第7話

「そんなのは僕が探してたものじゃないよっ!」

 悲痛な声で言う少年を、僕は知らない。

「君……誰だよ?」

「探しものが同じなら……その瞬間にはボクを思い出してくれると思ってた。なのに……晃は」

 どうして僕の名前をそんなに気安く呼んだりするのだろう。僕にはそんな友達みたいな子はいないんだ。

「わからないよ、僕。君みたいな子知らないもん。もしかして、僕を困らせようとしてるのかな? それなら君も奴らと同じ人間だって判断するけど、いい?」

 僕を困らせるのはいじめるのと同じだった。

 びしょ濡れの少年は頭を振った。

「どうしてなんだろう。ボクは図書室で本を読んでいる君を見たのに……あれは晃じゃなかったのかな。楽しそうに語らう生徒を尻目に、読書に没頭しているんだ。唇を噛み締めていた、あれは晃じゃなかったのか……」

 僕は何かを思い出す兆しが差したと思った。茫然自失で下足室に佇んでいた。何かって、何だろうかと考える。

 僕をいじめる奴らはまだ下足室をぐるぐると回っている。僕が出入口を無くしてしまったから、奴らは逃げ場がなくなった。だから、空飛ぶハサミに追われて同じ所を何度も何度も通過して行く。息急き切りながら「逃げろ! 逃げろ!」と声を上げていた。

 僕は少年の背後を通過して行く奴らを見つめていた。

「逃げる……逃げて行く……何が? 逃げるって……一体何が逃げるって言ったの?」

 僕は無意識に呟いていた。

「ボクは、逃げて行くのは勇気だと思ってた。勇気がないから、ボクは強くなれないんだと思った」

 少年は重く垂れた頭を上げて哀しげな瞳で僕を見つめ、笑った。

 どうしてだか、僕もつられて笑っている。そんな笑顔を見せる子を、僕は知っている。

 ヒカ……ル。

 そう、光と言った!

「僕は光を知っている。……光のことは何でも知っているんだっ!」

 下足室に僕の声が響き渡った。

 周囲の景色が暗転した。ここはもう下足室じゃなかった。見慣れない教室だった。全ての椅子と机が後ろに押しやられていて、僕と光はがらんとした教室の中央に立っていた。

「嘘だよ。なら、どうしてボクを思い出してくれなかったの? どうしてもっと考えてくれなかったの? ボクは、特別な力なんか探してないし、ほしくもなかった。自分の中に強さがほしかっただけで……」

 ガララと教室の扉が開いて何人もの生徒が入ってきた。生徒は僕らの周りを取り囲む。そして、何もかも凍りつかせるような視線で僕らを見つめた。

「見てよ。これがボクの居る風景なんだ。こんな場所で特別な力や強さなんて……本当に必要だと思う? ボクはね、一人でもいいから味方がいてくれればって思った。たった一人でよかった……」

 光は哀しげな視線を僕に向けた。

「もうダメだよ、晃。ボクらは何も知らない同士なんだよ! 何一つわかっちゃいない! 魔法はもう効かないんだっ!」

 光がバッと両手を拡げると、全てのものが闇に掻き消されていった。

 そして、僕自身も……


 ――それ以上、僕には想像できなくなっていた。





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