勇者メル

タリ

第1話メル起きる。

 ある日、メルは目を覚ました。メルは15歳で勇者の末裔だった。

メルキドは魔王を倒すために目を覚ましたのだ。メルは王に会うために城に向かうことにした。メルは母と共に朝ご飯を食べると、支度をして外に出た。外は晴れだった。通りは賑わっており、商人が屋台をたくさん出していた。メルは屋台の一つで果物を買うことにした。何を買うか決めかねたがバナナかリンゴがいいだろうと思った。バナナとリンゴどちらが王が喜ぶだろうかとメルは考えた。しかししばらく考えてもよく分からなかったので屋台の店主に聞くことにした。

「おじさん、王様はバナナとリンゴどちらが好きかな?」

「リンゴじゃないかな・・・・・・」

 ひげを蓄えて、憂鬱そうな顔をした中年の店主は答えた。

「なんで?」

「根拠は無いけど、王様はリンゴが好きそうな気がするんだ」

「ふーん、じゃあリンゴ頂戴」

「ああ、いいよ3個くらい持って行きなよ」

「うん、そうするよ」

 メルはリンゴ3個を手に入れた。紙袋に入れたリンゴ3個を、皮の鞄に入れた。

「頑張りなよ」

「うん」

 メルはうなずいて城を目指すことにした。そして歩き始めた。

 しばらく歩いていると、手招きする男がメルの目の前に現れた。

「坊や、俺と一緒に商売を始めないか?」

 そうメルに話しかけた。

「それはちょっと無理だよ。僕は勇者になるためにこれから城に行かないといけないんだよ」

「勇者になってどうするんだい?」

「そんなこと考えたこと無いよ。僕はこの街に攻めてくるモンスター共を倒して、この街を守らないといけないんだ。それは僕のお父さんがやっていた仕事だから僕もやらないといけないんだ。お母さんも言っていたけど、モンスターの軍団は日に日に勢力を増していて、兵士達も人手不足なんだよ。だから僕は兵士に志願して頑張って最後には勇者の称号を得るんだ。そうすれば商売なんかしなくても、名声も地位もお金も手に入るんだよ。だから僕は特に今は商売をする気は無いんだ。確かに商売も面白いかもしれないけどそれは僕の人生の役目じゃないんだ。商売は商売が得意な人がやればいいんだ。僕は兵士として人生を終えるんだ。それは決まっていることなんだよ。僕がもし商人になろうとしてもたぶん、神の見えざる手によって阻まれると思うんだ。たとえば毎日、これはさっき屋台で買ったリンゴなんだけど、これを毎日売る生活をするとするよね。最初は上手くいくと思う。それでこんな生活も結構いいかなと思ったりもすると思う。でも店が繁盛すればするほどたぶん違和感が生まれると思うんだよね。自分はこんな仕事をするために生まれてきたんだろうかとね。誤解しないで欲しいんだ。僕は決して商人の仕事を否定しているわけではないんだよ。城下町の生活が安定しているのは商人のみんなのおかげなんだ。それは分かってる。でもそれは僕にはできない。僕は兵士の仕事をする。それは商人の仕事と本質的には同じなんだ。みんなの生活を安定させる。その理念において何も変わらない。だから僕を商売に誘っても無駄だよ。僕は兵士になる確固たる信念があるんだ。だから止めても無駄だよ」

「しかしその理念はおかしくないか?」

 商人はメルの発言に噛みついた。

「確かに兵士になるのは立派だ。でも商人がいなければ街は発展しない。それは君もよく分かっていることだろ。人間には適性というものがある。それは神から与えられた使命のようなもので、人間はこれに抗うことはできない。私が言いたいのは少し寄り道してもいいのではないかということだ。確かに君は兵士の家系だが商人の適性が無いとは言い切れないのではないか? もしかしたら商人として生きていくことが君の運命だとしたら、兵士として生きていくことは世界の損失になるだろう? 私の見立てでは君は商人になるために生まれてきた人間だ。私は46歳だがこの年になるまで本当に多くの人間を見てきた。そして商人として成功する人間、失敗する人間は一目見ただけで見分けられるようになったのだ。そして君は成功する側の人間だ。これは本当に滅多にいないし、私がそう伝えることもそうは無いのだ。しかし今君が向こうからこの通りを歩いてくるのを見て、私は光を感じたのだ。大富豪になるために必要なオーラとでもいうべきかな。これが無い人間は執事にはなれるが富豪にはなれないのだ。改めて言うが私と一緒に商売をやろう。そうすれば私と世の中変えられる。税金を納めれば城の兵士の待遇も改善して人手不足も改善されるだろう。そういう生き方も考えられるのではないかね? 君は今視野が狭い状態にあると言っていい。世の中にはお金が無くて自ら命を絶つ人間もいるのだ。だから我々が商人として成功して雇用を生み出すことは立派に国の役に立つことなのだ。どうだい考え方は変わってきたかい?」

「うーん、でもどんな商売をするんですか?」

「お、少し興味が沸いてきたかな? もちろんここでは話せない。裏路地の一室に俺の店がある。とりあえずついてくるといい。詳細はそこで話そう」

「わかりました」

 二人は通りに入って歩き始めた。しばらくすると商人は足を止めてここだと言った。家は煉瓦作りでコケが生えていた。商人は少しあたりを見渡すと殺風景なドアを開けて中に入った。

「俺はここで薬草を作っているんだ。それを兵士に売って稼いでいる」

 商人は言った。

「そこのベッドで寝ている人は誰ですか?」

 メルは聞いた。

「そこに寝ているのは私の娘だ。ずっと寝ているんだ。もう10年位かな」

「10年? 生きているんですか?」

「生きているよ。呼吸をしているんだから。でもなかなか起きないんだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者メル タリ @koutoku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る