10話―7 最終決戦 魔界を防衛せよ!〔後編〕



対魔装甲電磁砲アンチ・マガ・レールキャノン……第一射――放てっ!」


 大型で人造魔生命機兵の強化装甲貫通に特化した、超硬質オリハルコン弾頭――地球は宗家で使われる対魔装備でも一級品。

 かつての地球防衛戦においても、観測した事の無いサイズの機兵——優しき真祖が強襲された際の情報を元に、天下城キヨスあつらえた部隊兵装。

 魔界の軍隊組織は地球の様な発達が無いため、むしろ戦国の世での知識へ統括部長が技術供与した形であった。


 戦国時代を駆け抜けたノブナガ——さらにはミツヒデへ、多くの利をもたらす軍隊構想……それは策を講じる上でも一日の長となる。

 大型機兵を撃ち抜くために、連射性能を捨て一撃の破壊力を増強——そこへ魔族の兵でも扱える、単純構造での量産を宗家に依頼……そして部隊へ配するに至る。


 電磁レールで加速されたオリハルコン弾頭が、機兵の前衛を穿つも未だ止まぬ進軍——先ほどまで、トーナメント会場と化していた法廷へ迫る。


「ミツヒデ殿!この砲でも進軍を止められませぬ!」


 配下から上がる声にも、主君の様なしたり顔で返す懐刀ふところがたな——ハナから想定済みと、次なる指示を部隊へ放つ。


「これで止まるならば苦労はしない!第一射隊後退——砲身冷却とエネルギー充填にかかれ!続いて第二射隊……前へ!」


 懐刀ふところがたなは電撃の如く部隊を差し替え、一切の隙なく二射目の構えを取らせる。

 これぞ戦国に生きた武将の真骨頂。

 歴史上でその記述は曖昧である——だが、懐刀ふところがたなは間違いなく電磁砲兵隊を三波にして展開する。

 ノブナガと共に、ミツヒデが人として生きた戦乱の世にて――戦国最強とうたわれた騎馬隊を、農民上がりの兵で打ち払うために考案した必殺の策略。

 種子島と呼ばれる銃を配した鉄砲隊の陣形を、L・A・Tロスト・エイジ・テクノロジーに掛けられる制限内の技術兵装で実現した——世に名高き三段撃ちである。


「第二射構え!奴らを足止めするぞ——放てっ!」


 続けざまに打ち出される超音速の弾頭が、電磁的な熱を帯びたまま深淵しんえんの機兵を再び強襲——これには浸蝕しんしょくされた自立回路……正常な判断が下せず動きが鈍る。

 しかし襲う電磁砲群襲来は、止まることを知らない——間髪入れずに第三射が構えられ——


「第一射隊は再準備——第三射隊……放てーーっ!」


 傍聴席周辺に現れた堕ちた導師による魔界崩壊の鍵も、ことごとく新世代の勢力により防衛される。

 魔界崩壊のシナリオは、導師ギュアネスが万が一 ――事の先の先を見定める先見性を持つ真の策士であったなら……つつが無く進んだに違いない。

 それが今や導師がくわだてた――しかもの注釈が付くにわかの策は、足元から音を立てて崩れ去り始めていた。

 愚かな独りよがりの策では、その想定を遥かに超える存在——新世代を代表する新星達の進撃を止める事は出来はしない。


『傍聴席はミツヒデ殿率いる【マリクト】の精鋭が抑えておられます!姫殿下、ここは正念場です――この深淵オロチの艦隊、打ち払って見せましょう!』


 峻厳しゅんげんの地外殻近隣へ取り付き——艦隊の砲撃防衛線を張る、美の魔王代理の王女と髑髏どくろの将。

 将の有する幽兵騎士団ナイツ・オブ・ファントムを従え、王女の戦乙女ヴァルキュリアが対艦砲撃にて応戦する。


「ここからは一歩も通しません!レゾンちゃんが立てた策に抜かりはないんですから――戦乙女ヴァルキュリア主砲群、ぇーーーっ!」


 深淵オロチの艦隊を前に王女が拮抗出来るのは、周到なる策にて竜王の大艦隊の大半をほふったが故——導かれた現状は、正しく吸血鬼の先見の明による物。

 地球で互いにすれ違い、幾度も手を伸ばすも届かなかった紅き少女――それが見違える程の逞しき力と器。

 ほこらしき親愛なる友の功績を噛みしめながら、美の魔王代理の王女は襲い来る深淵オロチの艦隊を果敢に打ち払う。

 

