8話―3 抜錨!魔導超戦艦 武蔵!


 元王女ヴィーナの裁判まで――もう猶予は無い。

 しかしここ【マリクト】で、信じられぬ速さの突貫工事を経て――ようやく作戦のかなめとなる艦の準備が完了した。


 だが――


壱京いっきょう殿……、これは少々説明を要するのだが?」


 額におかしな汗を躍らせて見上げる私の視界の先に、あのノブナガが地球は三神守護宗家より友好の証として譲り受けた巨大なる影が映る。

 地球と魔界衝突回避作戦の折――宗家の指揮の元、世界を守護するために奮闘した超戦艦。

 あの大和型壱番艦【大和】の後継となる艦――魔導超戦艦【武蔵】。


 基本的な意匠は確かにあの【大和】と同じ――そして、あの艦がまだ地球の海洋を中心とした運用に合わせた装備だったのに対し――この艦はすでに宇宙用の特殊装甲を、特に上部甲板中心に張り巡らせる。


 だが――だが、だ。


 この艦はL・A・Tロスト・エイジ・テクノロジーの厳しい制限を受ける事を踏まえた、その制限の外にある魔導技術とのハイブリッドで建造されている。

 外観の意匠を損なわぬ配慮のため、主に動力機関をつかさどる設備は艦の両側に備わった巨大な可動式翼フレックス・ウイングそれぞれと、艦のとも部に位置している。


 だが――その意匠云々うんぬんを大事にしているはずなのに、私の目にはどう見てもおかしな風景が映り込んでいるのだ。


「はい、私もこの【武蔵】運用に当たり――魔界での戦闘に有利に運ぶ兵装を進言しようとしたのですが――」


『兵装?ドリルだろ。』とクサナギ 炎羅えんら殿。


『ドリルしかないでしょう?』とヤサカニ れい様。


『ドリルしかあらへんやん!』と――うちの【真鷲組ましゅうぐみ】棟梁カナちゃんさん。


「と言う具合にですね――」


 いや、その発想はどうなんだ?

 何で宗家関係者の意見が、ドリル一択で統一されているんだ??

 疑問符しか浮かばない私であった――おかしいとは思うのだ。

 ――がよくよく考えてみれば、技術制限を受けたままの機関動力を通常運転させるため――地球の戦いでは、桜花おうかの力の源泉である日本神話の神霊【ヒノカグツチ】をコアとした壱番艦【大和】。


 その点では、この艦も同様のシステムの関係上――日本神話の神霊に匹敵する力で火を入れなければならない。

 肝心の火を入れる力――それは私が、【竜魔王ブラド】から受け継ぎし力であるベルからの力を【震空物質オルゴ・リッド】で媒介する手筈だ。


 そう考えれば――


「アリ……だな。」


「……アリ……なんですか。」


 私が洩らした言葉で、さしもの壱京いっきょう殿も諦めがついたのか――そのままきびすを返すと、


「レゾン嬢までが言うならば、こちらもそれで対応しましょう。確かに――あなたの虎の子の奥義、突撃には相性がいいかもしれませんからね。」


 壱京いっきょう殿――そんな言葉で向かう足取りはむしろ軽いな。

 もしかしてこの返事を期待していたのか??


 ともあれ【武蔵】の艦首――そして両翼フレックスウイングの先端に輝く三対の巨大回転衝角は、まさに否定の余地なく一発採用となる。

 三相の鋭き突起を持つ巨大艦は、その全貌がまるで三叉の矛トライデントを彷彿とさせる。


 あの統括部長殿が言う様に、私の魔竜双衝角ドラギック・フォーディスの突撃とはこの上なく相性が良さそうなのは間違いないかもしれないな。


 艦後方とも上部――二対のカタパルト下には、真祖の乗機【マガ・バットラウド】も艦載される。

 すでに三機が艦載され、残りは夜魏都よぎとが乗る機体のみとなり――


 その思考が過ぎったと同じタイミングで、夜魏都よぎとが【マリクト】へ到着した――が、そこに僅かな攻撃をかすめた後が残る。


 想定する不審なる者が動き出した―― 一瞬でその事態を悟った私は、足早に仮の作戦司令部へと向かった。

 魔王ノブナガを含めた者達と、魔界史上常軌を逸した反論決闘――そしてその後に控える、恐らくはの策を講じるために――



****



 ノブナガの臣下のしのびに護衛され、無事【マリクト】への到着を見た真祖 夜魏都よぎと

 彼女は確かに真祖としては強力な存在だが、搭乗する機動兵装が威嚇程度の武装しか無い事もあり、【ゲブラー】からの道中襲撃を受けたと聞いた他の真祖らも安堵した。

 そして今回の策をろうする一同が、仮の作戦司令部へと終結した。

 簡素な作りのテーブル数台を囲み、挑む者達が顔を付き合わせる。


夜魏都よぎと、よく無事でいてくれた。――それと君は魄邪軌はくじゃき直下のしのびだな――彼女をここまで無事護りぬいてくれてありがとう……感謝する。」


 真祖護衛の任を終え、己が頭領に代わる指示を待つ護衛の少女は僅かに目を見開く。

 夜魏都よぎとへここまで付き添ったしのび部隊の橙馬とうまは、己が主君ノブナガと対等に話せる程の吸血鬼の少女が―― 一介の兵である自分へ、深々とこうべれた事に少々驚き――


