8話―2 挑む者達 それぞれの役



「これはいったい……!?」


 峻厳しゅんげんの地【ゲブラー】から、役目を負え速やかに【マリクト】へ向かう算段であった四大真祖 夜魏都よぎと

 【ゲブラー】界の入り口へ待機させていた愛機【マガ・バットラウド】へ搭乗――機体に火を入れ、舞い上がって速度上げ始めた時の事。


 ロックされる機体――四方から浴びせられた魔光の帯。

 それは魔法力を源泉とした集束火線砲である。

 その攻撃の一瞬怯むも、すかさず周囲にいるであろう機影をコックピット内――メインモニターで確認する。


「……これが、ノブナガ殿が懸念していた不審なる者の戦力……!」


 モニターが指し示す場所は、【ゲブラー】の強固なる守りが途切れた各世界を繋ぐ回廊――さらには峻厳しゅんげんの魔王の軍勢から死角になる地帯。


 ノブナガの懐刀ふところがたなより、不審なる輩の戦力に高位魔族級の力を持つ機動兵装が存在する――そのむねを聞き及んでいなければ、確実に撃墜されていた。


 すかさず反応し、救援要請の通信を送りながら愛機を旋回――魔導機械製のオオコウモリが敵対勢力へ、大翼を広げ装備した銃口ガート・リンギアを向けた。

 バラ撒かれる弾頭は決して高い攻撃力は持たないが――威嚇射撃と共に回廊の空へ、愛機を高く押し上げる。


 今確認した戦力後方――恐らくはそれが出現手段であろう、魔量子立体魔法陣マガ・クオント・シェイル・サーキュレーダーが無数に展開されている。

 それらの敵出現を許せば完全に包囲が完成し、逃げる事も叶わない。


「こちら夜魏都よぎと!不審なる輩の戦力と思しき戦力と接敵しました!救援を要請します!」


 機動性に勝る機体で放たれる火線砲を回避し続けるが、すでに魔法陣からの敵増援が出現を終え――威嚇砲撃と共に包囲を狭めている。


 確かに四大真祖と言われた【ネツァク】がほこる吸血鬼達は、魔界において生身では比類無き強さ。

 しかし――真祖らが搭乗する魔導式の機動兵装である【マガ・バットラウド】。

 その本懐は竜皇合身により、かの【竜魔王ブラド】を彷彿とさせる巨大なる黒竜機となる事で初めて強力な力を発揮する事が出来る。

 よって現在の状態では、この高位魔族級機動兵装の大群相手は絶望的と言えた。

 

 真祖 夜魏都よぎとの機体を、まさに包囲せんと迫るそれら――それはあの地球と魔界衝突回避作戦で、幾度となく魔法少女達の行く手を阻んだ忌まわしき導師の戦力。

 地球で確認された個体は小型――グレムリン級、ガーゴイル級などで始まり、中~大型となるとレッサー級、グレーター級のサイズで言えば特機〈スーパーロボット〉レベルの個体を確認していた。


 近接武装より、遠距離からの集束火線砲による攻撃を主体とする、生命体を模した移動砲台と言う認識が妥当だろう。


 そして今、真祖 夜魏都よぎとを包囲しつつある個体は――

 

