルが言う。反射的にごめんといって手を緩めると、緩めないでと返された。アルは今度は抵抗してこなかった。

それがうれしくて、でも同時に照れくさくて、赤くなった顔を隠そうとした俺は、ただ一言、どっちだよ。まあ、どっちでもいいけど、と返す。

緊張感のなさでしょ、とアルが言う。

確かにその通りだったので、俺は苦笑してしまう。

こんな真剣な話をしてるのに、すぐにいつもの調子に戻るこの空気が好きだ。

アルと作るこの空気が。

逃げているだけだと言われるかもしれない。でも、俺にはそれが必要なんだ。

アルが再び真剣な顔になると、俺に目で続きを促す。

自然と俺も真剣な顔になる。

そして、すうっと一呼吸置くと、


「お前のためなら戦う。」


それはきっと、『才能』のない俺にとっては、死を意味する、告白で。

だからこそアルは拒む。


「…………才能のないファストじゃ無理ゲーだよ。ついて来ても死んだら意味ない。これが最終通告。帰って?」


じゃあ、なんで涙ぐんでる。

既にアルの目には涙がたまっている。淵を乗り越えることこそまだだが、もう限界じゃないか。それは俺に言ってほしくないからじゃないのか。

わかった、帰る、と。

俺にとって最もつらいのは、お前の要望に応えられないことだよ。

だから俺は決める。

そして、宣言する。


「無理ゲーだろうか知ったことか。俺は必ず生き残ってお前の国を救って……お前と一緒にこの世界で暮らす。」


その言葉にアルの涙腺が決壊する。


「っ!なんで…そこまでっ………」


手で顔を覆うアル。指の隙間からあふれ出す雫。

その質問に、俺はただ一言。


「お前が好きだからだ。」









アルは長く沈黙する。

長く長く、押し黙って。










「…………任せて……い…いの?」


涙に邪魔されてとぎれとぎれにの質問だった。

震える声でなされるその質問に、俺の返す答えは一つしかない。

すなわち――――


「任せろ。この命、存分に使ってくれ。どんな命令をされても必ずやり遂げる。」


――――肯定。

俺の返事に、アルは顔をほころばせる。俺は涙と鼻水ですごいことになってしまっているその顔を、服のそででふいた。

涙が引いてゆくと同時、徐々にアルの表情が落ち着いてゆく。

そしてアルは顔の前で手を一振りする。それと同時、泣いたせいで充血した目が元の深い紫色に戻ってゆく。

完全に元に戻った後、二、三度深呼吸をしたアルは、目をこすると、まるで百戦錬磨の指揮官のようなピシッとした声音で俺に話しかける。


「これより、新兵、ノトリアル・ファストに命令します。」


ここでアルは一呼吸間を置き、深く息を吸ってから


「アイリス・ロット・アルセイフを馬車まで案内しなさい。」


「了解しました!」


俺はアルの手を強く握ると、手をつないだまま教会の入り口に向かって歩く。


「ご案内いたします!」


「はい、ご案内されます。」


「っ!!!」

アルの満面の笑みにすっかり照れくさくなってしまった俺は、アルから離れると、出口に向かって歩き出す。

その手を後ろから追いついてきた小さな手が握る。

二人は並んで教会を出……






















……たところで、ファストだけが立体起○装置を付けたランパードに連れ去られた。

「ファスト―――――っ!!!!」


その後、ファストは教会の中で何があったか根掘り葉掘り聞かれ、キスの件できついお仕置きを受けた。ファストの名誉のために詳細はふせる。

ファストはその後三日ほど尻が腫れ、アルの中のランパードの株は大暴落を起こした。

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