9話—5 天を穿つ超竜達



 破壊の訪れを解き放つ峻厳しゅんげんの魔王——それを受け切り突撃に移行した、異形の超戦艦。

 その艦首——反論の同志をまとめるは紅き魔法少女。

 二対の超竜を従えて、伝説になぞらえし法の頂点が乗艦する竜王の旗艦へと飛ぶ。


 真紅の閃光をまとう異形の戦艦を異形せしめるは、艦首及び両翼にたずさえた三対の巨大回転衝角。

 描く螺旋が今しがた、破壊と戦慄を撒き散らした閃条の道筋——開け放てば付け入る弱点となるそこを、封じに掛かる護衛艦群……その只中へ突き立てられる。

 真紅のまといはただの光にあらず——超戦艦へ、あの吸血鬼の如き超速を与える魔法術式の顕れ。

 三対の回転衝角が【三叉の戟トライデント】となり、正に激突する巨大な戟矛となる。


「ベル、壱京いっきょう殿——出力は安定融合で頼む!このまま一気にぶち抜け!!」


『私は全て問題ありません!壱京いっきょう殿……【武蔵】調整を!』


『心得ました!【武蔵】各【偏心回転機関ロータリック・リアクター】出力はそのままだ!【赤蛇焔せきじゃえん】との同調崩すな!』


 最強を頂く吸血鬼の大号令——答えるその友と、すでに彼女に魅了されし統括部長が絶妙の統制を披露し……超戦艦が猛撃した。


 【武蔵】に搭載される【偏心回転機関ロータリック・リアクター】——又の名をロータリーエンジンと呼ばれる超機関は、一つのエンジンで【統一場クインティア】に属する四つのエネルギー状態を同時に平行励起させる事が叶う奇跡の機関。

 更には回転エネルギーが直接取り出せる機関の出力特性上、回転衝角との相性が抜群である。

 L・A・Tロスト・エイジ・テクノロジーの粋を集めて開発された奇跡の機関は、近似する基礎理念を持つ小さきガソリン式回転式内燃機関ロータリーエンジン――それが世界において奇跡と呼ばれた様に、宇宙で最強の力を操る上でも奇跡であった。


