第二章 二人で奏でる分散和音(4)

 史郎はなかなか来なかった。『今どのへん?』とメッセージを送ってみたけれど返信はなかった。

「史郎君が来たら伝えておくから、遥ちゃんも会場見て回ってきて」

 もともと店番は夏子が昼食に出ている間くらいで構わないという話だったし、二人も座っていない方がいいのかもしれない。夏子に勧められた遥はブースを離れることにした。

 前に史郎と行った手づくり市で買った陶器のアクセサリーの作家が出展していることを調べていた遥は、まずそこを目指すことにした。ぽってりと厚みのある白い花のブローチはお気に入りで、今日もつけてきていた。

 目当ての作家は通路の端だったため、思ったよりスムーズに発見できた。

「お手に取ってご覧ください」

 出展者の女性に声を掛けられ、遥はショルダーバッグを見せる。

「あの、前に、小鳥山公園の手づくり市で、これ買わせていただいたんです!」

「え、わぁ、ありがとうございます!」

 遥のバッグにつけられたブローチを見た女性は、手を合わせて笑顔を見せた。

「すごく気に入ってるんですー」

「本当ですか? うれしいです。ありがとうございます」

 女性は作品が並んだ机を手で示し、

「いろいろあるので、ぜひ見ていってください」

 ブローチの他にも、ヘアゴムやペンダントやピアスもあった。普通の店で売っているアクセサリーでも、ハンドメイド作品でも、イアリングよりピアスの方が品数が多い気がして、遥はピアス穴を開けようかなと本気で考えた。

 遥が買ったものと同じ花モチーフのシリーズは白で統一されているようだったけれど、猫やリスといった動物のシルエットをかたどったシリーズは赤や青や水色でカラフルだった。三センチあるかないかの小さな星型のブローチは銀色だった。

「すごい、銀色!」

「これも陶器なんですよー。銀を塗ってるんです」

「え、陶器ですか?」

 遥が驚くと女性はブローチを裏返す。裏は確かに陶器の質感だった。

「ホントに陶器だー。すごい」

 いいなぁどうしようと思いながら、他も見ていくと、銀色の皿が目に留まった。王冠モチーフのアクセサリートレイだ。三つ連なった白い花が飾られている。

「わぁー、かわいい! これも陶器なんですよね?」

 遥が指差すと、女性は、

「そうですねー。さっきのブローチと同じです。――花、取れるんですよ」

 そう言うと、花を摘まむ。

「裏のくぼみを、冠のとげとげに挿してるんです」

「へー、すごい。別々にも飾れるんですねー。えー、かわいい! わぁいいなぁ。欲しい」

「ごめんなさい、これ、試作品で」

「え、売ってないんですか?」

 女性は申し訳なさそうにうなずいた。

「そうなんですね……。なんだぁ……。残念です。とってもかわいいから、欲しかったです……」

 遥は肩を落とす。

「もしお願いしたら作ってもらえたりしますか?」

「うーん、そうですねー。ちょっとお約束できないので……。んー、どうしよ……」

 女性は少し考えてから、

「これ、試作品で、何度もディスプレイに使ったりしちゃってるんですけど、それでもいいですか? もしいいなら」

「はい! 全然問題ないです! 欲しいです!」

 遥の勢いに、女性は一瞬驚いたあと、笑顔になって「ありがとうございます」と頭を下げた。

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