「勿体無きお言葉――私はここまで護衛にて付き添ったに過ぎません。」


 直接のかしらである魄邪軌はくじゃきの言葉が脳裏に過ぎり、「(なるほどこれは、数多の強者を引き入れられたのも分かる気がする。)」と顔には出さずに感嘆した。


 感嘆もそこそこに、この場はすでに主役の重要会議の場――それを悟るや否や、しのび部隊のくの一は一陣の風と共に姿を消した。


 そして――先に三国同盟を宣言した、究極へと手を伸ばした吸血鬼。

 彼女が挑む反論決闘を中心とした策の最終調整に入る。


夜魏都よぎとが遭遇した戦力――その詳細を問いたい。」


「はい、ではこちらをご覧下さい。」


 レゾン――そしてノブナガの思考内。

 不審なる輩が何者であるか――それを決定付ける一手を、真祖の女性から語られるのを心して待つ。

 同時に真祖も、己が乗機の記録映像――恐らくこれが決め手になるであろうと、魔導式の映像端末をONにした。


 映像に映り込む【ゲブラー】から外れた回廊の天空――そこには無数の巨大なる影がある。

 それは広範囲に展開された魔量子立体魔法陣マガ・クオント・シェイル・サーキュレーダーより、次々と出現している。


 それを凝視し――吸血鬼は結論を下した。


「間違いない。これは地球で見た、強化型野良魔族と同種の機動兵装――こんな物を魔界に放つ馬鹿は奴しかいない。」


 吸血鬼は映像の機影を同種と表現した。

 彼女はこの司令部の中で一番それを知り得ている。

 その彼女が地球で見た兵装との、大きな違いを見抜けぬはずは無い。


「魔界造反の折――奴は殆どの兵力を持たず、あの研究施設の要塞のみで地球へ訪れていた。地球でその戦力となるがあったからだ。」


「それは地球の闇を所狭しと闊歩かっぽする災害――野良魔族だ。」


 映像の機影の違和感に疑問を抱くも――すでに解を想定したノブナガはそれに肯定意見を出す。


「まさにしかり――じゃ。むしろこの魔界の戦力は、地球での策に支障が出た際の――魔界側へ向けた保険じゃろうて。故にこちらは、純粋な魔導技術で生成された大型兵装と見て間違いない。」


 そこまでを口にし眉根をひそめる魔王は、「存外にあやつは食えん策士じゃ。」とめずらしくさげすみの悪態を付いた。

 策士としては確かに評価出来る手筈の数々――しかしその往生際の悪さへ、さしもの魔王もイラついたと言う所か。


 それを見て吸血鬼もクスリと笑う――かつて日本と言う国を駆けた戦国大名。

 魔王と呼ばれた男は案外子供だな――「食えん策士」と言う言葉の裏側に、あの戦いの時点でそこまで見抜けなかった自分への腹立たしさが、造反者への悪態に変換されているのを感じた。


