―最終章―

―赤煉の魔王―

 10話―1 不死王の意志を継ぎし者



 破壊の訪れが輝きを失い――その直線上へ散らばる艦隊の残骸。

 だが今だ一万を越えた艦隊残党がひしめく宙域――超戦艦よりは幾ばくか身軽な【マリクト】の二柱が、嫌な汗を魔導の機神コックピット内で躍らせていた。

 最後方で支援する髑髏どくろの将の軍勢も、距離を詰めながら破壊の訪れをかわし――援護が出来るギリギリの位置で陣取っている。


 ここまで来れば決闘の幕を降ろすは主役の独壇場――【マリクト】と【イェソド】勢力として同盟に属する彼等は、あくまでも協力者の立場。

 出しゃばる無粋など無い――その心意気で背後の艦隊掃討戦を開始する。


『全くあの伝説とやらの底はたかが知れぬ。主役がレゾンでなければそれがしが挑みたい相手だ!』


『だな。あの破壊の超撃は判断を誤れば消し炭になる所だ……底が知れぬと言う意見は、共感しか浮かばんぞ。』


 武門最強と言わしめる最強呂布たかぶる気持ちを抑えられぬ状況に、伝説上ですらお目見えしていない破壊の訪れに冷や汗ものであった、もう一柱の最強 魄邪軌はくじゃき――深い共感のまま防衛線を再展開する。


「よいなお主ら。これより先……反論決闘の結末はレゾンめが望む展開へと導くじゃろう。――我等の戦いはそこからじゃ!」


 魔導通信回線で反論決闘と言う、全ての通信が証拠として記録されている最中――回線越しで、後方【マリクト】戦力へ号令をかける魔王ノブナガ。

 多くを語るは、不逞の輩の動きに予定外を呼び込む恐れがあるため、重要点を伏せた通信である――しかしその意図、事前に知る同盟の猛者達はと戦線を維持しながら……魔界天下布武を成し遂げた男の宣言を待つ。


