貧乳王女の日々

小さな巨神兵(S.G)

前夜祭

①バ〇スは本当にまずいからやめとけ

 前回のあらすじ。(前回ないけど)

 ―――「死等」の俺はある夜、一人で馬車に乗ってたお姫様と正面衝突した。よく死ななかったな、とかのツッコミはやめてくれ。俺も不思議なんだよ。

 ちなみに「死等」ってのはその名の通り「とうしい」身分です。

 何事かと人が集まってきたことでテンパった俺は、王女を抱えたまま逃げ帰ってしまったのだった。




 やっちまったーーーーー!

 焦って王女さらっちゃったよーーーーーーー!…いや、さらってはないけど。

「どうしたんだい?」

 何にもわかっちゃいない王女が能天気に聞いてくる。

「俺が死んだら線香でもあげてやってくれ…」

「ええっ!!?きみ、死ぬの?」

「多分殺されんだろ。」

「だれに!?」

 …お前んとこの兵隊様だよ。王女さらって(さらったつもりはないが)生きていられるわけないだろ。まったく、こいつを見てるとあほすぎて、俺だけ悩んでるのがバカみたいだぜ。……なんも解決してないけどな。

「お前は本当に…あれだなあ。」

「なんか知らないけどけなされてるの!?」

 さすがに王女をあほなどと言うわけにもいかず、俺はお茶を濁す。

「それは置いといて、いつの間にか俺の呼び名が「君」になってる件と敬語じゃなくなってる件はなぜなんだ。俺にはファストという立派な名前があるんだ。」

「しょうがないでしょー?敬語苦手なんだから―。」

「お姫様なのに!?」

「……ごめん。」

「あ、いや悪くないからそんな気にすんな…。」

 見るからにしゅんとしてしまったお姫様に対し、俺は慌てて謝った。

 話を変えようと、ずっと気になっていたあれを聞いてみる。

「それよか、あの…あれだ。お前、どうして一人で馬車に乗ってた?」

「あーー、うーーーんとねえ、……家庭の事情?」

 なぜ疑問形。あと王女を一人で馬車に乗せるような王族の「家庭の事情」って…。

 これは、たぶん、

「おまえ、家出してきただろう…。」

「ぎくうっ!」

 図星だったらしく、王女はかたをはねあげ、謎の声を出す。…なぜ声を出した…?

「ふっふっふっ、君はすごいねえ、まさかこうも簡単に見破られるなんてねえ…」

「うわあ……」

「な、なんだよ!」

「いや、いるんだなあ、と思ってさ。」

「なにが?」

「お前みたいなやつ。」

 恵まれている奴ほど、自分の運の良さに気が付かない。それどころか、自分は不幸だとなげく。

「…なんで家出してきた。答えろ。」

 場合によっては…ひっとらえて送り届けるぞ。

「……人と、一緒に、ご飯が食べたかったんだ。」

「はあ!?」

 人と一緒に、だと?いいご身分ですなあ。

「違うんだ!聞いてよ!」

「っ!…わかった!とりあえず聞いてやる!だから目を潤ませんな!」

 どうせ、お父様もお母様も忙しくて一緒にご飯もたべれないの、とかいう気だろ。

 とりあえず話を聞くだけ聞いて送り届けてやる。



「いやー、私、腹違いなんだよねー。」

 ……そっちの方向かよ。

「それは…きついな。」

 だが身体からだに被害が出るわけではない。かわいそうだが、置いていくしかないか…

 と、ふと王女様に目をやると。

「っつ!」

 視線の先では、王女様が「おいてかないで」という目――微妙にうるんで、赤みを帯びている――でこっちを見ている。ここで断ったら俺が寝覚め悪くなるじゃねえかよ。卑怯だぞ。



