②女子が巨乳って連発すんなよ
「ファスト、ところで結局どこに行くんだい?」
町の門を(非合法に)出たところでアルがそんなことを聞いてくる。
「ああー。そういや決まってなかったな。」
当てのない旅ってのも悪くないし、このままぶらぶら行ってたまたま見つけた安息地で暮らすってのもいい響きだ。どっかにゃあるだろ、安息地くらい。
そう決めた俺がそのことを言おうとすると
「なあ、ファストって巨乳好きか?」
…なんてことを聞きやがるんでしょうかこの元・姫様は。
好きかと問われればもちろん好きだが…
「そうか…。」
俺がなかなか答えないのを見て、どこかあきらめたような顔をするアル。
「ファストは巨乳好きか…。」
おいマテ、決めつけんな。確かに巨乳の重量感はいいが、貧乳だけど一生懸命頑張る姿もまたなかなかいいもんだ、って何考えてんだ俺は。
「―――前に好きって言ったくせに…。――」
「ん?なんだ?」
ちょうど風が吹いたせいで聞き取れなかった。
「あのね、ファスト。僕は巨乳になりたい。」
「なぜだ。」
「僕の胸、はっきり言ってぺったんこでしょ。下着も男物でいけちゃうし…。それはそれで楽なんだけど、男の人はみんな巨乳が好きなんでしょ?だったら巨乳のほうがいいんじゃない?」
「……お前はあほだな。」
「突然のアホ呼ばわり!?」
「男にモテてもなんもいいことないぞ。」
「でも…ファストは巨乳がいいんでしょ!?」
「なんでそこで俺が出てくんだよ…。」
まったく訳が分からん。
「あっそ!」
あ、すねた…。俺なんか悪いことした?
「――鈍感野郎…―――。」
またなんか言ってるが声が小さくて聞こえない。
「なんか言ったか?」
「うるさいな!僕は巨乳じゃなくて悪かったな!」
「そんなこと言ってないだろ…。」
これは完全なコンプレックスですね。そういえば前も「
世界中の巨乳を吹き飛ばそうとしてたっけ。
「わかった。お前がそんなにいうのなら、巨乳になる
しかたない、認めてやるよ。どうせ元から旅の当てなんてないしな。
と、アルは目をキラキラさせて、
「い…いいの…?」
「ああ、いいぞ。」
「やったあ!ファスト大好き!」
とそういったアルは突然顔を赤くし、
「あ、大好きってそういう意味じゃないからね!」
…ツンデレ、久々に見たな。最近のヒロインてみんなツンデレじゃないんすよね。
「さて、こんなところで突っ立ってても仕方ない、行こうぜ。」
「~♪」
機嫌よくなってる。なんでだ?まあ、かわいいからいいか。
俺たちは二人並んで歩きだし―――
―――「ところで、どこに行けば巨乳になれるんだ?」という根本的な問いによって、初っ端から人生の迷子になった。
「さて、とりあえず大きな町とは逆に行ってみるか。見つかったら殺されるかもしれないしな。」
気を取り直して、俺たちは歩き始めた。
10kmほど歩いたところで、
「…ねーファスト、疲れた。」
「早くないか!?」
くそ、さすがは元・お姫様。体力のなさが半端ないぜ。…いや、俺が「
「じゃあ休むかって言いたいとこだが、無理だな。」
「なんでさ!?」
半泣きで抗議してくるアル。
「向こうに町が見えるだろ。町に行くやつに見つかったらどうすんだ。」
「じゃあ山の中に入って休めばいいじゃん。」
「山の中に入ったらお前死ぬだろ。確実に。」
ただでさえ体力ない状態なんだ。山に入ったら絶対「ファスト~。おぶって~?」とか言い出すに違いない。そして、そうなったら俺は多分おぶう。おぶってしまう。
「まあ、落ち着け。あと3セクトくらい進めば、俺が町に来るときに使った
「え!?君、元からあの町にいたわけじゃないの!?」
「驚くとこそこかよ…。」
「ねーねー、どこ生まれなのファストって?」
「うるせえな。」
「ねー。」
「黙れ。」
「ねー、どこ生まれ?」
「異世界。」
あしらうのがめんどくさくなり、俺は正直に答えた。
「…?どこ生まれなのファストって?」
「なんでもう一回聞いた!?」
そこは理解しろよ。別の世界から来たんだって。
「だから、この世界じゃないとこから来たの。」
「じゃあファストって神様なの?」
「だああああもおおおおお!」
めんどくせええええええええ!
