10話―3 天楼の敦盛
かつて魔界と言われた
その神の如き竜は星を
竜王の名を称した旗艦より出でたそれは、物理的な体躯こそ産み落とした艦より小さき姿。
だが、神を称する竜が
神龍を指す姿はその魔を守護する膨大なエネルギーが物質化した、体躯を遥かに上回る巨龍。
本体より放出される
巨大で――常軌を逸した姿は、それを食い破らんとする二対の竜機が赤子の様にすら思える。
しかしその体躯から想像出来ぬ強襲が、二対の竜機を
『引き出したはいいが、これは中々想定外だな!この図体で私の【
紅き吸血鬼は、己が力の集大成と呼べる
『くっ……この出力は!主よっ、我等の黒き竜と拮抗するぞ――この巨龍!』
剛腕を構え、後方へ気炎を吐き突撃する黒き竜の一撃――同じく剛腕にて迎え撃ち、激烈なまでの衝突が火花を散らす。
魔界を統治する法の制定は、魔族間の無用の争い減少に多大なる効果を見せていた。
目立つ争いの大半は【反論決闘】が端を発すると言っても過言では無く、一部の例外を除けば新世代の魔王——【ティフェレト】が魔嬢王ミネルバと【ネツァク】が
しかしいかに新世代と言えど、魔族においての常軌の範囲内——魔界を治める頂きより
だが——すでにこの法に基づく決闘の場に、傍聴人として
過去に起きた狂気が席巻した時代など、最早遠き彼方へ追いやられる。
今魔族らの眼前で繰り広げられる超常を遥かに超える激闘は、そこに魔界創生の伝説が再現されているかの如く彼らを魅了しているのだから。
伝説に
魔界は今——その超新星誕生にも似た、新たなる創生の時代へ突入している。
すでに決闘は勝敗の
——が……その最中、決闘の背後に忍び寄る不穏の影。
刻まれる伝説すらも
****
【反論決闘】を控えた最終の作戦会議。
魔界外郭へ重力アンカーで取り付く異形の艦の一室――決闘が法基準により全容が記録される上での、策の詰めを話し合う同盟一同。
何よりその決闘の後に訪れる
「――と言う様に、全容が会場へ余す事なく
ただの魔族の成り上がりであれば、力押しと言う選択も無くはなかったが――仮にも魔界で並ぶ者なき策士と持て
かく言うワシもそれ以降の算段をいくつか視野に入れ――ミツヒデと協議は進めていた所……準備した一つの案件をレゾンめに伝える。
「お主の言う合図とやらへ、わしから一つ提案がある……。なに、そこは通常なら思考の及ばぬ突拍子も無い手段が逆に相応しいと思うてのう?」
「
ワシの提案と、そこに至る経緯を聞き及び――ふむと
そこへ自分と共通する点を見出したあやつにより、提案した合図が採用となり――趣旨は同盟の志士へ伝えられた。
まあ、流石にそのあまりにも常識を外れた合図の全容に、最初は
――その中であやつ、ミツヒデだけは「流石は殿、あなたはやはりノブナガ様にございます!」と、謎の理解を示していたな……(汗)
それもそのはず――この身が人であった時分、戦国の世のそれを
「ぐがっ!?」
伝説に
突如として我が身を襲う
これは肉体ではない――精神、否……魂の本質を
忘れもせぬ魂が
「ノブナガ様!?……まさか――」
異形の超戦艦艦橋――今最も近くにいる水軍の血を継ぐ男が、即座に異変へ気付き言葉を発しようとするが――
「……っ、ワシに構うな
統括部長を手で制し――余計な言葉を発さぬ様やるべき事へと専念させる。
異変は想定済み――が、それを同盟の士に伝えるは同時且つ傍目に悟られずが重要であった。
思考に
暗き
あの時の絶望から、忍びの里を滅ぼし――神仏を蹴散らす勢いのまま、僧らの居城を焼きつくした……あらゆる残虐なる所業が、この身を
じゃが今――わしは新たなる地にて、生を享受する
あの
その鋼鉄の信念を
その手には魔界にて
超戦艦の回線は、証拠記録として開いたまま――その回線へ同盟の志士全てへ届く様に、扇子を右手に前へ伸ばし……同じく右足を
『天楼の魔の
それはこの魔界で新たなる生を受け――真の天下布武を成した証とし、魔界の文化の先駆けとなる様アレンジした物――
『夢幻の如くなり~~再び生を
戦国の世……かつて人であった己が手にかけた、多くの命への鎮魂と
『滅せるものの~~あるべきや~~――』
そして今――魔界の伝説を超えんとする一人の吸血鬼の少女……その未来への勝利を祈願し贈ろうぞ。
この【
****
恐らくそれを耳にした、傍聴席魔族達は困惑を
私も経緯を聞かされていなければ、それらと同じ思考に
けど――それを提案したあの魔界一めんどくさい魔王が、いかに人としての苦しみを耐え抜いたかを聞き及んだ私は……その舞いに、生きる事の過酷さと魂の覚悟を見た。
あの男に戦国と言う世で降りかかった火の粉は、私もよく知る闇の
それは長き年月を経てなお――第六天を名乗る魔王へ後悔となり刻まれている。
多くを語らずとも、今モニター越しに映る舞いが全てを如実に語っていた。
だからこそその舞が、この場に最も相応しき合図と思えた。
そしてそれは、正しく
合図と聞き及ぶ同盟の志士らは、モニターに映る魔王の舞に最後の決戦への覚悟を決める。
奴が今――そこまで来ている。
私があの天下布武の魔王が提案する奇策に乗ったのは、あの男が私以上に長き時間
優に人生の半分以上が、
ならばその光でありながら魔王と呼ばれた男が、戦いや人生の折り返しの際に好んで身を委ねた舞――≪敦盛≫を合図とする事に何の意義もあり得なかった。
私や新世代と呼ばれる同盟の志士達――その決起とも言えるこの法に準じた決闘へ、その舞が捧げられるのは光栄の一言に尽きる。
本能のままの戦いを、文化と言う舞で御する――新世代を
――そう、新世代の魔界の士は……文化を纏い飛翔する。
それは即ち生を
それがあの日の本と――日出ずる国、日本と言われた世界から贈られた何よりの宝である≪心≫。
「ボーマン、ノブナガの決意の舞いは見たな!?全てが動く時だ――勝ちに行くぞ!」
その日本より贈られた、文化と言う心を
それを今共に居並び舞う、黒き竜機に搭乗せし巨躯の真祖へ熱き
『拝見いたしました!あれがあの、光
『我等真祖一同―― 一切の抜かりなし!決めましょう……そして、戻りましょう――≪勝利≫の二文字を
全ての真祖の覚悟が集まるモニターを
今更ながらに思う――あの偉大なる白き魔王は、かつてこの高潔なる吸血鬼の真祖らを従えて魔界を席巻したのだろう。
そして今度は私の番――共に寄り添う友……ベルも従えて、これより向かう先は勝利をもぎ取る戦い。
その後因果の戦いを経て――私は害獣と言われた過去を余す事無く受け入れて、魔王の座へと手を伸ばす。
彼女を――ヴィーナを魔界で正統な名目の元、護るための唯一の手段。
勝利意外に道は無い――勝利意外に許されない。
その紅く強き意志を受けた乗機――【
さあ――ぶち抜きに行くぞ……星を
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