第2話
「投げてくれればいいのに……わざわざ来なくたってさぁ〜」
子供は不機嫌そうに言うと、受け取ったボールを脇に挟み、赤色のキャップをかぶりなおす。まだまだ幼い天使(?)である。
「ねぇ君、ゴーセンシって、知ってるかい?」
「ゴーセンシ?」
青年の顔をぐんと見上げた子供の眼が、違う輝きを帯びる。
「楽奏戦隊ゴーセンシのこと?」
青年がコクリと頷く。
「知ってるっ! 毎日見てるもん! ……あ、毎日じゃないや……えっと、日曜日だった。うん、知ってるよ。僕、ゴーセンシ・レッドが一番好きっ!」
「そっか。ゴーセンシ・レッドが好きなんだ」
さっきとは打って変わって、子供はこれ以上ないニッコニコ顔を見せながら何度も頷き、
「タクちゃんはね、ゴーセンシ・ブラックが好きなんだ。──おーい! タクちゃん! ちょっと来てよーっ!」
帽子の子供は、暇そうに足で地面に字を書いていた友達を呼び寄せる。お呼びが掛かったその子は、それだけで幸せそうな顔つきをしてすっとんで来る。
「タクちゃんもゴーセンシ見てるよね?」
「うん!」
「二人ともゴーセンシが好きなんだね」
「大好きぃ〜!」
と、二人の子供が声を合わせる。
何の合図があったわけでもないのに、こうやって同じタイミングで言葉と声を合わせることができるなんて、と青年は感心して思わず子供たちの頭を撫でてしまった。
そんな青年の意中などおかまいなく、子供たちの頭の中は、今青年が口にした「ゴーセンシ」のことで一杯になってしまったようだった。しかも、彼らにとっては、大人から興味の話題を持ち出してくれたことが嬉しくてしかたがないらしかった。
「お兄ちゃんは誰がいいの?」
「僕かい? 僕はねぇ……」
青年が言い渋ると、早く教えてよ! と子供達が青年のコートの裾をひっぱる。
「誰にも言っちゃいけないよ。お兄ちゃんはね、実はゴーセンシ・ブルーなんだよ」
秘密を打ち明けるように言った青年の言葉に、急に子供達が興ざめる。
「そんなの嘘だよ、お兄ちゃん。いくら僕等が子供だからって……ねぇ? タクちゃん」
「そうだよ。ゴーセンシなんて本当にいるわけないじゃない」
アハハハ、と青年は笑って頭をかく。やっぱり、今の時代ではサンタクロースは行方不明だな……と。
「もし本当だったらどうする?」
それでも青年は意味ありげな視線を子供達に向けつつ、ポケットをまさぐってバッジを取り出した。
子供達にそれを見せる。
「君達にあげるよ」
「うっっわぁーっ! これ……これって、秘密少年楽団ジャスティスハープバッジじゃないのっ? ね、ねぇ、タクちゃん……」
「本当だ! すごいや! お兄ちゃん本当にゴーセンシなの!」
「そうだよ。今は変身メトロノームを持ってないから変身できないけどね」
なんて言い訳がましいんだ、と思いながらも、青年は案外楽しんでいるらしかった。
「でもね、でもね、それなら変身ポーズできるっ?」
子供の問いに青年は自信ありげに頷いた。
その頃──先輩は、青年と二人の子供がいる光景をずっと遠くから見ている。
「アホが……。何をやっとるんじゃい……」
ゴーセンシ・ショーでしかあんな恥ずかしいことはできないと先輩は思っている。それゆえ、今見ている光景は先輩にしてみれば見るに耐えないものがある。青年の神経を危惧したくなる。
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