「だから、こことは全く違う世界で普通に暮らしてたらある日突然この世界に
「へーそうなんだ(棒)。」
「うるせえ!頭のおかしいやつを見る目でこっちみんな!」
ああわかってたさ。現実はラノベのようにはうまくいかないってなあ!?
ラノベみたいに「え~!そうなの!?」って言って、すぐ信じてくれるヒロインなんか存在しないんだよ!
「もしその世界があるとしてさ、なんかこっちと違うようなものとかあるの?」
一応興味をひかれたらしいな。…信じてる目をしてないけど。まあ、いいか。
俺はとりあえず思いついたものをいう。
「ああ、あるある。例えば、移動方法だな。あっちじゃ車っていうもので移動するんだ。」
「?」
「うーんとなあ…。あー、あれだ、自動で動く馬車だ。馬の付いてないな。」
「自分で動けるの?」
「うーん、ちょっと違うな。運転する人がアクセルっていうボタンを押すと走るんだ。」
「へえー。」
今度はちょっと信じてるまなざしで見てくるアル。
あれ?もしかしてこれ、チョロイ?
「その世界を束ねているのは、ニートっていう役職なんだ。」
「にいと?」
「そう。ニートは『インターネット』っていう名前の術式を使うことで、『匿名』っていう巨大な力を得ることができるんだ。」
「とくめい、ってどんな力なの?」
「そうだな。まず、だれかを攻撃しても仕返しされないんだ。同じニート同士の戦いは別だけどな。」
「うわ…えげつな…。」
「次に、力の強さが関係なくなるんだ。頭の良さの勝負になるんだよ。そして、ニートはとても頭がいい。」
「ほんと!?最強じゃん!」
「ちなみに俺はニートだった。」
異世界へ飛ばされたのはコンビニへアイス買いに行った帰りだった。
…ふっ。異世界転生ってのはいつもコンビニ帰りだ。ワンパターンだな。
ちなみに俺、向こうではオタでした。エヴァの。推し機体は2号機っす。
そんな俺の付いたウソを
「うわー!すっげー!」
こいつ…信じやがった。
やべえ、これ、いいわ。楽しい。
「そっかー。ファストってすごかったんだー。」
「ぶふぉっ!」
こらえ切れず俺は思わず噴き出した。
「どうしたの、ファスト?」
アルが心配して聞いてくる。
「…何でもない。それよりほら、こっから山道に入るぞ。」
俺は慌ててごまかし、話題を変えた。
「あとどれくらい?」
「うーん、1,5デント位だろうな。」
ちなみに1セクト=1km、1デント=100mである。
「やっと休める…。」
「ついたらとりあえず飯にでもするか。」
「やった!」
はしゃぐアルの顔を見て、俺はこんな旅も悪くはないなと思った。
「おいしい!ファストって何でもできるね!」
小屋の中で、俺たちは鍋を囲んでいた。
「…まあな。」
強化できる能力は何でもマックスにしないと、この世界で「死等」は生き残っていけない。
この世界では、才能によってステータスが決まっている。それだけなら向こうと一緒だが、こっちのステータスは、数値として「見える」。
見る方法は簡単、手のひらをひらいて「
この世界は完全なる能力制だ。
才能のないものは下の身分、あるやつは上の身分と分けられる。俺は戸籍がなかったのと、もともとニートだったんで身体能力が低すぎたのとで「死等」になった。
ちなみにステータスには、努力で上がるものと上がらないものがあり、またほとんどに上限がある。この上限もそいつの才能で決まる。
また、才能は遺伝する。アルは王の娘だから、相当な才能の持ち主なんだろう。
だが、たとえ能力値に上限があっても、鍛えてない「才能持ち」と全ステマックスな「才能ナシ」では、「才能ナシ」が勝つ。
…もともとの能力に差がありすぎるので才能がないやつは死ぬ気で頑張らないといけないけど。
そして俺は死にたくなかったので、頑張りました。
よって俺、上限のない能力以外、
あの修行、今思い出すだけでもきつい…。一人だったから助けてくれる奴いなかったし…。
等と回想にふけっていると、いつの間にかアルが俺の隣に座っていた。
いつの間に!?さっき向かい側に座ってましたよね?
