10話—6 最終決戦 魔界を防衛せよ!〔前編〕
竜王の宣言——それは友達であるテセラと、妹となったヴィーナ……そして二人を慈しむ者達の悲願だった。
全てをヴィーナの罪赦免と言う、確約を取り付ける事で終えればこの上ない成果。
けれど警戒を張る私へ、後方を任せた天下布武の魔王からの緊急通信——瞬間身体が反応、すかさず竜の女神との融合を一時解除し——
「ベル——伝説殿の元へ飛ぶ!これからの事後対応が明暗を分けるぞっ!」
恐らくは事前に想定通りの事態が訪れる——そう悟った私は、予め用意した対策発動を友に預け——
『了解です、レゾン!では行って下さい!』
竜の女神コックピット内から、
自分が受けた悲劇の二の舞いだけは避けねばならない——
確実に——そして悪意を
まさに寸での所——想定した存在が、想定通り竜王殿へ凶刃を放った直後。
術式の痕跡からも疑う余地も無い——伝説殿がその術式で魔法力を奪われた事を察した。
そこから導かれる解は単純明解——今、この伝説殿を護れるのは私以外に存在しない。
そして決意の中、想定した不逞を
「なっ……!?」
事の顛末を知らぬ魔族であれば、動揺し検討違いの怒りで我を忘れたであろう——けど私は直感で事態を見抜いた。
見抜けぬはずは無い——当然だ……そのフードの下に現れた女性は既に亡き存在、我が身に流れる彼女の血脈が訴えかける。
同時に眼前の不逞の輩が行った行為——それが私の
魔界において今の私がここに居られるのは、自分が導師に使われていた時—— 一見ただの興味本意とも取れる接し方であるも、あの偉大なる魔王が気を配ってくれたから。
自分でも驚く程の憤怒が湧き上がった理由——否定など出来ない、私はあの少しめんどくさい魔王を……心の底から尊敬していたんだ。
「ギュアネス・アイザッハ……。あんたは一体何をしているか分かっているのか……!」
眼前に立ちはだかる姿——視界にあの
けどこの身に流れる、彼女の血統が真実を伝えてくれる故違えるはずも無い——しかしそれが、事の顛末を知り得ぬ魔族では状況が変わる。
導師は策士——それを
猛る怒りのままに導師を問い詰める——が、返された返答によって湧き上がっていた憤怒が違うベクトルへ変換される事となる。
『おや?誰かと思えば野良魔族の雑兵ではないですか。これは奇遇ですね——私の作戦に参加して頂けるのですか?用が無いのであればそこを
「……何を言って……?——」
話が噛み合わない——この反応は、それこそ私がまだ導師に仕え始めた時の様な冷徹な時代のそれ。
思考が違和感から眼前の現実を導き出す——これは既に導師では無い……闇の
その考えに至るか否かの刹那、
「伝説殿!失礼を許せよっ!?」
返答も待たずに息も絶えだえの竜王を担ぎ、再び転移術式で竜の女神へ帰還した。
同時に後方の残艦隊掃討部隊——総監を託した魔王へ事態急変と伝説殿確保を伝える。
「ノブナガ、伝説殿の身柄は確保した!こちらに大事は無いが、奴は——導師はもはや導師では無い!」
「後方は任せる!護りは頼んだぞ!」
女神のコックピット内では、ベルが素早く立体モニターから状況を伝達——既に竜王の艦隊であったはずの部隊が制御を外れ、あらぬ方へその砲火を向けていた。
無数の砲撃が狙う先は間違いなく
三国同盟を結んだ同志達にとっても、ここからが本番。
導師が闇の
我ら新世代が、この素晴らしき魔族の楽園を守護する——今持てる全ての力を結集し、世界の盾となって見せる。
前方に視界を戻せば、機関を残し打ちのめしたはずの巨龍——旗艦とのいびつな融合を遂げている。
さらにあの
「さあ行くぞ……これが私達の最終決戦だ!ベル——見せてやろう……これが【ネツァク】を継ぐ伝説だ!」
「ハイ……行きましょう!私の素敵なお友達……この魔界の未来のために!」
既に憤怒は霧散した。
それは哀れ過ぎる導師の成れの果てに同情すら覚えたから。
もう奴を、生命として見る事すら意味を成さなくなった私は——思考を切り替え、害獣と呼ばれる存在を滅するために飛ぶ。
そう——奇しくもかつては害獣と呼ばれた私が、哀れな害獣を滅するのだ。
それが【ネツァク】を統べる者を宣言した私の——赤煉の魔王としての最初の仕事なんだ。
****
傍聴席は大混乱に
つい先ほどの大歓声が嘘のように逃げ惑う魔族——しかしそれも直後に響く凛々しき声で落ち着きを見せた。
「テセラちゃん、
「さあ、このゲートを
「はいっ!私も防衛線へ向かいます……ナイアルティアさん、ここをお願いします!」