「我等の行う艦隊掃討戦が、のちの対応の鍵となる。レゾンとの打ち合わせ通り――成すべき事を成す……それが、【狼煙となるのじゃ!」


 天下布武を魔界で成し遂げたこの魔王――あろうことかこの決闘での活躍すらも、自軍の力を知らしめる糧にしてしまう。

 しかしこの後訪れるであろう危機の回避は、文字通り彼らを魔界全土へ知らしめるにはあまりにも相応しき舞台とも言えた。


『では魔王ノブナガ殿……【マリクト】がほこる才と軍勢――拝見させてもらおうか。』


 最後方――幽兵騎士団ナイツ・オブ・ファントムを従え、砲撃支援の猛威を振るう髑髏どくろの将が新世代の魔王へ期待をあらわにする。

 いにしえの魔界創生にたずさわった者の一人である彼にとっても、新世代の台頭は願いでもある。

 峻厳しゅんげんの伝説同等の存在からの熱い羨望せんぼうへ答えるが如く――口角を吊り上げしたり顔、魔王と言われたかつての戦国武将がカカッ!と豪快に笑い放つ。


「是非もなし!我等の成すべき戦いを、この偉大なる世界と偉大なる伝説殿らへ捧げよう……!ミツヒデ、頃合じゃ!怠るなよ――ここからは真の防衛線じゃ!」


 すでに紅き吸血鬼は、紅と黒の超竜を従え伝説のノド元をえぐる寸前――来る不穏の訪れがもたらす危機へ、先見の明を持つ魔王が落ち度を晒す事は無い。

 先の真祖による反論決闘では、ヴィーナの動きが予測出来なかった失態もある――しかし次にしくじれば、この天楼の魔界セフィロトに壊滅的な被害が及ぶは必至。

 それはこの魔王にとっても許し難い事態――回避するための秘策を、決闘の戦力から外した懐刀ふところがたなへと託し万全を期す様指示を出していた。


『こちらの出番の様ですな殿!すでにあらかたの準備は整っており、あちらへも――【ティフェレト】第二王女護衛の御仁へもすでに連絡済み。』


『……殿、ここからにございます!我等のは!』


 懐刀ふところがたなの言葉でたかぶる思いが、同盟掃討部隊の一騎当千らへと伝わり――掃討戦からの防衛線への覚悟は決まった。

 吸血鬼の軍勢――その背を守りし天下布武の魔王がえる。

 新世代としての存在価値を、この魔界へ見せ付けるために。


『我等は掃討戦から防衛線への連戦じゃ……相当の負担は覚悟せよ!では壱京いっきょう殿――【武蔵】を盾とし守り抜くぞ、この防衛線を!』


 たけりはすでに超戦艦を指揮する統括部長をも、戦国の武将の如く奮い立たせ――吸血鬼の背を護る、もう一つの戦いが始まった。



****



 共にあるは紅と黒の超竜――眼前に迫るは伝説を体現する、星の化身の如き竜王。

 しかし立ち止まる理由などない。

 私が宇宙を駆け――伝説と対峙し戻るのを心待ちにする者達がいる。

 戻りたずさえるは≪勝利≫の二文字のみ。

 その後――間違いなく想定したタイミングで、奴が動くならそれに越した事は無い。

 そのためにもこの眼前を覆う巨大なる試練を越える――まずはそれからだ。


「ボーマン、肉薄するのは私の指示を待て!この伝説殿の旗艦――まだ底がある!どうせ全力の戦いだ……!」


 眼前を旗艦に覆われるほどの距離で初めて気付いた違和感――なる程、これは一つの法則が存在するとの解に辿たどりつく。

 それは極めて単純――何の事はない、魔王を初めとする存在が恐れられる要因だ。

 この魔界における魔王や有力なる魔族の戦力――その基盤が何であるかを考えれば解は明白と言うもの。


『了解した、主よ!ならばこのまま距離を取り、支援攻撃に徹する!竜翔牙ドラギック・ファング展開!』


 真祖ボーマンが中心となる【竜皇戦士キング・ドラギック・ウォーリア】・剛竜形態の剛腕が、後方へ気炎を撒き――両腕の先が上腕よりパージされ、超音速の双弾頭となり旗艦【竜王アナンタ】を猛撃する。