「…ねえ。」
「な、なんだよ。」
突然しおらしく話しかけてくるアルに、俺は思わずたじろいだ。
なんなんだよ急に。いつもの元気がないだけでこんなに女らしくなるものか?
いかんいかん、俺はロリコンじゃない、ロリコンじゃない。18は守備範囲外…18は守備範囲外…。…ちょっと待て、18は守備範囲「内」だよ俺。わーーー!
ちなみに15まではアウト。
やばい、そういえばこのしちゅえいしょんってよくよく考えてみると夜に密室で、二人っきりだった。急に緊張してきたじゃないか。
死ぬほど緊張しているDT丸出しの俺にアルはその続きを話す。
「ファストは、なんで、「死等」なの…?」
そっち!?…あせったー。子供とかできちゃったらどうしようとか考えてたよ。
「あー、なんか戸籍のないやつは自動的に「死等」らしいな。」
こっちにきて、はじめていった町でたまたま戸籍のチェックされて(定期的に
と話すと
「きみも、大変だったんだね…。」
「まあな。」
おまえさんもな、という言葉は言わなかった。
言っても無駄な言葉というものが世の中にはある。
「ねえ、ファスト。」
「今度は何だ。」
「眠くなってきた。寝よ?」
「わかった。ベットがそこにあるだろ。寝心地は悪いが我慢しろ。」
「ん…。一緒に寝よ…?」
「#$%&&’’()=>!!!!!?」
ななんなんんあんあんあなんなんだ一体!?若いだだだ男女が一緒に寝るって。やばい、まさかこんなところで!?待て、落ち着けちょっとまて。。いつものラノベのように、これもきっとこいつが天然なんだ。落ち着け、こいつは俺と事をいたす気はないんだ。落ち着け、ももももちつけ。もちけつ。
等と思っている間にアルは俺の手を引っ張ってベットまで連れて行くと、
「お休み…。」
…俺の腕を抱えて寝てしまった。
やばいってこれ!つつましいながらも女なんだって!貧乳とか言ってすみませんでした!DTの俺にはこれでも刺激が強めです!
てかなんなんだこの状況は。据え膳か?据え膳か?(2回目)。ならば食わねば男の恥だ。 が、たぶんアルは天然でやってるんだろうし…。
とかんがえていると、アルが俺の手をさらに強く抱きしめた。
かすかに―――かすかに―――ふにっとした感触が押し付けられ、形が変化する。やわらかいものが俺の腕に広がる。
「っっっつ!!!!!!!!!!」
一瞬理性が飛びそうになるが、
「待て、嫌がる女の子とやるなんて男のすることじゃない。」
耐える。
そうだ、この、まだ18の女の子は、今まで必死に耐えてきたんだ。頑張ってきたんだ。
そして、なにより、俺を信頼してくれた。
それを、その期待を、―――
「―――裏切れない、か。……俺もつくづく弱いな。」
小さくつぶやく。
この場所を、この関係を、壊したくない。
だから、俺は目を閉じる。
もう腕に当たる感触は気にならなくなっていた。
―――深夜。
小屋の中でアルはひとりつぶやく。
「…なんで僕のことを第一に考えるんだよ、この…意気地ナシ。」
その声はどこかうれしそうで、寂しそうだった。
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