―魔界新世代・超常決戦―

 9話―1 駆けよ!一騎当千の同志達!



「以上が私の考えた案だ。ノブナガの意見を参考に組み上げたんだが……どうだろうか?」


 いざ殴りこむ法廷の場に向かう数時間前――反論決闘に必要な、ヴィーナを法的に救済する件とその後……導師ギュアネスが起こす行動への対応を話し合っていた。

 天楼の魔界セフィロトの外郭に当たる、【ゲブラー】世界の境界地点――重力アンカーで【武蔵】を係留、その場で魄邪軌はくじゃきとの合流もみる中。

 魔王がいつものしたり顔でうなずく。


「カカッ!まさかお主がこの様な策に出るとはな……!あの、伝説になぞらえる者の表情が目に浮かぶわ!じゃがの――」


 【武蔵】艦内に設けられたミーティングルームで、【マリクト】の仮作戦司令部の如く近未来な作りのテーブルを囲む面々。

 私の提案した策へ高揚を見せるも、直後の厳しい視線――それが意味する事は理解していた。


「ああ……、この策ではあくまであの魔王の大軍勢が、魔族――または龍族で構成されていた場合の話だ。――そこをあなたに質問したい……あの魔王の古き友人殿。」


 提示した策の大幅な修正如何いかんを踏まえ、決闘で対峙する伝説の魔族と親しき仲であるノブナガ配下――魄邪軌はくじゃきへ質問の矢を向けた。

 すでに合流した、このしのびと称する任を終えし魔族――伝説になぞらえただけの事はある……あのギュアネスが放ったと想定される人造魔生命機兵を相手に、傷一つ無い身で当然の様にこの艦へ合流していた。

 それを目の当たりにするだけで、その者を配下に従えた【マリクト】の魔王が――そして伝説になぞらえるあの法の頂きが、いかに強大であるかを脳髄に刻まれるな。


「ご察しの通りだレゾン嬢。これは反論決闘そのものが行われる場所にも関連する事なのだが――」


 ミーティングルームの壁にもたれたまま、腕組みする魔族は視線のみをこちらへ流し――

 

「あの魔王が持つ軍勢は、全てではない。むしろその本質は外――、【魔神帝ルシファー】卿より許可を得しこそがあいつの真骨頂……。」


 すでに察しはついている――けど直接宣言されれば、まさに私が提示した案ではその後への憂いが残る思考に辿たどりつく。


「やはり……あの魔王の主力は――。……この案では修正も止むを得ない、か。」


 相手が生身の魔族や魔界生物であれば、直接戦闘に加え――精神的なあおりも絡めた攻撃で部隊をかき乱す算段であった。

 しかし相手は大艦隊――おまけに私の思考で想定されるのは、その中でも後の憂いが最も高まる最悪の展開。


 十中八九違わないだろう――それでも確認と僅かな希望にすがろうとしのびの将へ問う。


魄邪軌はくじゃき殿、聞くまでもないだろうが――その大艦隊……無人艦隊だろう?」


 将は厚く口元を巻く特殊なマフラー形状の防具の下――きっと僅かに、私への賞賛の笑みが零れただろう……そのままにうなづいた。


 希望が断たれたか……であればこの戦いは――


「となれば今回の反論決闘……敵の動きを――のちに動くであろうギュアネスへのけん制として、電撃戦になるな……。」


 ただの決闘であれば、相手さえあおりに乗ってくれた時点で半分以上の勝利が確定し――後はじっくり攻め落とすのみ。

 だが――私の戦いはその反論決闘が最後ではない。

 その後に訪れるであろう、因果の果ての最終決戦こそが私の勝利を決める物。


 導師ギュアネスが、あの地球での姿のまま出現するとは考えていない――いや、考えたくは無い。

 それではシュウの命が、無駄に散った事となってしまうから。

 私にこれだけの生きる価値を残してくれたあの魔王の――その存在した価値が失われるのは何よりも耐えがたかった。


 しかし今は、反論決闘のその後――最終決戦を含めた修正案提示が最優先。

 思考ですでに準備していた代替案を、この場【武蔵】艦内に集う同盟を結びし同志へ伝えよう。


魄邪軌はくじゃき殿の情報で決めた。我等が行う反論決闘――そこに実質猶予が無い。そこで我等は電撃戦――電光石化で決闘勝利をもぎ取る必要がある!」


 これはいくら同盟を結んだとは言え、かなりの負担を皆にいる事となる。

 だから皆の目を見渡した――けど、どうやらそれは杞憂である事が確認できた。

 ――そうだな、ここに集うは魔界でも新たな伝説を刻まんとする英傑ばかり……むしろあなどっているのかと、非難の視線を向けられた。


 ならば決を下そう――それが同盟を宣言した私の取るべき責務だ!


