第一章 夏のドレスコード(7)

 一同は、十九時前に情報処理センター――大学構内で一番新しくて一番高い建物だ――の最上階に集まった。

 メガホンを見付けたあと、念のため一周したけれど他にめぼしいものはなかった。遥が朝見かけた噴水のスイカは、スポーツ系のサークルの名札が貼ってあったから違うだろう。隼人や史郎が友人に聞いた範囲でも、変な噂はこれ以上ないそうだ。そこで、白衣とこけしとメガホンが今年のドレスコードだと判断したのだ。

 一番の功労者たちはこけし班――隼人のゼミ仲間の四年生――だろう。こけしは、ディスカウントショップや百円ショップを何軒も回った他、画材店まで探してくれたそうだ。よく見るタイプのこけしに、こけしキーホルダー、デフォルメされたかわいらしいプラスチックのこけし。画材店のこけしは無垢の木で自由に絵が描けるものらしい。いろいろなタイプのこけしが揃った。「意味わかんないけど、なんかかわいい」と美咲はスマホでこけしの集合写真を撮っていた。メガホンはディスカウントショップで大量に売っていたからと全部同じものだった。

「こういうのは直接借りるべき」

 隼人を制して、茗子が美咲と里絵奈の背を押した。

「妹は隼人に借りな」

 遥に言い残した茗子は二人を従えて、こけし班の三人に白衣を借りている。隼人から借りるなら茗子ではないのか、と戸惑う遥の肩に、隼人が白衣をかけた。

「僕ので良ければ、どうぞ」

「ありがとうございます。お借りします」

 慌てて振り返って礼を言う。微笑み返されて、茗子から聞いた話が脳内を駆け巡った。遥は少し焦って話題を探す。

「そういえば、史郎君は?」

「ああ、彼はもうちょっとで出来上がるとかで、遅れてくるそうです。こけしもメガホンも彼の分は置いてきたので大丈夫ですよ」

「そうなんですね」

 遥のぎこちない態度に気付いたのか、隼人が苦笑する。

「メイから何か聞きました?」

「えっと、はい……すみません」

「彼女が話したんなら謝ることではないですよ」

 白衣の上からメガホンをかけて、胸ポケットからこけしキーホルダーを覗かせる隼人。暮れかけた窓に並んで立つ自分たちが写る。昼間から点いているのに夜になって突然存在を主張し始めた蛍光灯が、どこか非日常的な空気を水増ししていた。

「どうして別れちゃったんですか?」

 遥が尋ねると、隼人は静かに笑った。

「君がそれを聞くんですか?」

 遥は思わず後ずさる。隼人の低い声が、少し怖かった。

「余計なこと聞いて、すみません」

 頭を下げるなり、隼人の横をすり抜けると、遥は里絵奈たちの元に駆け寄った。

 どこかの窓が開いているのか、背後を風が通り抜けた。

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