「……地球での遭遇データには……!なんという事……、今視界に存在する個体は全て――グレーター級……!」


 もはやその戦力――地球と魔界を救済した者達からすれば疑いようも無い。

 あの、魔界の造反者【導師ギュアネス・アイザッハ】の魔導戦力である。


夜魏都よぎとっ、回避だっ!!』


 包囲される寸前の魔導機械製オオコウモリ――コックピット内へ通信が飛ぶ。

 瞬時に反応した真祖の女性は、機体スラスターを不規則に可動――眼前に最も迫っていたグレーター級を撒く様に回避した


 真祖の機体と言う目標を見失ったグレーター級――巨大ではあるが、それなりの機動性で旋回し目標を追尾しようとした。


『貴様の相手はここだっっ!!』


 外部通信音声がグレーター級へ空気振動となって叩きつけられる――が、これらは純粋な自己独立機動兵器であり生命体ではない。

 単純にその音声に機体が反応した、その瞬間――個体の上部から、真っ二つに切り裂かれる。

 文字通り、金属が切断面から左右へ分断される様に。


 爆炎に包まれ落下するグレーター級が居た場所――何も存在していない様に見えた空間が歪曲した。

 それは空間を光学的な視界から隔絶していた魔導式光学ステルスシステム。

 現れたそれは、巨大な兵器――だが、目に移るシルエットは極めて特徴的である。


 魔界に存在する機動兵装のたぐいでは、赤き吸血鬼が駆るあの不死王ノライフ・キングの鎧が最も近似する――細身で機動性を付き詰めた体躯。

 しかし――黒を基調とするそれに無用に目立つ、首部を巻く布の様にたなびくエネルギー物質。


 その手に握られるは、機体よりも長大な細身の刀とおぼしき斬撃武装。


『【魔導機動兵装マガ・デウス・アームズ死紋朧月しもんおぼろづき……見参!』


 それは魔界の伝説が一人――魔王ノブナガより、しのびの任を拝命せし魄邪軌はくじゃきが駆る機動兵装である。

 彼は峻厳しゅんげんの魔王の元へ使者として向かい、何事もなく終えた事へ一掃の警戒を強めていた。

 ゆえに同時期に【ゲブラー】へ向かった真祖側――そちらが標的となる可能性、考慮の上で速やかな行動へ移していたのだ。


あとはこちらに任せろっ!貴女は【マリクト】でレゾン嬢らと速やかに合流するんだ!』


 【マリクト】の忍には、ノブナガの懐刀ふところがたなよりこの地での戦闘が発生した場合――その規模に関わらず詳細の把握に努めよと厳命付けられていた。

 不審なるの輩の目的と、それに捻出する戦力を測り――全ての事へ備えるために。


 すなわち――ノブナガ勢、引いては赤き吸血鬼の思考の内では、この地で起こりうる戦闘を不審なる輩の陽導と想定している。

 現に一見強力な戦力が出現しているかに思えるその全容――肝心の不審なる輩は何処にも姿を見せていない。


 されどノブナガ勢は油断無き体勢――仮に陽導であれ、真祖 夜魏都よぎとが万一深手を負うような事があれば、のちの起こりうる事象での戦いにて戦力が大きく低下する。

 しのびの男 魄邪軌はくじゃきはその際の真祖護衛も担っていた。


「感謝します!魄邪軌はくじゃき殿、後はお任せします!」


『お安い御用だ!オレの隊から橙馬とうまを護衛に付ける――行けっ!』


 はっ!と短く応答する魄邪軌はくじゃきしのび部隊――そのくの一的な存在である橙馬とうまが、真祖の機体周辺グレーター級機動兵装へかく乱術式を展開。

 光学的な視界を奪われ、無残にも同士討ちを始める機動兵装群。

 自立式機動兵装のグレーター級は、純粋な直接魔力火砲支援が出来る程度の性能か――ばら撒かれたかく乱術式で、見事に真祖の退路を産み落とす。


 退路よりこの場から離脱した真祖を見届け――しのびの頭領が残る二人のしのびへ命を飛した。


『さて野郎ども!この不逞ふていの輩―― 一体残らず殲滅せしめようぞ!我ら【マリクト】がほこしのび部隊……久々の槍働きだっ!』


 【ゲブラー】の防衛部隊――緊急通信を受け、それらが戦場を引き継ぐまでの間。

 その時間は正に【マリクト】しのび部隊の独壇場であった。



