第四章 アリアドネの暗号(15)
D号館を出た中井と落合はアイドル研の部室を目指した。驚かせるのは諦めて茗子に連絡を取り、アイドル研の部室で待ち合わせることになった。
「高野!」
「よお、久しぶりだな」
部室に先に着いていた茗子は、二人を迎えた。
「あんたたち、就職したってのに変わらないな」
皮肉げに笑う茗子も全く変わっていない。
部室の中にいた現会長と双子の女子学生に挨拶してから、三人で外に出た。
「私ももうアイドル研にはあんまり関わってないんだよ。でもこの三人なら待ち合わせはここだろ?」
「まあな」
茗子の言葉に落合が笑う。
「
もう一派閥の現代アイドル派の代表だった男だ。
「さあ?」
「俺も知らん」
アイドル研を追い出された野方たちは、一時期は現代アイドル同好会を名乗っていたけれど、一年ほどで解散したようだった。以来、特に交流もなかった。
野方は当時三年だった。茗子と熱心にやり合っていたのは野方を抜かせば一年ばかりだった。結果、分裂した先で初代会長についたのは、上級生を差し置いて一年の中井に落合だ。
「そのうちOB会やりたいよね」
「中井が取りまとめてくれるならな」
「えーここは当然、高野でしょ」
「絶対に嫌」
三人で話しながら、サークル棟を出る。
そこで、中井は目下の懸案事項を思い出した。
「さっき広場で、柘植を見たんだけど……」
「俺も見たんだよ」
「柘植って事故で亡くなったんだよね?」
「ああ」
茗子は目を伏せてうなずいて、それから唇の端をにやりと上げた。
「今から会いに行く?」
「えっ? まさか幽霊に?」
落合が大きな体を震わせる。どうやら心霊関係は得意ではないらしい。
「妹だよ、妹」
茗子はジーンズのポケットからスマホを取り出し、操作した。
「南の妹が今年入学したんだ」
「あ、なるほど!」
「そっくりだったな。なぜか袴姿だったぞ」
「へー」
茗子は少し怪訝な顔をした。それから、受信音が鳴ったスマホを確認して、思い切り顔をしかめた。
「あいつ、何やってんだよ」
「誰?」
尋ねた中井に八つ当たりするように、茗子は睨む。
「隼人だよ、隼人」
「牟礼ってまだ学部生なんだろ? 今日いるの?」
人の機嫌を気にしない落合が茗子に尋ねる。
「先に隼人のところに行くから、会いたかったらご自由に」
ふんっと言わんばかりに踵を返す茗子に、中井は相変わらずだな、と苦笑しながらあとを追った。
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