9話—4 宇宙に舞え!紅と黒の竜機!



 遥か後方で視界に映った巨竜の変容——刹那の判断が同志を指揮する言葉になって、各機のパネルモニターへ木霊する。

 同時に私は戦乙女ヴァルキュリアを反転——想定される超常の一撃の射線上、背後に配した艦へ向き直りスラスターを全開にして——飛ぶ。

 さしものも、そのサイズゆえ超常の一撃を回避出来ない——正に刹那の判断が全てを分ける。


 だが同時に戦乙女ヴァルキュリアの内部に響く友の声——そして視界に映る艦の遥か向こう、押し迫るさらにもう一つの同志の部隊を確認していた。

 直後——背後より感じた圧倒的な圧力プレッシャー、これほど常軌を逸した物を感じたのはあの究極の頂き——【竜魔王ブラド】以来かも知れない。

 こちらのかなめの主砲を遥かにしのぐ、傍若ぼうじゃくなまでの破壊の訪れ—— 一瞬をあやまてば全てが水泡に帰す。


 否——この程度ならば想定の内だ。

 その為の私の友——究極の力を体現する存在が居る。

 響いた声へその合図とばかりに、私は超戦艦【武蔵】へ取り付き——吠えた。


『今だ、ベルっ!お前の出番だっ!!』


 同時に私の咆哮は、襲い来る破壊の化身——そのまばゆき閃条に包まれた。



****



 傍聴席魔族から悲痛の声が上がる。

 吸血鬼側のようする異形の戦闘艦が、突如として襲った膨大なるエネルギー光——破壊の訪れに包まれた。


 先ほどまで吸血鬼がほこる同盟の士に、鮮烈なる期待で声援を送っていた魔族も戦慄の中声を失う。

 それもその筈——今伝説になぞらえる魔王が放った力は、未だ誰も知り得ぬ真の力……恐るべきであったからだ。


 前触れもなく中央より分かたれた大艦隊——開け放たれたその宙空の道を、恐るべき圧力が戦慄と破壊をまとい貫いた。

 凍りつく魔族達——万が一その膨大なる破壊の閃条が魔界を穿うがてば、世界が消滅するほどの事態を容易に想像出来る。

 それは同時に直撃を受けた吸血鬼側の戦闘艦が、無事では済まぬ事態も連想させた。


——だが、破壊の訪れがまばゆき絶望を宇宙に描いている大艦隊中央……それは躍り出た。


「み……見ろ!あれは……!?」


「……そんな……、間違いない!あれは……あの御姿は!!」


 上層界より訪れた魔族が口々に騒ぎ出す——戦慄していたはずの魔族でさえ、恐らく今までで一層の歓喜と羨望せんぼうで沸きに沸いた。

 躍り出た影は、あの破壊の訪れさえも分断しそこに立っていた。

 否——立つ様に現れた。


 大型の積層型魔量子立体魔法陣ビルティ・マガ・クオント・シェイル・サーキュレーダーを周囲に引き連れ——位相よりせり上がる

 閃光を纏う真紅の体躯は、竜が直立したかの如し。

 仁王立つ姿で両の腕を胸前に組み——しかしその、鋭き双眸そうぼうの頭部は女神の出で立ち。

 魔族らはその現れたる存在を前に、打ち震える歓喜の声を絞り出した。


「あれは……、竜!竜の女神ドラギック・フレイア……!あれこそは伝説のあかき化身——不死王ノーライフ・キング【竜魔王ブラド】が駆りし究極へ至る存在だっ!!」


 かつて魔界の世界のために戦った、伝説になぞらえる者達――その決死の大決戦の中……矢面に立った。

 そのはかなき陶磁器の様な白を腰まで流れる銀嶺ぎんれいの奥へしまい、魔界の大地へ暴風と共に現れた。

 主の意向にすら従わぬ神霊の率いる光の大軍勢――魔族の存在を賭け立ち塞がる輝ける金色こんじき、十二枚の光の閃翼をまとう者のかたわらで共にあった銀嶺ぎんれいの少女。

 彼女が闘争開始と共に身を委ねたのはそびえ立つ竜――それこそがあか竜の女神ドラギック・フレイア


 いにしえの伝承を経て、この天楼の魔界セフィロトでもすでに直接知る者は少数となる中で――ついにそれは姿を現した。

 新世代の魔王即位を宣言した、闇の希望の元へ――


 訪れたる僥倖ぎょうこうを、傍聴席でまばゆさに目をしかめながら、その伝説の当事者である魔族ナイアルティアも感慨深さにふけっていた。


「すでにいつぶりかは忘れてしまったが――ようやくこの瞬間を拝む事が出来たよ。見えているだろ?聞こえているだろう、ルシファー。これこそボク達が魔族としての全てを賭けて辿たどりついた結果――その未来の行く末だ。」