「【魔王アーナダラス】の大艦隊――それを可能な限り落としつつ、あの魔王の懐へ突撃する!その際落とす艦、しくは機体は完膚無きまで叩きのめして貰いたい!無人の機械艦隊をそのまま残せば、導師の付け入る隙になるからな!」


 私の思考に眠る忌まわしき戦いの記憶――導師ギュアネスが、意志の宿らぬ機械や人形を意のままに操り己が力に変えた惨状を引っ張り出す。

 これは、自分だから辿たどりついた今取るべき最良の策――今更過去に取り憑かれて右往左往する様な醜態しゅうたいも無い――勝つために必要であれば、策の情報補完にでも何にでも利用してやろう。


 それこそが、私が辿たどりつきしいただき――そして眼前の名だたる新世代の伝説をまとめる最強だ!


 程なく重力アンカーを引き上げ――その伝説らに力を貸してくれるほこり高き超戦艦【武蔵】が宇宙を舞う。

 ――さあ行こう、この魔界へ語り継がれる超常の伝説を刻むために!



****



 突如として法廷の場に現れた紅き烈風――瞬く間に反論決闘の了承を、法の頂きより取り付けた。

 しかし――吸血鬼の思考した想定の通り、状況がつつが無く進んで行く。

 【魔王アーナダラス】が指定した決闘場所――それは天楼の魔界セフィロトが舞う主星、【ニュクスD666】の衛星軌道近く。

 主星からおよそ高度100000――100Kmを越える宙域。

 そこは天楼の魔界セフィロトを覆う超魔導フィールドである、ネガ・ヘリオスフィアに最も近き地点――例えるなら、魔界における大気圏の果てである。


 さすがに今回引き起こされる反論決闘、魔界史上類を見ない規模が想定されたため――そして【魔王アーナダラス】の力である大軍勢が、如何いかんなく威力を発揮出来る事前提で指定されたのだ。

 ――そう、峻厳しゅんげんの魔王がほこる無人の大艦隊が、最大の威力を発揮出来る舞台である。


 ネガ・ヘリオスフィア――太陽系の物ヘリオスフィアに近い働きを持つそれは、相反する力を遮断するために魔界を包む。

 魔界に降り注ぐ正量子ポジティベート・クオンタム――言わば大半の魔族にとって、有害である光のエネルギーを遮断する魔界の生命線。

 それらは主惑星【ニュクスD666】を中心に展開され、そのエネルギーをまかなうために【万魔殿パンデモニュウム】が建造されたと伝えられる。

 

 主惑星が自転によって生み出すネガ・ヘリオスフィア――その力を増強拡張するために、【万魔殿パンデモニュウム】へ自らその身を投じた古の魔族も存在する。

 あの不死王ノーライフ・キング【竜魔王ブラド】は、その主惑星の魔族を統括する役目も得ているのだ。


『決闘の細かい取り決めは不要だな?次期【ネツァク】の魔王よ。』


 魔導によるオープン回線――言わずと知れたこの決闘も法の範疇はんちゅう

 全ての行いが記録されるため、秘匿ひとく回線など存在しない。

 だが逆を言えば細かい策の打ち合わせは、事前に行う必要がある――それが不正の疑いを持たれぬ様に。

 純粋な決闘の策であれば、吸血鬼も合えて隠す事もしないであろうが。


「ああ、勿論だ。私達は生憎時間が押している――正面からの打ち合いの方が都合が良い。」


 吸血鬼はすでに戦闘態勢にある。

 が、未だ戦乙女形態ヴァリキュリア・モードのまま――現在の仕様は戦乙女ヴァルキュリアの宇宙戦闘形態である。

 魔界内――大気圏内仕様とも言える形態は基本生身の露出が多く、純粋な格闘に向く形態である。

 一方宇宙戦闘形態では、宇宙空間での活動を考慮し――強力な光量子フォニック・クオンタムを防御するシステムを初めとする、スリムではあるが決して軽装では無い真紅のパワードスーツと言える。

 だがレゾンに力を供給するベル――ブラックファイアの本体【赤蛇焔せきじゃえん】に順ずる様に、竜鱗を模した装飾が各所に配され……背部には巨大な竜翼とも取れるスラスターが構えられる。


 その形態の役割は小魔法力運用モード――魔導超戦艦【武蔵】の起動時動力として、【赤蛇焔せきじゃえん】からエネルギーを分配する際の特殊形態だ。

 【武蔵】の主機関である【偏心回転機関ロータリック・リアクター】は地球の戦いの際奮戦した、壱番艦である【大和】のそれと同型のため――必然的に同じ運用手段を取る必要があった。


