9話―2 天下布武を頂く者達
押し寄せる巨獣を彷彿させる大艦隊――尖兵となる竜騎兵が戦列を組んで飛来する。
戦いは始まった――けど私はここで力を浪費する訳にはいかない。
少なくともあの法の頂点と切り結ぶのは、私でなくてはならないから。
『ノブナガっ!まず私があの騎兵の戦列をかき乱す!――【武蔵】を任せる!』
対するのが騎兵程度であれば、この
しかし【武蔵】の戦闘出力を現状確保出来たが、【
ゆえにこの場は同盟の同志――頼れる【マリクト】の軍勢に任せるのが上策だった。
「カカッ!是非もなし……
【武蔵】の艦橋で総監を任された主君の大号令が掛かる。
【マリクト】が
『うおおおおおっっ!我が殿よっ、その言葉待ち申した!この
『貴様っっ!抜け駆けは許さんっ!このオレとて殿の言葉を待っていたのだ!――どちらがこの最強の艦隊を屠れるか、勝負と行こうじゃないかっっ!』
一騎当千――その言葉こそ相応しい二人の武将が駆る巨大なる機影。
【
【
あの鋼鉄の機馬には過去
重装備で且つ槍術戦用に機動力を特化させた
『皆まで言う必要も無かろうが、片っ端から落としても構わんのだな!?レゾンよ!』
猛る声が、モニター越しでうずうずした巨躯の武将の心情を叩きつけて来る。
無論この戦いでは、法の頂点が有する機体を可能な限り減らしておくに限る。
その意気で頼むと首肯し、さらっとこちらの心情も伝えておく。
「ああ!完膚無きまでによろしく頼む!――この様な形ではあるが、あなたが味方で心強い限りだよ……
『
猛然と宇宙を駆ける【
高速巡航形態を持つそれは【
更に使い魔であったローディが、テセラの
半量子体であったローディの様に、数百数千と言う数は無理だが――それでも確実に十数体の残像が一度に攻撃出来るのは、切り札に他ならない。
『さて、オレはレゾン嬢の戦いを間近では見た事がない!出来ればここでお披露目願いたい所だなっ!』
そういえば、この将はずっと裏方で私を支える様主君に命ぜられていたな。
戦いを拝見したいなどとは、確かに
「ははっ!相当
『レゾン嬢よ!』
返礼途中で制された――その意図は――
『もはや我等は同志!魄邪軌殿などと他人行儀は不要だ……しかとその戦いを――レゾンの生き様を拝見させて貰うとしよう!』
影に生きる割には、随分砕けた男だな――ではお言葉に甘えて。
「そうか!ならばよくその目に刻むといい――
小型モニターの向こう――相変わらずの厚いマフラーの様な防具で口元が見えないが、目元で分かるほど高揚したか……流石に笑った事が確認出来たな。
そして首肯するや、敵陣営に躍り出る
二人の一騎当千が両翼に散り――程なく爆散する機影が無数に闇へと消えて行く。
これはいかん……二人に先を越される。
ガラにもなく心に熱く
「さあ、あの法の頂点が鎮座する旗艦まで
胸部の魔法装飾、量子思念体のベルに合図を送り――「了解です、レゾン!」の返答を受け取った私も、二人に負けずに突撃へ移行。
眼前の竜騎兵、まずはこいつらを掃討する。
両翼のスラスターが気炎を上げ――紅き烈風となって、私は宇宙を駆けた。
****
竜騎兵の戦列が舞い躍る嵐に掻き乱される。
竜を模したその尖兵は、【
魔界全土においてもその軍勢の脅威は知る所である。
だが——三機の一騎当千が舞う宙空を
巨大な鋼鉄の機馬――まるで
巨躯の武将
『まだまだ!この程度では我が魔槍【
竜騎兵とて、魔界の魔族からすれば恐るべき尖兵であるはずが――巨大鎧を
一騎ずつなどと言う概念を吹き飛ばす攻撃――組み上げた戦列が、戦列ごとなぎ払われる光景はすでに悪夢である。
右翼ではその悪夢が猛威を振るう中――左翼では、騎兵が見えざる刺客の手によって次々と爆散して行く。
【
それがこの惨状はどうだ――すでに自立型の思考では、見えざる
見えざる刺客【
『単純な思考パターンだ!これでは、落としてくれと言っている様なものだぞアーナダラスっ!