「私だって――地球で目覚めたばかりの時の様には、いかないんですから!大切な友達の背中ぐらい守ってみせます!――ヴォロスさん、援護よろしくです!」


 金色こんじきと黒をまと戦乙女ヴァルキュリア――【天楼の魔導王女マガ・プリンセス】航宙形態で、主砲の閃条をばら撒きながら所狭しと舞い躍る王女。

 深淵しんえんの本体と相対する、紅き少女と王女が宇宙を席巻する姿――傍聴席魔族はその身を守りながら重ねているであろう。

 新世代の始まり――美の魔王ミネルバ狂気の魔王シュウが台頭していた頃の様な激動の時代を。



****



 すでに竜王がほこった古の力の源泉が、無惨にも闇の深淵しんえん浸蝕しんしょくされていた。

 その速度からして恐らくは最初からそこに入り込んだウイルスの様に、キッカケを与えられる事で発動する術式と推察していた。

 でなければ、竜王が簡単に深淵しんえんの侵入を許すはずも無い——現に奴は出現していた。


「決闘敗北直後とは言え無様をさらしたな……。お前には借りが出来た——【ネツァク】の新たなる魔王よ。」


 竜の女神コックピット内壁にもたれ掛かる、眉間のしわがさらに深まる勢いの竜王が沈痛な面持ちで謝罪を述べてくる。

 それは良いのだが、そもそもまだ即位の儀すら経ていないの身——直に魔王と呼ばれるのは流石にこそばゆく——


「頼むからその呼び方は、全ての事後——魔王即位を経てからにしてくれるか?まだ私はやるべき事が残っている。」


 旗艦の浸蝕しんしょくを終えた深淵オロチは八つの首から瘴気しょうきを振り撒き、声では無い時空を犯す咆哮を宇宙へ響かせる。

 このまま放置すれば天楼の魔界セフィロトは愚か、主星を飲み込むのも時間の問題だろう。

 フッと微笑する竜王をここに置いての戦闘は足手まといと、次元転移の術式で最も安心出来る場所へ送り届ける準備にかかる。

 ちょうどそこへの臨時対応依頼もあった所だ。


「伝説殿……度々の無礼は後で詫びる。正直今のあなたは足手まとい——最も安全性の高い場所へ送るから、愚痴は後で——」


 そこまで発言した私を手で制する竜王は、ふところより取り出した魔導を込めた装置を起動——魔量子立体魔方陣マガ・クオント・シェイル・サーキュレーダーに包まれ最後に言った。


「あれもこれもと世話かける訳にはいかんだろう?これより後は己で何とかする……魔界の未来——頼むぞ、レゾン・オルフェス。」


 伝説殿より直々の言葉で受け取った依頼。

 転移先へ向け魔光に包まれ消えるいにんしえの竜王へ、届いたかは分からないが決意の返答を送る。


「ああ、任せておいてくれ!」


 言葉を口にしにらむは深淵しんえんの八つ首龍——地球で私を取り込もうとした蛇神【ヤマタノオロチ】を思わせる。

 さらにその後方へ伸びる尾が主星を乗っ取らんと伸び始め——そうは行かぬと臨時依頼要請の嘆願先……私の今の力を与えてくれた者へ通信を飛ばした。


「聞こえるか竜魔王!このままでは主星ニュクスが奴の手に落ちかねない——そちらで何とか力を遮断出来ないか!」


 通信先は他でも無い——今魔界と主星を繋ぎし塔を統べる者、究極の頂きである【竜魔王ブラド】。

 事の成り行きはあらかた見定めているだろうと、いきなりの無茶振りをかましてみる。

 するとやはり見ていた竜魔王——相変わらずのゆるふわぽわぽわな返答が返され、最終決戦覚悟がとろけそうになる。


「はい〜、そろそろ依頼が来るかなと準備しておりました〜。ですがレゾン……貴女はすでに私の力を継いだ身。ブラドなどと呼ばずにリリと呼んで下さいませんか〜?」


 だからこの魔界の命運を賭けた防衛戦で、その口調は気が抜ける——口に出そうになるも、ご機嫌を損ねない様要望通りの呼び名で対応する。


「了解した!リリ……主星ニュクスが放出する【マガ・ヘリオスフィア】—— 一時的にで構わない!力を切断してくれれば私が何とかする!」


「貴女の力を継いだ新世代——信頼してくれ!」


「良いですよ〜。では変わりに全てが終えたら一度、私の居る別荘へ遊びに来て下さいね〜。」


 この防衛戦は元より一人で何とかなるたぐいの戦いでは無い。

 だから私は力を借りる必要のある者全てへ、己が全霊を持って懇願し——全霊を持って事に当たっている。

 その意思をハナから察していると言わんばかりの、銀の雫を零すいただき――陽だまりに揺れるタンポポの綿毛の様な微笑みで、依頼承諾の返答をくれた。


「ありがとう——感謝する!」


 もうこの魔界で何度目か分からぬ謝意と共に、竜の女神の出力を上昇させる。

 それに合わせたかの様に、主星の究極の頂きが在る塔が明滅と共に魔法陣を形成――その巨大さたるや主星から伸びた魔法陣に天楼の魔界セフィロトが包まれる程。

 まぎれも無い【竜魔王ブラド】の展開した術式により、主星のレイラインが一時的に封印された。


『おのれっ力を!?……まあいいでしょう。この天楼の魔界セフィロトを滅した後で主星も操り――そして崩壊へ導いて差し上げます。』


『さあ、野良魔族の雑兵よ!何処に転移したかは知りませんが、邪魔立てする様なら――ギッ……ジャマ立てスルヨウなら……アナタカラメッシ――』


 八つの首より瘴気しょうきまみれた攻撃が始まるも、私はただ回避を続けこの存在を討つ策を瞬時に選りすぐる。

 浸蝕しんしょくを受けた巨龍内で、次元を振動させ響くはびゃく魔王を演じる導師オロチの音声――だが次第にその口調へ変調が訪れ、正確な言葉すら聞き取れなくなりつつあった。