****



 反論決闘に向け――成すべき事をそれぞれがこなす中、私は素敵なお友達と作戦決行のため【マリクト】へ訪れます。

 思えば魔界に来てからの私達は、修練の時以外――いつも何処かにおもむいて、気の休まる時間もありません。


 かく言う私はレゾンが修練中、メディカル・ブラッドを求め――それらを保管する場所まで何度も往復していました。


「そういえば、気になっていた事があったんだが――ベル、このメディカル・ブラッドは一体何処から調達して来てるんだ?」


 【マリクト】の海洋沿い――といっても、海洋と言うには少々物足りない広さですが、この天楼の魔界セフィロトにおいては貴重な水資源の宝庫でもあります。

 まあ、そこにノブナガ殿がいくら【武蔵】を待機させる場所が必要とは言え、港とドックを建造するとは夢にも思いませんでしたが。


 多くの者が指し示す通り、あの魔王様は完全に規格外の様です。


 今は来るべき時のため、その港傍――そこへ急遽こしらえた作戦司令部的な仮設備に詰めています。

 そこでレゾンが、気になっていた質問をぶっちゃけて来ました。

 質問の最中もちゅうちゅうと、その質問に該当する物を頂いています。


「それですか?ですから前も言ったと思いますが、悪人達である人間をそれはもう酷い拷問に掛けて――」


「まじめに答えてくれないか。」


 ああ――注されてしまいました。

 薄々は気付いていたんですね。

 じゃあ素直に答えるしかありません。

 私はその問いへ、伏せていた本質と共に友人へ回答します。


「悪人――と言う言葉は、ある立ち位置からすれば間違いではないです。これはあちら――【ニュクスD666】に封ぜられたいにしえの魔族達から頂いた物です。」


「厳密に言えば、それは本来【竜魔王ブラド】用に用意されていた血液を頂いていました。」


 私は魔界の空を指し――かつては魔界であった星を示します。

 眉根を寄せて苦笑いのレゾン――だいたい想像通りといった反応ですね。

 普通に考えても、医療と言う概念が乏しいこの魔界――あれだけのメディカル・ブラッドなんて準備出来ませんもの。

 そしてさらに問いを続ける素敵な友人。


「と、いう事は竜魔王ブラド――リリ様も吸血を殆ど行わない真祖、と言う事になるな。」


「ええ、ご名答です。流石はレゾンです。」


 一瞬逡巡しゅんじゅんしたレゾンはささやかな解へと辿たどりついた様で、


「つまり私はお前達に、まんまと食わされたって事だな?あれだけの量、魔王クラスの血液を短期間に摂取すれば――害獣レベルの私でも、究極へと手を伸ばせる。」


 それは事実――けど私もそこまでの事を、かのノブナガ殿みたいに思考を巡らせるのは得意ではありません。

 なので少し、友人へ反抗してみます。


「レゾンは酷いです。私は最初からあなたのためにと、主惑星までおもむいていたのですから。」


「ああ、分かっている。だからベルに感謝を贈りたいんだ――本当にいつもありがとう。」


「ふぁっ!?」


 油断しました――天然ジゴロのレゾンの前振りに惑わされ、彼女の手が頬に伸びてきてビクッ!て、なってしまいました。

 まったく油断も隙もありません。


「私は程なく反論決闘のため【ゲブラー】へ向かう。――当然、お前の力なくしてはこの策を成功させる事など不可能だ。だから――」


「あと少し――無茶をさせるが、私のわがままに付き合ってくれないか?」


 本当に今更ですね――私は亡きシスターテセラからあなたを預かり受けてと言う物、今の今までずっとあなたを支え続けて来たんですよ?

 あの導師ギュアネスが、あなたを駒としてさげすんでいた頃からずっと……。


「ええ、私はあなたと共にあります。ですから――」


 ほおに添えられた彼女の手の上へ――そっと自分の手を重ね、大切な友人へ思いを伝えます。


「ですから、必ずヴィーナ様を――を救い出しましょう。」


 その、運命が導いた出会いを無駄にしないために――私はかつてマスターであった友人へ、その身全てを委ねる事を誓うのでした。

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