両翼の騎兵が無残に戦列を瓦解させていく中――その中央は……どうやらその惨状を上回る悲劇が、紅き烈風と共に貫いていた。
吸血鬼は未だ
後方にはその戦列を維持すべく竜騎兵を艦載する空母が、恐ろしき勢いで瓦解する戦列補充のため――第二、第三の騎兵を送り出している。
送り出しているはずである――だがすでに、その戦列数が三機の一騎当千を押さえられぬ程に減少していた。
『ふっ!【
紅き烈風の音速で唸りを上げる竜の双角が、煌く閃光と共に戦列を縦に撃ち抜き――凪ぐ一撃が、横に騎兵の群れを掻き散らす。
超常も超常――常軌などすでに、遥か昔に闇へ沈んだと見紛う戦場。
法を司る魔王の軍勢が、下層界を代表する一騎当千が放つ悪夢の様な攻撃の中――次々と闇へ散っていく。
その様は、傍聴席で格闘大会の観客さながらで見守る魔族をこの上なくヒートアップさせる。
それが【帝魔統法】上の反論決闘と
常軌を軽々と越えた熾烈なる戦場――されどまだ決闘の序の口である、それを現すかの如き艦影が荒ぶる武の化身達後方へその歩を進めていた。
「うむ、出だしはまずまず。あの二人を支援につけたレゾン嬢ならば、この戦果も予想の
巨獣の如く迫る大艦隊を相手取る、吸血鬼側唯一の艦艇——しかしその姿にはただの戦闘艦とは思えぬ美を宿す。
前後に長く200mを超える全長——魔界の世界観には馴染まぬ
魔界からすれば異様――傍聴席の魔族すらも、立体モニターに映る謎の存在を目の当たりにし口々に騒ぎ立てる。
無骨なる戦闘のために生まれたる超戦艦の姿に、誰もが驚きを隠せない。
「心得ました!よし――【
「レゾン嬢の策成功のためには、この【武蔵】の活躍が
「「アイアイサーっ!!」」
【
ただし軍隊の様なそれではない——荒ぶる武の化身らにも似た、さながら海賊のノリであるが。
巨大なる艦影は【
その静止した宙域—— 一騎当千の猛威を潜り抜けた軍勢が、手にした騎兵槍を構えつつ戦列を立て直して襲い来る。
戦場の中――突然の静止の意味を測りかねる傍聴席魔族も、集中攻撃による惨状を想像したが――
立体モニターへ、魔族らの想像を覆すもう一つの悪夢の光景が襲撃する。
「主砲右舷90度回頭、仰角10へ——各砲エネルギー充填!副砲並びに対空砲も待機!宇宙ならば【
超弩級艦が擁する三連装にして三門の巨砲——各砲身に配される反応機構が満たされた粒子の輝きによる弧を描き、迫り来る竜騎兵を射程に捉えた——
「主砲——全門斉射っ、
それは超高密度の粒子の帯——粒子と反粒子の対消滅を現す雷光を
貫く閃光は襲い来た戦列を縦断する——刹那、主砲の一撃が通り抜けた宙域全ての騎兵が爆散……宇宙の闇に消える。
統括部長が口にした言葉――【
つまり宇宙空間であれば、その制限を完全に解除した――文字通り最強状態での戦闘が可能であると言う事に他ならない。
吸血鬼が差す一騎当千——その中には、この超戦艦も含まれているのだ。
「なんとっっ!?」
「おいおい冗談だろっっ!?」
前衛にて、気炎を振り
だが――あろう事かその推定を遥かに上回る威力の主砲の閃条が、二人の舞う宙域を
「……こ、これは
総監を任された【マリクト】の魔王――この男ですら、想定を上回る威力に謎の汗を額に躍らせる。
ノブナガは地球と魔界防衛作戦の折――壱番艦である【大和】の放った主砲の威力を見ていたゆえ、その知識にて事を図っていた。
しかし総監を担う魔王に対し――さも動じる
「これが【
統括部長
言うまでも無い――魔界において、究極へと手を伸ばした
「レゾン嬢の最強へ頂く力が、この【魔を穿つ刃】をも最強へと導くのです!――もうこの名を冠する艦へ……命を救えず水面に帰す様な屈辱を、味あわせる訳には行きませんのでね!」
統括部長が口にした言葉――そこにはかつて【武蔵】と言う名を冠した本来の超弩級戦艦、悲しきその最後の雄姿への追悼の意が込められていた。
今度こそ――【武蔵】の名を
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