 が、その剛腕程度では破れぬ障壁が行く手を阻む。

 障壁の類は想定していたが、絶対と言うほど強度が無いのも先に強襲した攻撃――【武蔵】の主砲群で確認していた。

 さしもの伝説殿も、の主砲ほど強力な一撃が見舞われる事は想定外だった様だ。

 展開していたであろう障壁が一部ぶち抜かれ、すでに超砲撃による生々しい破壊のあとが刻まれる。


 しかし覚えた違和感は、その破壊のあとが刻まれた先――まるで上辺の皮が裂かれた程度の傷跡だった事。

 さらに奥に外装甲と明らかに異なる箇所がチラチラと目に入る。

 脳裏ではすでに確信を得ている――だがここは、私が最も得意とする……いや、得意になってしまったいつものあおりをかまして見る事にする。


「どうした伝説殿、私達はすでにあなたのノド元寸前だ!このままえぐられるのを待つだけか?……晒したらどうだ、――私は全力で願うと言ったはずだがな!?」


 黒の竜機へ剛腕が舞う様に戻り、再び両の腕を元ある姿へ変化させ――交差する様に私が駆る紅の竜機が、伝説殿の旗艦を強襲する。

 抜き放つ超魔竜双衝角メガ・ドラギック・フォーディスが超音速の螺旋を描き、肉薄した障壁へえぐる様な雷光を打ち込む。

 それでも破れぬ隔たりに、対物防御の程度を測りつつ――ならばと黒き竜機へ必殺の閃撃を見舞えと、通信を飛ばした。


「障壁の対物防御は強固、容易くは抜けぬと見た!あなたならこれに対する閃撃を持ちうるな、ボーマン!」


 私と【赤蛇焔せきじゃえん】で放てる閃撃は確かに持っている――けれど後々をかんがみれば、四大真祖からなる四人分の魔霊力を持ち稼動する黒の竜機へ振るが得策。

 今の彼らならば、あの黒き竜皇を長時間駆るだけの底力を見せている――信頼にたる存在と化しているからこその指示だ。


『無論だ主よ!僅かな溜めを要する故、援護を願う!』


 える巨躯の真祖……剛竜形態の黒き片割れが、その通信と共に後方へ飛び――我が紅き友の姿が障壁へ更に肉薄を開始――

 が、竜王の旗艦より対空兵装と思しき無数の光学的な光の帯が、両に開かれた反射板を形取る翼より幾百と襲来する。

 それは障壁を解除する事なく、無尽蔵にばら撒かれていた。


「くっ!反則的な対空兵装だな……!両翼のそれは対空を兼ねたが故の形状か!ベル、当たるわけにはいかないな!」


『勿論です、レゾン!回避――機関最大でお答えします!』


 紅き友への言葉と共に我が力――竜の女神ドラギック・フレイアより、背部へ走る気炎のきらめき。

 こちらも当たるまいと各部六枚のスラスターを使い、木の葉の様に強襲する閃光を交わし、避け――なしながら再度の竜衝角の一撃。

 螺旋の雷鳴が竜王の旗艦との隔たりへ突き入れられると、先には見られぬ歪みをともなう魔粒子の波がその隔たりを伝播――幾百の閃光があらぬ方へ霧散する。

 その隔たりは攻撃時、重力レンズの役を担っていると察した私の後方――黒き竜機に集束される魔霊力のほとばしり。


『ボーマン、今の形態では貴殿の活躍がかなめだ!我等の力――集めてあの伝説へ叩きつけろ!』


『その通り!我等は我が主に並ぶ、不死王ノーライフ・キングの意志を継ぐ者……それを体現する時ぞ!』


 黒の竜の各操縦席――白銀髪の真祖ケイオスと触手の真祖ファンタジア、今力を束ねし巨躯の真祖へ思いと力を集束させる。

 それに答える黒き竜皇が、構えた双掌そうしょうを肩を引いた態勢――胸部に突き出す機体の反応式球体ドラギック・オーヴァ前で、力の奔流を濃密な光球へと変貌させた。


『ボーマン、今新たなる主が我等の力――四人の忠義なる証を求めています!あのほこり高きシュウ様より受け継ぎし力……【ネッアク】を治める真祖たる証を、我等の誓いと共に解き放って下さい!』


 思いの長けは優しき真祖 夜魏都よぎとも同じ――四人の真祖の心はすでに

 高密度に凝縮された四人の魔霊力は、あの不死王ノーライフ・キングに勝るとも劣らぬ輝きと化す。

 彼ら四大真祖の力が、まがう事なき【びゃく魔王シュウ】の力――そして【竜魔王ブラド】に連なる系譜と宣言する様にかざされ――


『我等が新たなる主よ、とくとご覧あれ!我等が四人の誓いの咆哮を――』


『黒竜奥義――【D・D砲ディメンション・デストロイズ・バスター】ーーっっ!!』


 双掌そうしょうが黒き竜の胸前で突き出され――上下を合わせる様に組まれる。

 凝縮された膨大なる魔霊力が、その奔流ごと魔光の渦を巻き――爆豪をまとい放たれた。

 渦巻く爆豪は、私の超魔竜双衝角ドラギック・フォーディスを彷彿させる螺旋の一撃――時空を震撼させる圧力から想像できる威力、あの超戦艦の主砲をも上回るだろう。

 すでに乱された対空攻撃の閃光が、その渦でさらに掻き散らされ――さえぎるもの全てを飲み込み進む、暴力的なまでの螺旋の渦が……

 暴力的な渦巻く爆豪によって、障壁全体が弾ける様に霧散――その様はさながら、巨大な光の泡の消滅であった。


 そして――ついに我が三国同盟と峻厳しゅんげんの旗艦とを隔てし最後の壁が、私と並ぶもう一つ……不死王ノーライフ・キングの意志を継ぎし力によって開かれる事となる。


 全ての試練を突き破り――二柱の竜機が伝説殿のノド元へ喰らい付いた。

 その宙空へ伝説殿の旗艦に勝るとも劣らぬ姿にて――私と四人の真祖が二柱の竜の肩を居並べ、反論決闘最後のステージへ躍り出る。

 そう――私達はたった一人の少女の罪……それをほふるためにここに立ったのだ。

 この眼前の伝説を越えるために、ここまで辿たどり着いた。

 最後の決戦――ここに来て今だ底を見せぬ伝説殿へ、最後のあおりを献上するとしよう。


 それが不死王ノーライフ・キングの――【竜魔王ブラド】の意志を継ぎし、の咆哮だ!


「来たぞ伝説殿……あなたのノド元に!最後に見せたらどうだ、今だひた隠すその……せっかく私がここにいるのだ――」


「次期【ネツァク】の魔王即位を宣言した……レゾン・オルフェスがな!」 

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