8章 妖精郷


   妖精



 灯りを詰めた瓶

 光の蜘蛛糸渡り





   ありえない恋



 それはありうべくもない、

 ゆるされえない恋だった。


 けれども、二人は出会ってしまった、

 争い合う種族の生まれでありながら。


 恋人は彼女を守るため戦い、

 日の光を浴びて石になった。


 故に、不老不死の民である彼女は、

 この場所で嘆きつづける。



 人は永遠の恋を夢みる。

 たとえそれが悲劇であっても。


 そんなものはありうべくもないのに。

 それでも想いだけは真実、夢だけは永遠。





   怨呪



 死せよ、滅びよ、

 絶え果てよ。


 呪われて呪われて、

 呪われてあれ。



 金環日蝕の天空。


 ゾンビのように、

 不気味な女達が、


 廃都を背景にして、

 水に浸かりながら、


 よろけてんだか、

 踊ってるんだか。





   雨の口づけ



 かのひとに唇

 盗まれし刹那の酩酊


 雨糸に結ばれて抱き合い

 身は溶け合い一つになる





   晩秋・挽歌



 ものみな色づく秋にして、

 思い拙き恋を知り、


 ものみな散りゆく秋にして、

 涙尽きせぬ恋を知る。


 ものみな寂びし秋哀し、

 命絶えなんときを待つ。





   虚無の歌



 私は孤児みなしごであり、

 魔族でした。


 あの方は育て親であり、

 私の師でした。


 また、年を取ることを

 知らないかのような、

 美しい青年でした。


 かつて、あの方のなした

 非道のおこないにより、

 ある騎士が復讐しました。



 復讐を遂げた騎士の

 心の隙につけこみ、


 私は虚無の歌を歌い、

 彼を自殺させました。



《騎士フーヴィの殺し手、リリス・デューエン》






   黄昏のような赤い闇



 この虫籠のような檻の中

 機械仕掛けの林檎が心臓


 羽根はあっても飛べぬ身の

 あなたに恋して叶わぬ想い


 時の狭間に囚われて

 滅びの呪文口ずさむ





   早朝のような青い光



 あなたのさみしさは透明な羽根

 あなたの孤独は朝露にきらめく





   初夏のような緑の風



 あなたの喉を潤すため

 この清らかな水を汲み


 あなたへと献げるため

 この風で身を清めよう


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