パソコンかくれんぼしようよ!

ちびまるフォイ

誰か「Ctr+Z」をおしてくれ

ピカッ! ゴロゴロゴロ。


窓の外では遠雷が轟いでガラスに水滴が打ちつけられる。

今日は4人で遊びに行く予定だったのに、こんなゲリラ豪雨では外に出られない。


「どうする? このままトランプでもやる?」


「かくれんぼしよう」


「ちょっと、外見てみなよ。無理に決まってるでしょ?」


「パソコンかくれんぼだよ。俺が鬼な」


マイペースな里吉は率先して鬼になり、

僕たち3人はパソコンのデスクトップへと吸い込まれた。


「100数えたら探すからそこまでパソコンのどこかに隠れろよ。

 いーち、にーぃ」


「早い早い!!! カウントダウン早いよ!!」


状況も理解できないまま、里吉のパソコンの中を走り回る。

どこかどこかに隠れる場所はないか。


「さーん、しーぃ」


自宅の部屋は汚いくせにデスクトップはキレイなもんだから

アイコンの影に隠れることもできない。

いらないものはすぐにゴミ箱に入れるからパンパンだ。


「ねぇ! こっちにショートカットがあるわ!」


マイドキュメントへのショートカットを見つけて飛び込んだ。

今度はたくさんのフォルダがずらりと並んでいる。


「デスクトップはキレイなのに、マイドキュメントは汚いのね……」


「とにかく、ここならいくらでも隠れられんべ!」


「あ、ちょっと!!」


愛莉とジョージはフォルダの森をすいすい進んでもう見えなくなった。

僕も早く隠れないと。


「え、えっと、こっちのフォルダはよく使いそうな名前だし。

 こっちのフォルダは使われないけど、中のフォルダ構成がシンプルだから

 隠れてもすぐにばれそうだし……あああどうしよう!!」


持ち前の優柔不断が存分に発揮されて隠れる場所が見つからない。


「おい! なにやってんべ! 早く隠れんべよ!」


「だ、だってぇ」


ジョージはタスクバーへと隠れていた。まさに盲点。

フォルダに隠れると見せかけて画面下のタスクバーにこっそり紛れるなんて。


「愛莉は? 愛莉はどこへ?」


「私はこっち」


愛莉は「D:ドライブ」の方へ隠れていた。

いったいどこから連絡通路を見つけたのか。追い詰められた先で見つけたのは……。


「こ、これだ!!」


僕はZIPフォルダの中に飛び込んだ。

これなら絶対にばれることはない。


フォルダを開いただけでは僕を見つけることはできない。

ZIPを展開するひと手間があるから、解凍している間に逃げることもできる。完璧だ。


「さんじゅうにーー。ひゃーーーく!!!!」


デスクトップの向こう側から、32の次は100という驚きのカウントダウンが聞こえた。

マウスが巨大な怪獣のようにデスクトップを動き回る。


僕らを探しているんだろうか、いや違う。

マウスはなにか1つの目的に向かっているような。



カチカチッ。


ダブルクリックの音が聞こえたかと思うと一気に体が重くなった。


「な、なんだ……急に体が重く……」


「パソコンが重くなったのよ! だから私たちの動きまで重く……」


「いったいどんな処理を走らせたんだべ!」


顔を上げたジョージの前には赤い球体が待ち受けていた。



>ウイルヌバスタ― 脅威を検知しました。



「見つけた!!」


画面の向こう側で里吉の嬉しそうな声が聞こえた。

ウイルスソフトによって検出されたジョージはあっさり見つけった。


「かくれんぼにウイルス対策ソフト入れるなんて卑怯だよ!」


「勝てば正義なんだよ!!」


タスクバーに隠れていたジョージのあとに

D:ドライブに隠れていた愛莉もあっさり捕まってしまった。


これじゃかくれんぼというよりも狩りに近い。


「さぁて、残り1人はどこかなぁ?」


まずいまずいまずい。

ZIPファイルの中に隠れていたとしても

最新のウイルスソフトの前じゃ隠れていることにもならない。



>ZIPファイルより脅威を検知しました。



「ひいぃぃ!!」


ウイルスソフトはあっさりと潜伏先を特定してしまった。

里吉の操るマウスがゆっくりとファイルに近づいて解凍をはじめる。


「ZIPファイルの中に隠れていたとはねぇ。だがムダな努力だったようだな」


ウイルスソフト走らせてパソコンが重くなっているため解凍が遅い。

でももうここから逃げられる場所はない。


「解凍まで98%、99%……100!!!」


解凍が終わってZIPフォルダの中身が全部さらけ出された瞬間。



ピカッ!! ゴロゴロゴロ!!


まばゆい光が視界を包んですぐにパソコンのディスプレイが真っ暗になった。


「うわ!? て、停電!?」



慌てて解凍済みのフォルダから抜け出して別のフォルダに飛び込む。

落ちたブレーカーを治すまで数十秒だったが逃げ切ることができた。


「あれ? このフォルダじゃないのか?」


里吉は解凍したフォルダを必死に探していた。

あとちょっと遅かったら見つかっていただろう。


とっさに逃げた先のアイコンだったが、

こっちのフォルダはファイルやらフォルダがごちゃごちゃに入っているので

ここから見つけ出すことは困難だろう。


「やった! 僕が最後まで隠れ切ったぞ!!」


本当に絶好の隠れ場所を見つけられてよかった。








→ゴミ箱の中を空にする。




「おい、まだ見つからないのか?」


「おっかしいなぁ。ついさっきまでウイルスソフトでは検出できてたのに……」


「こんなに探しても見つからないなんて、本当にすごいわね」


「あいつはきっとかくれんぼマイスターだな。おおい、もう降参だ。早く出て来いよーー」



ゴミ箱の中身はきれいさっぱり消えていた。

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