 そして――

 映像がもたらした結論は反論決闘ののち――もっとも重要である戦いの策へ、最後のピースをはめ込んだ。


「この反論決闘に関わる者への度重なる介入――これはかつて、地球と魔界の滅亡を企んだ魔界の造反者にして、【ネツァク】の偉大なる魔王シュウを裏切りし導師――」


「ギュアネス・アイザッハと見て間違いない!」


 同席する真祖らが息を飲む――「偉大なる魔王シュウを裏切った」。

 その言葉を発した吸血鬼が、僅かだが――しかし確実に怒りを持ってその言葉を発した。

 あたかも真祖らの心情を代弁するかの如く。


 もはや真祖らは、このシュウの意志を継ぎし吸血鬼の命であれば、地獄の底でもお供つかまつる――それほどの気概に満たされていた。


 静かな怒り――そして大切なる者を慈しむ心情が入り混じった面持ちで、吸血鬼は策の概要へと入る。

 この決闘を経て――自らを襲った、これまでの全ての惨劇を越えるために。


「私は反論決闘にて、ヴィーナを救い――テセラとの約束を果たす。その決闘の最中必ず奴は動くはずだ!」


「何故なら奴は魔族を、魔界を憎んでいる――いや、……憎んでいた――」


 集約された結論が、徐々に造反した裏切り者の真意を白日の下へ晒していく。

 恐らくこの未来は導師ですら予見しえぬ事態――魔界の未来を託された希望がその真実へと辿りつく。


「奴の狙いは【帝魔統法】の制度そのもの――それを生み出した魔王アーナダラスだ!」


 それは即ち――【帝魔統法】によって罰せられるヴィーナを、法にのっとった反論決闘で救い出す。

 さらにそのタイミングで確実に動く導師の勢力による、峻厳しゅんげんの魔王襲撃を阻止し――同時にこの魔界おも救うという策である。


 そう――この策は、レゾン側の完全勝利。

 の策。


 仮の作戦司令部へ終結する三国同盟の同士達へ、灼熱の風が吹き荒れる。

 かつてはいと小さき野良魔族――その少女が、こののち魔界へ新たなる驚異の伝説を生み出す事となる宣言を叩き付けた。


 彼らは最早――込み上げる熱い衝動を抑える事は出来ない。

 この吸血鬼のために力を尽くしたい――その思いが彼らを突き動かした。


「ならば最早細かい話は抜きであるな!戦支度を整えるぞ!」


 細かい事は分からぬ故と、黙していた巨躯の武将 呂布りょふが動き――


「では、ただちに【武蔵】の起動準備に取り掛かります!緋暮ひぐれ殿!」


 ノブナガの懐刀ふところがたなミツヒデは迅速な指示で、技術担当である真鷲ましゅうの統括部長へ通信を飛ばし――


『頃合だろうと準備は進めておりました。もう間もなく準備完了します――いつでもご指示を!』


 絶妙の空気を読んださじ加減で、緋暮 壱京ひぐれ いっきょうが対応を見せ――


「我らは一同、【武蔵】にて待機しております!レゾン様――いつでもご命令とあらば!」


 真祖らは猛る気持ちを抑えつつ、時期【ネツァク】の魔王へ最大の心酔を示し――


 ――そして、新たなる伝説に挑む新世代の新星達が次々と魔導超戦艦へ搭乗する。

 唸りを上げる機関が吸血鬼の言う通り、次元的に連結された【震空物質オルゴ・リッド】を介し――彼女の友人であるかつての【竜魔王ブラド】の鎧であった、【霊装機神ストラズィール赤蛇焔せきじゃえんへとエネルギー的に連結された。


「よいなレゾン嬢。まずは反論決闘――しかし相手はあの魔界の伝説の一人。そしてその力は大軍勢じゃ」


 魔王と吸血鬼――彼らが上がるは超戦艦の艦橋。

 窓の形状は意匠の関係ながら――そこは全て光学モニターで包まれる、先進的な近未来空間に近い設備、そこだけ見ればL・A・Tロスト・エイジ・テクノロジーの塊と見紛うほど。

 そこにも地球で【大和】を起動させた時同様、【真鷲組ましゅうぐみ】の若手が陣取る。

 しかし【大和】の時と比べ、いささか雰囲気ふんいきが荒い。


 緋暮 壱京ひぐれ いっきょう率いる宇宙出向組みは荒くれ揃い――むしろ魔界の魔族とは好相性とも言えた。


「ああ、心得ている。そのためにまず、魄邪軌はくじゃきの合流を待ち――万全の体制で臨もう。細かい話はその後だ。」


「――戦場での【武蔵】総監はノブナガへ委ねる。頼めるか?」


 熱き灼熱の風を巻き起こらせる、魔界の希望たっての依頼――無下にする意味があるのかと、吸血鬼へ視線を送り――


「是非もなし!レゾン・オルフェスよ――思うようにやれ!」


 放った言葉はあの髑髏どくろの将と違わぬ言葉――その将も、万一のため【イェソド】に展開する自軍の戦力をかき集めている所。

 魄邪軌はくじゃき同様、のちの合流を待つばかり――しかしこのタイミング、魔王ノブナガの予想外の言葉で少しその赤眼を見開いた吸血鬼。


 直後――まるで世界に名だたる英傑えいけつの如き笑みを、すでに得意の感謝の意と共に振りまいた。


「ありがとう……感謝する!」


 機関が通常航行レベルまでエネルギー充填を終えた。

 それを確認した吸血鬼の友人が通信により「機関出力良好!いつでもどうぞ!」

と言い放つ。


 ――時は来た――

 伝説を越える伝説を刻むため、挑む者達が魔導超戦艦と共に彼等の戦いの場へと出陣する。


壱京いっきょう殿!これより【武蔵】を出撃させる!目標は【ゲブラー】の一角――ヴィーナ嬢が裁きを受けし法廷のある設備じゃ!」


「じゃがこの艦のサイズでは魔界内側回廊は通れん!故に宇宙――この天楼の魔界セフィロト外壁を経由して向かう!」


 首肯の後――統括部長が、真鷲ましゅうの若衆へ出撃の指示を出す。

 【武蔵】が――地球での【大和】の如く、切なる願いを乗せて宇宙へ飛翔する。


「魔導超戦艦【武蔵】――抜錨!!」


 【マリクト】の数少ない海洋より、巨大な艦が出航した。

 それは程なく魔界の天を形成する内壁を越え――宇宙を舞う巨大なる艦影。


 ――魔界新時代の伝説が幕を開ける――

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