第二章 二人で奏でる分散和音(6)

 遥は革の雑貨のブースで立ち止まった。シンプルなレザーのバッグや小物は、圧倒的に女性向けの作品が多いファッションエリアでは、数少ないユニセックスのデザインだった。

 遥は誕生日に史郎からニットのブレスレットをもらった。遥も史郎の誕生日にプレゼントを返したいと思っていた。瑠依に教えてもらった史郎の誕生日は十一月五日だそうだ。

 ターコイズや金属が使われたダークカラーのレザー小物は、史郎のイメージに合わなかったけれど、明るいベージュのナチュラルテイストな作品は違和感がなさそうだ。史郎は、たいていシャツにジーンズにスニーカーで、紺色のデイパックを背負っている。正直あまりこだわりがありそうには思えなかったけれど、今日遥が着ているようなイラストや文字がプリントされたような服は着ないようで、無地か、柄があってもチェックやストライプなどだった。

「鏡もあるから、良かったら合わせてみてね」

 明るく声をかけてきた出展者の男性は、ブースの隅の机で何かを作っていた。広い方のブースをパーテーションで囲い、紙管を組み合わせたラックを立ててショルダーバッグやトートバッグを並べている。男性が作業している机には、財布やキーケースなどの小物があった。斜めに立てかけたベニヤ板に、奥行三センチほどの細長い横木を打ちつけて棚にしてある。そうやって並べてあると、普通の店のディスプレイのようだった。

 遥はパスケースを手に取る。

「プレゼント? メンズ?」

「え、はい」

 なんでわかったんだろう。

「パスケースや財布に付けられるチェーンもあるよ。セットなら割引もあるからね」

 にこやかに笑って、男性は自分の前にある籠を軽く持ち上げる。

「チェーンって感じじゃないなぁ……」

 遥が言うと、男性はすかさず別の籠から紐を取り出す。

「それじゃあ、革紐? ヘンプ編みもあるし」

「ヘンプ?」

「麻だね。えっと、ほら、これ」

 首を傾げる遥に、男性は巻かれた状態の糸を見せる。カラフルな糸がプラスチックの道具ケースに無造作に入れられていて、それだけでインテリアの雑貨みたいだった。

「これを編んで作るの」

 それから、先ほどまで作業していたものを指差す。淡いベージュの紐は、結び目がらせん状にぐるぐると、ねじったようなデザインだ。こういうのなら、どこかで見たことがあったと思う。

「これがヘンプ編みなんですかー」

「そうそう。これをね……」

 男性は座り直すと、糸を手に取って編んでいく。編む前の糸は四本あって、その両端を真ん中の二本に結び付けていくような感じだった。

「編むっていうか結ぶって感じですね」

「そうだね」

 作る様子を真剣に見ていたせいか、男性は「そんなに難しくないよ」と言った。

「私でも作れます?」

「大丈夫大丈夫! こんなこともあろうかと! じゃーん! キットもあるからね」

 爽やかな笑顔で袋を取り出した。商売上手だ。

 史郎の手編み作品をもらったんだから、遥も手づくり品を返せたらそれに越したことはない。問題はうまく作れるかだけれど、見たところ編み物よりは失敗しなさそうだ。十一月までまだあるし、何回か練習してもいい。

「じゃあ、それを一つください」

 遥が財布を取り出すと、男性は「どうもありがとう!」と今までで一番いい笑顔を返した。

 包んでもらっている間にスマホを見たら史郎からメッセージが届いていた。

『どこにいる?』

 って、どこだろう? 遥は周りを見渡す。目印になるものもよくわからず、結局、男性にブース番号を聞いて返信する。

『そこで待ってて』

 遥は「了解」と書いてあるイラストを送信した。それから思いついて、買ったものを受け取りながら、

「もう少し見ていていいですか?」

「もちろん。好きなだけ」

「あと、私がこれ買ったのは秘密にしておいてください」

「ん? いいよ」

 少し不思議そうに答えた男性は、ほどなくして史郎が遥を迎えに来ると、「ああ、なるほど、チェーンじゃないね」と笑って遥を焦らせたのだった。

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