 俺はしばらく悩んだのち、

「…未練みれんは、ないな?」

 …こういうとこが俺の弱さなんだよなあ。

「当然だよ!」

 王女、即答。そんなにひどいのか?王室って。

「相当過酷だぞ?死ぬかもしれない。」

「城よりマシだよ。」

 ああもう、お前、そんなこと言われたらなあ。

「…一緒に、来るか…?」

 こう言うしかなくなるだろうが。

「喜んで」

 そういって、王女ははにかむように笑った。

 くそ…、かわいいとか思っちまったじゃないかよ。

 いかんいかん、俺はロリコンじゃないんだよ畜生。こんなPETTANKOに反応はしないんだ。――

「お前、名前はなんていうんだ?」

俺は、頭に浮かんだ考えから逃げようと王女に話しかける。

「おう!仲間になった証というやつだな!」

「まあ、そうだな。」

「そうか!僕はアイリス=ロット=アルセイフだ!」

「そうか、よろしく、アイリス。」

「…。なんでファーストネームで呼んでくれないんだ…?」

えっ……?アルセイフがファーストネームだったの…?

「そうか、じゃあ、よろしく、アルセイフ。」

「アルで構わん。」

「お、おう…よろしく、アル…。」

なんだろう。ものすごく疲れた…。

「さて、そうと決まったら早速行こうか!」

「どこへだ!!!!!!!!!!?」

 元気よく言ったアルに、俺は腹の底から出した声でツッコミを入れる。

「えっ…。行先決まってないのか…?」

「あたりまえだ!こちとら、今までこの町の下水道に住んでたんだよ!」

 逆に俺みたいな「死等」が旅してる方がおかしいだろ!「死等」ってのはタヌキみたいな習性持ってんの!普段は洞窟とか下水道とかに隠れて、夜に動いてんの!

 見知らぬ街で見つかったら、地理感ないから逃げきれないかもしれないだろ!?

「おう。じゃあどこへ行こうか。」

 あほかこいつ。あ、いや、あほだった。

「とりあえず出発する準備を取ってこないと、食料も水もないんだぞ?どっかで野垂れ死んじまう。」

 幸い、俺はいつ町を追われるかわからないので、(幸いではない気がする)常に逃げられる準備はしておいてある。3日分の食料と水を入れた袋を下水道のあちこちに隠してあるのだ。