 遠く天楼の魔界セフィロト最上世界【ケテル】にて、未だ動く気配のない不逞ふていの輩が引き起こす不測の事態――万全を期すために知識をシンボルに持ち、魔界の動力源をようする【ダアト】と連携待機する【魔神帝ルシファー】。

 最も恐れるのは動力源に対しての、何らかの行動を起こされる事態――それは魔界世界そのものに致命的なダメージを及ぼす事となる。


 吸血鬼レゾン側ではとの判断であるが、魔界を統率する者としては楽観視も出来ず――魔導式の通信により主星ニュクス大気圏上の激闘を見守りつつも、警戒態勢を厳としていた。

 魔界の万事へ対応する統治者に代わり、ナイアルティアも傍聴席に控え――最前線における有事への備えとして、同行を任された【ティフェレト】の魔王代理の少女へ瞳を移し――


「テセラちゃん、万が一のためにボクはここにいる。と言っても、この身では戦闘もままならないんだが――送る事は出来るからね?」


 隣りでした声に、魔王代理も相変わらずの飄々ひょうひょうとした素振そぶりのを見やる。

 その妙な言い回しに王女も首を捻りながら返答した。


「あの~……変態さん何が……はっ!?」


 ついに口に出してしまったうっかり王女――ガーンッ!と絶望的な表情で衝撃のまま硬直する

 涙目のままで説明を続ける――が、シリアスなどあったものではない状況である。


「……いや、うん。いいんだよ?テセラちゃん……。ミネルバも流石にそこまでストレートには言わなかったけどね……。事実だしね。」


 気を取り直すタキシードの魔族――歓声沸く中にあっても、油断は禁物のため簡潔に事を伝えていく。


「ごほん!……それはさて置き――これより後、あの吸血鬼レゾンが想定する者の動き。それへの対処として、彼には一先ず主星ニュクスに残ってもらっている。」


「何せ彼の力は地球ではそうでもなかっただろうが、魔界においてのダダ漏れ感は尋常ではないんでね。肉体を封じられたままとはいえ、あまり不逞ふていの輩が警戒して予定を早めかねない。」


 王女は皆まで言わずとも、その言葉が指す人物を知り得ている。

 しかし、地球での最後の戦いにおいても彼女をサポートする彼は尋常ならざる力を発揮していたはずである。

 それが本来の力の一部であり――霊的肉体がともなえばどれ程の物かを聞き及んだ今、もはや王女には彼の力の見当など付くよしもなかった。


「本当にローディ君ってば……。どれだけ力を制限してたんだか――私ちょっと落ち込んじゃいます。でも今主星ニュクスに彼がいるんだったら、どうやってこの天楼の魔界セフィロトに――」


 魔界では自分の力や存在に強き自信を持ち得た王女も、かつて地球の戦いにおいて魔法少女マガ・スペリオル・メイデンシステムコアとして共にあった友人を想う。

 正体が堕天使であり——かつて光の最高位天使であった友人の、その加護こそが自分の力の源泉であった事実。

 すでに魔王に匹敵する力を発揮出来る今だからこそ、秘めたる力すら満足に扱えずにいた頃が脳裏にぎり——恥ずかしさに沈みながらも、現状そばに居ない友人への有事の際のコンタクト手段……それを問おうとした。


 ――その時王女の視界に飛び込む、一条の破壊の訪れを分断する姿の背後―― 一隻の巨大艦が変貌するさまを目撃する。

 目にした光景に、事が動くときと悟った王女——同時に彼女がまるで吸血鬼レゾンの様に、口端を僅かに上げた笑みで伝説の一角へ言い放つ。


「ナイアルティアさん……レゾンちゃんが。あれが私とヴィーナにとってかけがえの無い、強くて素敵なナイト——最強に手を伸ばした不死王ノーライフ・キングを継ぐ者です!」


 想いのたけを発した王女の目に映る巨大艦が、手の内を隠すような今までの海洋艦艇然とした姿から——艦首バルバスバウ下部装甲、そして両可変翼フレックス・ウイングよりを現出させた。

 異様なる艦艇がさらに異様さを持つその姿——突撃し、さらに獲物を決して逃さぬ様相……三叉の戟トライデントが全容を現す。


 そして……程なく艦艇があかく激しき閃光に包まれると——あの吸血鬼の虎の子、超高速突撃へ移行した。

 峻厳しゅんげんの魔王への反論決闘——耐えしのいだ吸血鬼の軍勢が、今……反撃に転じたのだ。



****



 【武蔵】には壱番艦の様な絶対防壁は無い。

 むしろあれは、クサナギ宗家の当主である桜花おうかの持つ魔法少女マガ・スペリオル・メイデンシステム――そのメインコアである、天津神の神霊が【大和】とエネルギー的に連結されていたからこその技。

 直感でそれを理解した私が、刹那で取りえる防御手段――【武蔵】の眼前にベルの本体である【赤蛇焔せきじゃえん】を顕現する事で、積層型魔量子立体魔法陣ビルティ・マガ・クオント・シェイル・サーキュレーダーが生み出す位相との次元断層をとっさの盾とした。


 思いつきで上手くは行ったが、次は無い――ならば頃合だろう、今こそ私の全てを解き放つ時。

 ここからが反論決闘の本番だ!