 すでにひらけていたはずの峻厳しゅんげんの旗艦への道筋が、塞がれつつある。

 しかし紅き閃光をまといし超戦艦——その衝角がうなりを上げて護衛艦を片っ端から喰い散らかした。

 道を塞ぐならば貫いてでも突き通る、回転衝角〈ドリル〉の真骨頂である。


 巨大戦艦にあるまじき、恐ろしき速度で宇宙を駆けた【武蔵】後方——先とは打って変わり、背後の守りに着くは【マリクト】の最強の二柱。


『はっ!信じられぬ速度だな——俺の機体でも追いつくのに難儀しそうだ!』


 まずはこの二柱にて雑兵ぞうひょうを払う役目——頃合いを見て超戦艦にて突撃する吸血鬼の策。

 いささか破壊の訪れと言う想定外で予定を早めるも、その程度の乱れはむしろ策に組み込んでしまう恐ろしき才。

 あの魔王【ノブナガ】の元で修練に励んだ吸血鬼の少女には、造作もない事だった。


『これよりそれがしらは、一歩たりともレゾンの元へこやつらを通してはならん!死力を尽くそうではないか、魄邪軌はくじゃきよ!』


『おうっ!望む所だ!』


 ただ薙ぎ払う戦いからの防衛戦への移行——そんな事はこの二柱、呂布りょふ魄邪軌はくじゃきにしてみれば喰らい尽くす事に変わり無しとこの上ない気概。

 だがしかしこの状況、一見猛反撃をかける吸血鬼側が優勢に映る――が、相手は未だ数を減らしきれぬ大艦隊。

 徐々に両翼に展開していた竜騎兵含む部隊が、吸血鬼らの後方をおびやかし始める。


「凄まじき突撃、それが隠し球か!だが――これ程の数の劣勢、そうそう覆せはせぬぞ【ネツァク】次期魔王よ!」


 【峻厳しゅんげんの魔王】はここぞとばかりに大艦隊を操作し――吸血鬼陣営を袋のネズミへと追い立てる。

 いかな【武蔵】が超速の突撃を敢行したとて、吸血鬼本人が放った時とは訳が違う。

 いかんせんそのサイズ差と有人である事が影響し、超高速程度にまで抑えられている。

 超戦艦の巡航速度としては、すでに異常ではあるが。


 そしてこの策はあの破壊の訪れを放たれた時点で、吸血鬼の少女が一つの推測を元にして講じた突撃である。

 しかし、推測に誤りがあれば即座に危機へとおちいる奇襲でもあるため――突撃を敢行する中でも、伝説へのあおりを踏まえ情報を引き出そうとする。


「さしものあなたも、大艦隊を犠牲にしてを撃つ事もないだろう!この軍勢は本来魔族を外界の侵略から護る、最後のかなめだろうからな!」


「進路を塞いだ時点で、再び破壊の閃条を見舞う事は考えられない!故にこちらは突き通るまでだ!」


 あおりもまた策である。

 伝説になぞらえる魔王が、真に魔王であるならば――魔族と言う民のために、無意味にその軍勢を散らせる事は考え難い。

 いざと言う時の防衛力の衰えは、正に【天楼の魔界セフィロト】の致命的な弱点に成りかねない。


 それでもあおりと突撃を敢行する吸血鬼陣営は、徐々に退路を塞がれ【峻厳しゅんげんの魔王】が臨む舞台へ引きずり込まれて行く。

 そこへ伝説になぞらえる魔王――決闘を申し込んだ勇ましき陣営へ、同じくあおりを返して来る。


「その推測が正しいかどうかはさて置き――ほれ、いかな【マリクト】の二柱もこの大艦隊……そろそろ押さえきれぬ頃合ではないか?」


 言葉を濁しつつあおりを返す魔王の言葉通り、さしもの呂布りょふ魄邪軌はくじゃきも次第に防衛線が下がりつつあった。

 だが――


「その余裕はどこまで続くかな伝説殿!私は最初に言ったはずだ――とな!!」


 突撃形態のまま護衛艦を次々と喰らう【武蔵】の艦首――ニィ!と口端を上げた吸血鬼が更なるあおりを突き返し……先に【武蔵】背後に確認した、支援を求めた。


「ヴォロス殿!あなたの戦力たる幽兵騎士団ナイツ・オブ・ファントムの力……私に貸してくれ!」


 戦乙女ヴァルキュリアより放たれた魔導式通信が、【武蔵】の遥か後方—— 一見何も存在せぬ空間へと運ばれる。

 否——通信を受けたのと同じくして、魔量子立体魔法陣マガ・クオント・シェイル・サーキュレーダーともない異様なる一団が現出する。

 それは今までの吸血鬼の軍勢中でも際立つ異様さ—— 一見すれば死霊の群れであった。


うけたまわった、レゾンよ!指示された緊急措置に多少の時間を要した……だが、我が幽兵騎士団ナイツ・オブ・ファントム五十騎もあれば支援もまかなえよう!』


『今ここに立つ【イェソド】が擁する力であれば、例えのちうれいを確認したとて揺らぎはせぬ!魔将ヴォロス——いざ参る!』


 後方へ突如として現れたのは、あの魔将ヴォロスが仮に管理する【イェソド】にて彼に仕える軍勢であった。

 そのていが死霊を思わせる姿——よく見れば、何れも機械的な構造をのぞかせる鉄騎兵。

 ただその騎兵には魔族が生きたまま搭乗している気配は無い。

 幽兵騎士団ナイツ・オブ・ファントムの名が示すその軍勢の正体は、髑髏どくろの魔将と同じ存在——そう、かつては魔軍として天軍と戦いし将の同志。

 神霊に反逆した使徒ら――【堕天使】達の現在である。

 それらがヴォロスと同様に機械の身体へ、魔霊力を変容させた魂を宿す姿——吸血鬼側のである。


 髑髏どくろの将がようする幽兵騎士団ナイツ・オブ・ファントム先頭へ、一際巨大な姿の騎兵——呂布りょふ魄邪軌はくじゃきが搭乗する機体へ近似する【魔導鎧楼機マガ・デウス・メイル】の一機、【堕天の死霊皇リッチ・ザ・フォルヘヴン】。