 それさえとってこれれば、出発は可能だ。…どこ行くのか決まってないけど。

「んじゃあとりにいくか。」

「了解!」

 ここからだと一番近いのは、教会の真下か。

 隠し場所の地図を見つつ、俺たちは教会の近くの橋へと歩き出した。



「ところで、君よ。チーム名は何にするんだ?」

「チーム名だと!?」

「そうだ。僕たちは仲間だろう?だから僕らはチームだ!」

 いや、どっちかっつーと俺が保護者おやでお前は子供なんだが。

 というわけで、俺は無視して聞かなければならないことを聞く。

「そうだ。肝心なこと聞いてなかったな。…お前、どうして身内から嫌われてたんだ?」

「…」

「ああ、すまん。話したくないんだっ

「昔々、あるところに二つの国がありました。この二つの国はとてもとても仲が悪かったので、いつも殺し合いをしていました。」

「…」

「そしてついに、片方の国がとてもすごい兵器を作りだし、その国が勝利をおさめました。」

『とてもすごい兵器』が気になったが、俺は何も言わずに話の続きを促した。

「かった方の王様は、相手の国の王族を捕虜にして、大喜びです。早速捕虜に唾を吐きかけようとその顔を見に行きました。」

「しかしそこで王様は、相手のおきさきに一目ぼれしてしまったのです。」

「うわあ…」

 なんというドロドロ具合。もはや昼ドラに匹敵するレベルだぜ。てか昼ドラってあるのかな。




「王様は、相手のおきさき様にこう言いました。『お前


が俺の妻になれば、ほかの王族も助けてやる。お前が断れば、皆殺しだ。』もちろ


んおきさき様に選択肢はありません。泣く泣く、王様の妻になりました。しかし、


そんな約束が守られるわけないですから、王様は相手の国の、おきさき様以外の王


族を皆殺しにしました。」


「そして時は流れ、新しいおきさき様は子どもを産みました。その子供は、アルと


名づけられました。新しい方のおきさき様とその子供は、王様に可愛がられ、何不


自由なく過ごしました。しかし、これを快く思わない人がいたのです。それは、元


からいた方のおきさき様と、その子供でした。彼女たちは、よそ者を快く思わない


人たちと協定を結び、新しいおきさきを事故に見せかけて殺してしまいました。そ


してその子供――アル――も狙われましたが、王様はアルを大変かわいがっていま


したので、なかなか殺す機会が訪れませんでした。そしてさらに時が流れ、王様は


死に、アルはものすごく美しい少女に成長しました。」




「おい」

 アルが「ツッコンで!」という顔でこっちを見たのでツッコミを入れる。

 それを無視して(ひどくないか?)、アルは話を続ける。




「王様が死んだので、もうアルを守ってくれる人はどこにもいません。おきさき様


やその息子からのいじめはエスカレートしました。そんなある日、アルはおきさき


様たちが自分を殺そうとしていることを耳にしました。しかしアルはとても頭がよ


かったので、おきさき様たちから巧みに逃げきりました。おきさき様から逃げたア


ルは、曲がり角で出会った男の人と恋に落ち、結婚し、幸せに暮らしましたとさ。


おしまい。」




 …うわあ。相当ひどいな…。お前、本当に苦労してきたんだなあ。…向こうの俺と変わってやりたいよ。

 それでもお前は最後、ちゃんと幸せになるんだなあ…。良かった良かっ…ん?

「ちょっと待て。」

 今すごいことを言わなかったか?

「お前、角で出会った人と、って…。」

「うん、君だよ!」

笑止しょうし。」

「ひどい!僕は本気だよ!」

「(笑)」

「鼻で笑われた!?」

 笑えない、俺は思わず失笑しっしょうした。 

「やめとけ、俺はお前を女としてみていない。」

「ええー、18の乙女にそれはないでしょう…。」

「お前18だったの(笑)その外見で!?」

「ひどい!?」

 正確にはそのPETTANKOな胸で?だが、それは言わないほうが身のためだろう。世の中には言ったら殺される言葉が存在する。

 …と思ったが、アルが胸を気にし始めたので、俺の真意はどうやら伝わりました。

「僕だって寄せてあげる奴なら谷間くらい…」

「物理的に、ゼロからプラスは生まれない。よって谷間は不可能。」

「(´・ω・`)」

「すまん言い過ぎた。」

 シュンとしてしまったアルを必死で励ます俺。

「チックショーーーーーーーーーー!」

 どこかで聞いたような悲鳴を出すアル。

 そんなに気にしてたのか…。すまんかった。

「あんなものはただの油の塊だ!肉屋だったら霜降りだ!」

 いやそれ高いやつやん。ほめちゃってますやん。

「くそくそくそ!こうなったら王族に伝わってたらしい破滅の呪文で…」

「ちょっと待て何する気だ!?」

 と、アルが呪文の詠唱を始めると同時に、白い―――白すぎる。今深夜だぞ――雲が空を覆う。

「天空の彼方より此の地に顕現けんげんし力の濁流だくりゅうよ、血をくらえ!この世に存在せしめるすべての『巨乳』を消し飛ばせ!FACK KYON YOU、必殺!バルs…」

 ちょっと待て!それはやっちゃいけない方向のネタだ!

「おおおおおおれはおまえの胸、すすすすきだぞ!」

 テンパりまくった俺はほめてなだめる方向に慌ててシフト。……ってこれじゃただのセクハラじゃないかよ!?やばい、また怒らせてしま

「・・・ならいいや!」

「ほえ?」

 てっきり魔法を発射すると思った俺は身構えたが、アルは何もせず、呪文の詠唱をやめた。そのまま近づいてくると、俺の手を取って歩き出す。

「~♪」

 なんか知らんがご機嫌なようだ。よかった、ほかのところの破滅の呪文勝手に使わないで済んで…。著作権に違反しないで済んで…。

 そう思いつつ、俺は隠し場所に最も近い下水道への扉を開けた。




「やっ―ファス――僕の―と―きって言――れた!」

 アルが何か言っているが、声が小さ過ぎて聞こえなかった。

 そのくせ、なんだ?と聞くと顔を赤くしてそっぽを向きやがる。本当に何なんだ?