すでに法廷上の反論決闘の場と、悠長な事は言えぬ状況――伝説に
言うに及ばずこの戦い――新世代の若き新星が、自らで結末を迎えると決意した。
ならば伝説はあえてその手を支援に止め、後方の憂いを断つ様動いている。
タキシードの優男の支援に最大の感謝を送りつつ――三国の志士と共にあるもう一つの新星が、異空間を繋ぐ門
【アザトースの庭】――全ての次元に繋がると言われる
「テセラ!こちらの準備は万端……けどここは、主星が近すぎる!光の力は封印で抑制され――扱う力は
「うん、分かった!行くよ、ローディ君!」
この事態への対策とし、異界の門は
その身は
そして背後を舞う十二の浮遊砲台――主砲と対空砲を備える姿は、小さな旗艦を中心とした艦隊の様相を呈す。
彼女が門より転移した先――すでに無差別砲撃を開始した艦隊への防衛線、指揮を取るは【ティフェレト】より常に王女の傍へ寄り添った
そして展開されるは
『姫殿下、レゾンの想定通りに事は動いております!まずは傍聴席の魔族を――』
「だよね、このままじゃいけないね……!ローディ君――法廷のモニターへ通信を繋げられる?」
『皆さん落ち着いて!私は【ティフェレト】の魔王代理にして、第二王女……ジュノー・ヴァルナグスです!これより私達が、事態鎮圧のために防衛作戦を敢行します――』
『……今魔界を攻撃しているのは竜王の艦隊でも――ましてやあの白魔王の反攻勢力でもありません!』
突如としてモニターを奪う
が――凛々しき美の魔王代理は、そのまま聴衆へ今告げるべき言葉を紡ぐ。
『あれは闇――命を脅かす
強く――そして凛とした声が、降り注ぐ艦隊の砲撃の恐怖すら打ち払い――
『皆さんは一先ずここを動かず――そして心を強く持ち立ち向かって下さい!あなた達は……私達新世代を謳う軍勢が、必ずお守りしますっ!』
響く声は、あの紅き烈風とは違う勇ましさ――凛々しく、それでいて慈愛をあらゆる所へ振り撒く姿。
傍聴席魔族の誰もが彼女の言葉でその気を取り直し――同時に心へ刻まれただろう。
かの
落ち着きを見せる傍聴席――その中心を見やる魔王代理の王女。
目に映るは、祖国より追放せざるをえなかった愛しき妹――だが王女はすでに悲痛など感じない。
「ヴィーナ……あと少し、ほんの少しだけ待っててね。全てをレゾンちゃんが終わらせてくれるまで。」
口にした大切な友人である吸血鬼――彼女が妹の罪赦免と言う確約を取り付け、その愛おしき妹を護るための最後の戦いへ向かったから。
そして――必ず勝利を持ち帰ると信じているから。
「はい……テセラお姉様。
行き違いは確かに存在した――それでも二人の姉妹の絆は決して揺るがない。
花の咲き
そこには
****
竜王の旗艦が在りし宙域と魔界との中間地点―― 一斉に魔界へ向け動き出す、
勝利に酔いしれる間もなく、再びの激戦へ突入していた。
「よいか、レゾンめと真祖らに不逞の輩は任せ――我等は速やかに、魔界へ向かう
異形の超戦艦艦橋で天下布武の魔王が
『分かっておるぞ、殿!最早先ほどまでの戦いではない……これよりは魔党狩り、一切の容赦などは加えるつもりもないわ!』
『ほほう?という事はお前――先ほどは手加減していたとでも言うのか!?あまいな
『ハッハー、言葉のあやと言う物よ!――では行くぞ、
『応っ!お前こそ抜かるなよ!?』
頼もしきやり取り――天下布武の魔王の号令を待たずして、防衛線へと宙空を駆ける二体の猛将。
呆れるやら頼もしいやらの魔王は、そのまま超戦艦の指揮を取る統括部長へも指示を振る。
「あの調子じゃ!もはやあの二人は放っておいても生還するじゃろ……ならばこちらは、この日の本が
すでに
「ええ、見せてやりましょう――愚かなる闇の
魔王のしたり顔を
「
魔界を代表する新世代が、各々の舞台で防衛線を張る中――魔界は
それは闇の底に堕ちし導師の掛けた保険の一端――
前線で防衛する同盟の志士ではすでに間に合わぬ距離――傍聴席魔族らもその勢力を視界に捉え、強く心を持ちながらも襲う事態へ戦慄が
が――そこへ同盟最後の防衛線が到着した。
「ノブナガ様、こちらも準備は整いました!生憎だな哀れな導師の軍勢よ――我等が殿を出し抜こうなど千年早い!」
「このミツヒデが指揮するは、我等が【マリクト】正規の軍勢――魔導式強化鎧兵部隊推参!各隊――
下層界――
魔界の運命を掛けた最終決戦の場で、猛烈な嵐となり吹き荒れる。
因果が生んだ、宿命の戦いを終わらせるために――
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