「レゾンより各機へ——これより突撃を敢行する!ノブナガ、頼む!」


 破壊の訪れをベルの機体で防ぎつつ、自分は【武蔵】の甲板へ戦乙女ヴァルキュリア形態で取り付く。

 続けざま、三国同盟を指揮する私が一騎当千の超戦艦——その総監を任せた魔王へ指示を飛ばし——


「うむ、心得た!壱京いっきょう殿……このを見せる時じゃ!全艦突撃形態へ移行せよ!」


「御意!全艦に通達……これより【武蔵】は突撃形態へ移行する!艦首バルバスバウ、及び両舷可変翼フレックス・ウイングより穿うがつ刃——艦載型三対竜衝角トライディ・ドラギック・フォーディスを展開せよ!」


「うおぉぉ!ついにドリルの出番ですなっ!アイサー ――艦載型三対竜衝角トライディ・ドラギック・フォーディス展開!」


 それを受けた統括部長からの指揮で、真鷲ましゅうの若衆が奮起する。

 魔界にて異様を体現するその艦は、策として装備した巨大衝角を内部へ収納した状態で決闘に臨むよう伝えていた。

 元々収納式として装備されたそれを、今の今まで温存したのはまさに使い処の問題に他ならない。

 そもそも艦艇でゼロ距離へと肉薄するこの武器は、言わば諸刃の剣——放つ時をあやまてば、包囲され袋叩き……敗北が確定する兵装だからだ。


 諸刃の剣である弱点――むしろそれを逆転の発想で策に組み込んだ。

 己が受け継いだ究極へ届くいただきの力で、強制的に船体を加速させ……肉薄どころかイッキに敵のふところへ飛び込む奇策——私が振るう虎の子、最も得意とする必殺の一撃そのものだ。


 それを承諾した統括部長 壱京いっきょう殿は私の必殺の突撃になぞらえ、巨大回転衝角へ竜衝角ドラギック・フォーディスの名を当ててくれた。

 そこから放たれる突撃が、何者にも勝る私の想いの強さそのものであると宣言する様に。


 放たれた指示によって、【武蔵】の艦首と両舷へせり出す巨大衝角——同時に高速にて螺旋を描き回転を始めた。

 その何者をも貫く衝角展開を確認し、待ちに待った友と——すでに心酔の渦中にある三国同盟がほこる四人の真祖へ……それらが臨んだ指示を、【ネツァク】の次期魔王を宣言した者として放つ。


峻厳しゅんげんの艦隊を!ベル、真祖らよ——【武蔵】を囲み防衛陣を形成!殿が見えたら……出番だぞ——ボーマン!」


 私があえて呼ぶその名——真祖の一人であるあの呂布りょふをも上回る巨躯の男、ボーマン・アルアノイドである。

 ふところに殴り込み、伝説殿のノド元を喰い千切るため——真祖の中でも大部隊……引いては旗艦への決戦戦力となる黒き竜の形態を求めての物。

 すなわちボーマンが主軸となる【竜皇戦士キング・ドラギック・ウォーリア】の決戦形態が必要だった。


「この場面で我をご指名頂いた事——まさに感謝の極み!我があるじよ——【ネツァク】を統べし次期魔王よ!共にあの伝説へ、反論の意を叩き付けてやりましょうぞっ!!」


 歓喜にたぎるボーマンへ、頼むとの首肯を送り——戦乙女ヴァルキュリア航宙形態のまま、【武蔵】艦首甲板……取り付く私が魔法術式【竜爆超弾道フレア・バリスティアー】の艦艇版——【竜皇閃艦超弾道フレア・バリスティアー・エクセルテグ】を魔量子立体魔法陣マガ・クオント・シェイル・サーキュレーダーにより展開。

 魔量子をまとう巨大な無数の立体魔法陣が、【武蔵】 全体を舐める様に通過……超戦艦をまばゆき真紅の閃光で包む。


 伝説のノド元を喰い千切る準備は整った——私は友へ、最後の突撃の咆哮を向ける。


「ベル!行くぞ——これより奴のふところへ!そこからは私とお前……今迄つちかった全てを賭けてぶち当たるんだ!よろしく頼む——大切な友達テセラのため、そして大切な妹となった少女ヴィーナのために!」


『ハイ!行きましょう、レゾン!私達の臨んだ未来のために!』


 反論決闘が最終局面へ突き進む。

 ——未だ、導師ギュアネスの動きも見られぬままに——

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