 頼むから変な行動をするなよ?俺たちは今、「死等」がであることを隠して買い物に来ているんだからな。注目は引きたくない。

 チョーカーで首の焼き印を隠してはいるが、完全には隠れない。気づくやつが一人や二人はいてもおかしくない。

 気を付けなければ。


 だというのに、お姫様は…。

 串焼き屋台を見て、

「わー!串焼きだー!初めて見たー!なー!買ってくれないかー?」

 川を下っている船を見つけては

「うおーーーー!船か?あれが船か!?すごい、水に浮いてるぞー!本当にあったんだー!」

 あほ丸出しで、叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。

 挙句の果てには

「あー!こういうのなんて言うか知ってるぞー!酔っ払いっていうんだー!」

 などと酔っ払いに近づいていく。

「うるせえ、だまれ。」

 俺は、酔っ払いが立ちションしようとしているのを後ろから物珍しそうに指さして叫んでいるアルを、羽交い絞めにした。

「静かにしろ。――下手に目立ったせいで俺が「死等」だとばれたらどうするんだ!?殺されるぞ?――」

「えー、そっちが脱出袋の中身確認しなかったのが悪いんじゃん。ちゃんと日ごろからネズミに食われてないか確認しとけばさあ。」

「…うるせえ。」

 そう。1時間前、日が明けるころにいざ出発しようとした俺たちは(脱出のため仮眠をとることにして、日が明けるまで隠れ場所で寝てた)、持ち上げた袋が異常に軽いことに気が付いた。

 そこでようやく、俺は、ネズミ様に食料を食いつくされていたことに気が付いたのだった。

 現実のネズミはミッ〇ーマウスのようにおとなしくはないぜ。これを読んでる方も気を付けることだな。

 というわけで朝一で市場に旅の食料をかいに来たのだが、

「わーーー!すっごい、ファスト、あれ見てよ!」

「ただの宝石屋だぞ。しかも露店でみせでやってる。」

 とにかく、うるさい。

 こいつ、やはり捨ててくかと考え始めたその時。

「ちょっと、そこのお二人さん、旅支度で新婚旅行ハネムーンかい?安くしていくから買っていきな!」

 おふたり?あたりには俺たち以外に連れ立ってるやつはいない、ということは

「そうそう、そこのあんたたちだよ!」

 店主と思われる人物が声をかけてくる。

「は、はわわわわ、わたしたち、べつにこいび…」

「そうなんですよー、これから新婚旅行に出るところなんすけど、食料買い忘れてて、困っちゃって。で、ここに買いに来たんですわ。」

 アルを遮り、嘘を並び立てる俺。

「そうかい、じゃあ俺からの新婚祝いだ。食料、安く売ってやるよ、買ってきな。」

「いくらだ?」

「缶詰何でも銅貨1枚、干し肉と乾パンは2枚だ。」

「買った。じゃあ、これを6つとこれを2つ、あとはこれを4つくれ。」

「まいど。おまけで精の付く薫製肉ビーフジャーキーもつけてやるよ。夜は長いからな。特に新婚さんは。」

 そう言って店主はギシシと笑った。ギリギリの下ネタだな、それ。

 あと薫製肉で精ってつくのか…?乾ききった感じがするんだがな…。どっちかというと枯れそうだ。

「かみさんと楽しんで来いよ。」

「ありがとうよ。」

 …まあ、新婚じゃないんだけど。

 店主から品物を受け取り、俺は店を出て前で待っていたアルに声をかける。 

「アル、かったぞ、戻って出発だ。」

「う、うん……。」

「どうした、具合でも悪いのか?」

「いや、僕は大丈夫だよ。」

「そうか、ならいこうぜ。」

「うん…。」

 どうも歯切れが悪いな。なんか気に障るようなことしたか?

「―――ファストと夫婦だって。ふふふ―――」

「ん?なんて言った?わるい、聞こえなかった。」

「な、なんでも、ない!」

「そうか…?」

 なんなんだ、いったい。

 突然変になったアルとともに俺は町を出たのだった。

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