 ベルの話では地球の戦いの際、あのびゃく魔王の道連れにされたと聞き及ぶギュアネス――仮に肉体が残存していたとしても、浸蝕しんしょくにより導師であった痕跡こころがほぼ消滅したと確信に至っている。

 偽りの勝利に固執し――真の勝利とはいかなる物かを吟味する事無く散った導師には、最早哀れみしか浮かばない。


「……哀れなあんたに、私がもう必要なくなった言葉を贈ってやる。――、ギュアネス・アイザッハ。」


 心は当の昔に消えているだろう――私がかけた言葉にさえ、感情を揺るがす事も出来ない哀れなる深淵しんえん残滓ざんし

 形取った八つ首の龍でさえ、見せ掛けで――ハリボテの虚勢にしか映らない。

 それでもこれは深淵の闇オロチ――放置すれば取り返しが付かぬ事態へ発展するは必死。

 しかしこれを滅するためには、私がただ全開で突撃するだけではだめだ。


「ベル……深淵これを因果のことわりから完全に滅するためには――力を借りるほかはないな?」


 友も見当が付いているであろう者の協力是非――最後の確認を取る。

 モニター内では「あなたの思う通りです。」と微笑みで返された私は、再び我が信頼に足る者達へ指示を飛ばした。


「真祖らよ!私が奴を完全にほふるためには、私の魔霊力だけでは効果が無い!その足りない力を補うまで……この竜の女神の盾となってくれ!」


 今更気を揉んでは真祖らがまた「あなどらないで欲しいものですな!」と返すと悟り、今度は潔く


『了解した、我が主よ!何、最早この悪鬼の攻撃はいたずらに放つだけ――脅威は無いと判断する!だが魔界全土の浸蝕しんしょくは、何としても阻止せねばな!』

 

 巨躯の真祖の猛けき賛同が響くと、黒の竜機が深淵しんえんの八つ首龍と私の間に割って入り――襲う瘴気しょうきをただぶちまける、その一撃一撃を払い続ける。

 信頼に足る――いずれは配下に加えねばならない高潔なる戦士を尻目に、私は深淵しんえんほふるためのへ声を放った。


「テセラっ!この深淵しんえんを完全に滅するためには、君の――君と私が共に放つ力が鍵を握る!私達だけに宿る【惹かれあう者スーパー・パートナー】として共鳴する力がっ!だから――」


「だからテセラっ……私に力を貸してくれっ!!」


 深淵しんえんの闇は生命の闇――地球でその力を打ち払う事が出来たのは、桜花おうか退魔剣ヒノカグツチとテセラの光の翼。

 使い魔のローディが、かつての熾天使してんしルシフェルであったが故に叶った深淵しんえんに対する絶対必滅条件。

 けど今の状況は、互いにそれを放つ条件が不足している。

 私の最強は、そもそも究極のいただきから得た力――吸血鬼の最古であるリリの力は闇のいただき。

 そしてテセラ――ここではあの【霊装の女神ウェアドール・フレイア】は現L・A・Tロスト・エイジ・テクノロジーの特性上、重い制限がかかるため運用が出来ない。


 互いに揃わぬ条件の中、補い合う事で唯一退魔奥義を放つ事が出来る手段――それこそが私達に宿った【惹かれあう者スーパー・パートナー】の能力だった。


『……ふふっ、そう来ると思ってました。レゾンちゃん―― 一緒にこの魔界をおおう闇を打ち倒そう!待ってて、今行くから!』


 大切な友達――私の人生を闇の深淵しんえんから救い出してくれた、掛け替えの無い光の少女。

 共に防衛に当たっていた髑髏どくろの将にその場を任せ、転移魔法陣で私の――紅き竜の女神コックピットへと飛ぶ。

 哀れなる深淵しんえんはすでに導師であった欠片も残っていないのか、ただ闇の集合意識と化し――浸蝕しんしょくした巨龍を操っている。


 これ程の危険を、決して放置する訳にはいかない――だから今、私とテセラが再び一つの場所へ集ったんだ。


 私達は因果の戦いに終止符を打つ――竜の女神が光と闇の翼をまとい、この星系がほこる恒星……灼熱の太陽の如く燃え上がった二つの心が、退魔必滅の力で宇宙にきらめきを満たす。

 魔族の楽園天楼の魔界セフィロトにて――因果の最終決戦は最後の時を迎えた。 

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