第3話

 扉を閉めると、その空間はいよいよ闇と化した。すぐ隣にいる光の顔ですら、蝋燭の揺らめく炎のせいで、陰影がかって美術室の彫刻みたいに見えた。

「ようこそ。どうぞ、お掛けになってください。私には何もかもわかっていました。探しものでしょう?」

 声の言っていることは僕にはわからない。

「あなた方の探しものをこの部屋に充填しておきました」

「ボク達の探しものって、同じものなの?」

 光が黒いカーテンに向かって言った。僕も慌てて続けた。

「そ、そうだよ! どうして僕が探しものしているなんてわかるんですか?」

「理由なんてどうでもいいじゃありませんか。どうしてもお聞きになりたいですか? あなたはこの不可思議を想像するのがお好きなのだと思ってましたよ」

 僕はなぜかはにかんでしまった。この声はとても優しくて、とても温かく、日頃僕の頭から降り注ぐ言葉の弾丸とは全くの別もののように思えた。それに、姿の見えない相手に、言葉以前にしてあけすけに見透かされている気がして……

「探しものを見つけたいのですか? 見つけたくないのですか? ここで必要なことはそのどちらかだけです」

 見つけたいもの……『それは特別な力と強さ!』と、物語に見える言葉が、僕の中で起こる。それが僕の探しものなんだろうか?

 僕は光の顔を盗み見た。

「ボクはもう……」と言い掛けて、光は一度言葉を切った。

 僕はその時の光が何を思ったか想像する。

「勿論、見つけたいさ!」

 少し間があって光が声高に言うと、蝋燭の炎が大きく揺れた。

「声がお一人だけでしたね?」

「え? ……あ、勿論、僕も見つけたいです」

 僕の声は光に比べて小さく、曖昧だった。

「では、一度深く深呼吸をして、この部屋に充填したあなた方の探しものをおもいっきり吸いこんでください。それから、次の呼吸を始める前に、今入ってきた扉から出てゆくのです。それまで、決して呼吸してはいけませんよ」

 僕らは言われた通り、一度深呼吸をしてから、辺りの空気をめいっぱい吸い込んだ。

 たかだか空気だろ? と僕は思っていたけど……なんだか、変だ。視界がぐるぐると回る。幾つもの蝋燭の炎が僕を取り囲んでいて、僕は一瞬宙に浮いていたような気がした。足の裏の感触がなくなり、気分が悪くなって眼を閉じた。次の呼吸を始める前に出て行けだって? それどころじゃない! 息ができない! まるで、海の底に沈んでいくみたいだ。息がしたくてたまらない。だんだん、意識が遠退いていく……





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