 禍々まがまがしき髑髏どくろの様相はそのままに、魔将が騎兵となったかの如き出で立ち。

 黒き閃光と見紛う半物質化ローブを半身にまとう――機械的な質感の骨格がむき出しの、体躯が30mに届く死霊の王リッチが宇宙を疾駆する。

 機械の巨人である事を除けば、そこに地獄の死霊軍団が舞い出たかの様である。


「これで我らの三国の士が揃った!これより強襲突撃の第二段階へ移行する!」


「ベル……見せるぞ!私とお前が共にあった全ての時間、全ての思い——私達が共に支え合ったその結晶を!!」


『はい、レゾン!この日を私はどれ程待ち望んだ事か……!それがヴィーナ様を救う今である事に、この上なきほまれを感じます――いざ、行きましょう!』


 戦乙女ヴァルキュリア航宙形態の吸血鬼――彼女が合図と共に【武蔵】より飛び立つ。

 その間も超戦艦の進撃は止まる事を知らず、大艦隊の陣形へ大穴を開け行く。

 【赤蛇焔せきじゃえん】の肩口へ紅き少女が取り付き、更にもう一つの竜をつかさどる者達へ叫んだ。


「ボーマン!今だ……この突撃が最終ラインを抜ければ殿は眼前!解き放て、!!」


 叫びが魔導式通信の先――四大真祖と称された半身機械の真祖の心を、魂を打ち震わし――


『待っていた、我が主よっ!お前達、ここは私が指名された戦いの場……恨むなよっ!?』


『いくぞっ!――竜・皇・合・身――!!』


 黒き竜を形取るための機体に搭乗する同志へ、猛るままに断りを

 すでにはち切れんばかりである、たかぶる闘志はそのままに――竜を顕現するための咆哮を轟かせる巨躯の真祖。

 閃光がおびただしい魔量子立体魔法陣マガ・クオント・シェイル・サーキュレーダーを呼び――四機の【マガ・バットラウド】が吸い込まれると、それぞれが変貌を遂げる。

 だが先の反論決闘の折、竜の中心となったケイオスの機体ポジションへ――変容したボーマンの機体が陣取る変形を見せる。

 さらに閃光が収まらぬ内に、もう一つの紅き閃光が同様の魔法陣を引き連れて【武蔵】の片翼へ飛ぶ。


 その光景は当然傍聴席魔族からも、事の全てを視認出来る。

 そして――次に現われたる奇跡の超常が、傍聴席魔族達の割れんばかりの歓声を限界まで高まらせる事となった。


 魔界史上――恐らくは初めてとなる奇跡。

 【ネツァク】と言う吸血鬼の世界を統べた今は亡き魔王シュウと、あの生ける伝説と称された不死王ノーライフ・キング【竜魔王ブラド】――二つの意志と力を継ぎし最強へと至る超常の化身。

 それがあろうことか二対の竜機となってこの宇宙へ顕現する。


 一つはびゃく魔王退位後【ネツァク】の守護を任され、すでに存在していた黒の竜機神をつかさどる――【ネツァク】四大真祖。

 もう一つ――地球に害獣として生まれ、愚かなる魔界の造反者に使われながらも救いを見た……魔界にて、愛しき友のために最強へ至った紅き魔法少女。

 同じく常に彼女と共にあり、使い魔を経て親友となった紅き【竜の女神ドラギック・フレイア】をつかさどる。


 紅と黒――宇宙へ閃光と共に顕現した二対の竜機神が今、反論決闘にて勝利を決するため猛撃する超戦艦両翼へ付いた。

 目指すは伝説になぞらえし【峻厳しゅんげんの魔王】――その旗艦のノド元、眼前を塞ぐ全ての艦隊をほふり……決戦の刃を交えるために――



****


 

 【武蔵】後方へわずかな反応が見えた私は突撃の大号令を発した。

 ベルの力で【三叉の戟トライデント】と化す超戦艦で突撃を敢行する一方――【マリクト】の二柱がその背後の守りに付く。

 そして現れたる髑髏どくろの将がようする幽兵騎士団ナイツ・オブ・ファントムが、背後から迫る艦隊のさらに後方より砲撃を仕掛け――殿


 ヴォロス殿の騎士団は近接戦には不向きな軍勢と聞き及んだ私は、その隊をのちうれい――訪れるであろう危機への防衛として、敢えて時間差を挟んでの合流を依頼した。

 それらにはのちうれいへの対策として――魔霊的機械兵団である軍勢へ、導師の魔導操作による乗っ取りを防ぐ対魔処理を施す様指示し、時間を要した経緯も含まれる。


 どのみちこの決闘で、伝説殿の軍勢へ大きな打撃を与える事は想定済み――その直後に乗っ取りを敢行された場合、予想される魔界本土への襲撃に対する備え。

 その時点で防衛に専念出来る部隊が重要不可欠――でなければ、私と真祖らが安心して殿が出来ないと踏んだ策だった。


 のちうれいへの対応と決闘の勝利――二つの事態解決に必要な策と手段を、突撃を敢行しながら電光石化で組み上げる。

 今の時点で奴が動かぬのならば、恐らく私が想定する瞬間が最も危険なタイミング。


 その瞬間――判断を誤ればヴィーナは愚か、この魔界すら危険な目に合わせかねない。

 ミスは許されない――だが私には同志がいる。

 長き年月寄り添ってくれたベルもいる。

 何より私の勝利と妹の罪赦免しゃめんを待ち望む、大切な友達テセラがいる。


 訪れる最後の重要な決断の時へ向け――私はこの黒き竜の同志と共に、伝説殿を強襲する。

 全ての勝利のために――そして……ヴィーナと共にあるために!

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