『両者準備は整いましたな……。』


 監査官より――魔導通信にて【峻厳しゅんげんの魔王】と【ネツァク】次期魔王両者への確認が取られる。

 当然の事ながら、監査官へは一切の不正も無き様――【峻厳しゅんげんの魔王】側も監視をおこたるなと厳命されていた。

 伝説の一角であり――法の頂点である男の厳正さがにじみ出る行動である。


 しかし今回完全にこの法廷の場――格闘トーナメントの決勝戦の様な体であるため、あえての監査官による配慮が回される事となる。


『ではこれより【ティフェレト】元第三王女、ヴィーナ・ヴァルナグス――彼女が受けし重罰赦免しゃめんを賭け――』


 法廷の反論決闘自体はさほど珍しい事態ではない――だが、この戦いは魔界の歴史上類を見ない超常の決戦。

 なにしろ魔界創生に関わる、伝説の一角――あの厳格なる裁きで知られる法の頂点が決闘の相手であり……それに挑むは、やはり魔界創生に関わる究極の頂きを受け継ぎし者。


 その戦いを、もはや法廷上の決闘レベルでは収まりが付かぬ傍聴席へ――通常でも類を見ない、会場を盛り上げる方向へ進められた。


『我が【ゲブラー】がほこる法の頂点【峻厳しゅんげんのアーナダラス】閣下と――【ネツァク】の次期魔王を宣言した、今は亡き【びゃく魔王シュウ】の意志と……あの魔界の生ける伝説【竜魔王ブラド】の力を受け継ぎし者レゾン・オルフェスが――』


 両者はすでに、格闘の域を遥かに凌駕する軍勢が相対する。

 ネガ・ヘリオスフィア最遠宙域で展開されるは、一万を越える【魔王アーナダラス】が力である大艦隊。

 魔王が乗艦する旗艦【竜王アナンタ】を初めとした、ナーガ・ラジャ級と呼ばれる騎兵艦載空母――さらにナーガ級と呼ばれる護衛艦で構成される。

 騎兵は竜人をあしらった体躯の魔導機兵――スラスターを兼ねた二枚の翼で宇宙を駆ける、裁きの使徒である。


 対して――

 吸血鬼レゾンが三国同盟のよって準備した軍勢は――レゾン・オルフェスの最強のパートナー【霊装機神ストラズィール】である【赤蛇焔せきじゃえん】を中心に、四大真祖が搭乗する【マガ・バットラウド】各機と……地球がほこりしL・A・Tロスト・エイジ・テクノロジーと魔導技術の結晶である【魔導超戦艦 武蔵】である。


 否――その超戦艦を守るように魔量子立体魔法陣マガ・クオント・シェイル・サーキュレーダーが広域展開されさらに二体の巨大なる影が、漢字を崩した様なスペルを組む法陣の中より出現した。

 一体は赤と灼銅しゃくどうを基調としたを模した巨人――そしてもう一体は魔光が帯状になって機体後方へなびき、機動性を絵に描いた様なスリムな体躯の彿巨人。


 だがそれを踏まえても、数の差は歴然である吸血鬼陣営――傍聴席からすれば、圧倒的不利を予見させる部隊の中心で……レゾン・オルフェスは包む戦乙女ヴァルキュリアの鎧の中、不敵な笑みを零す。

 ここにある一つ一つの機体が――それぞれ一騎当千であると言わんばかりに――


 両陣営――魔導式遠距離監視衛星が舐める様に撮影し、同時にそれが法廷の傍聴席前へ複数の立体スクリーンによって映し出される。

 歓声に沸き立っていた傍聴席の魔族は、その圧倒的な戦力差を視界に捉えるも――吸血鬼陣営の早々たる面構えに息を呑み静まり返る。

 普通に考えればその数の差は絶望的であるはず――だが吸血鬼を囲む、映し出された魔界のほこる名だたる英傑えいけつを目にすれば……もしやとの思考も過ぎる。


 何よりもその魔界下層界を代表する最強クラスの魔族――それを同盟と称し手を結んだのは、他でもないあの紅き魔法少女……【ネツァク】の次期魔王を宣言した吸血鬼なのだから。


『この両陣営が、反論決闘に臨みます!では――決闘を、開始してください!』


 戦いのゴングは鳴らされた。

 同時に再び沸く歓声が法廷を包み――その熱気が両陣営へ通信を通して伝わる。

 そして一斉に動き出す【峻厳しゅんげんの魔王】の大艦隊は、さながら一つの巨獣が咆哮を上げて向かう如し。


『さあ、レゾン・オルフェスよ!その気概が偽りでない事……見せてもらおうか!』


 旗艦【竜王アナンタ】も遅れて動き出す。

 最後方にそびえる巨大な竜王を目にし、吸血鬼陣営もそのたけりをあらわにした。


「ああ、見せてやるさ!けど今回は私独りじゃない……共に戦ってくれる同志がいる。きっとテセラも、こうやって私を助けてくれたんだ!」


 地球での戦いの最後――導師ギュアネスにより人柱にされた彼女レゾン

 しかしそれを助けるため、多くの仲間の力を借りて吸血鬼へとその手を差し伸べた王女テセラ。

 戦乙女ヴァルユリアの視界に映る小型モニターで見やる吸血鬼の目に、その救いの手を伸ばした少女が映り――気付いた王女も、花が咲き踊る様な笑顔で返す。

 「信じてる……後はお願い。」言葉にはしていない――それでも吸血鬼にはしかと伝わった。


 そして再び視線を襲い来る巨獣と竜王へ向け――共に挑む新時代の伝説へと咆哮を上げる。


「さあ、行くぞ!この戦いを勝利で終わらせる……駆けよ!一騎当千の同志達よっっ!!」


 ――そして、伝説が動き始めた―― 

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