7話―4 結成、三国同盟!



 必要な情報は一通り揃い――ぶつける策に欠かせない当てにも、参集を呼びかけた。

 まあノブナガに至っては、この状況を見据えて【マリクト】が誇る将らをすでに呼び寄せていた。

 【ネツァク】の反論決闘から、まだそれほど時を数えていないと言うのに、だ。


 全くあの魔王の先見の才には恐れ入る――これはあの呂布りょふの最強とは異種の力。

 教えを請うて身に付くたぐいの能力ではないが、今度手解きを願ってみよう。

 それはもう嬉しそうに、口角を吊り上げて教えてくれるに違いない。


 だがまずは成すべき事優先……だ。


 ミネルバ様からすでに、使用の了承を得たあの大会議室――魔導式の映像設備と、魔界から地球まで通信を飛ばせるL・A・Tロスト・エイジ・テクノロジーと魔導技術のハイブリッド設備。

 さすがに今回地球への通信が必要となる事は無いが、【魔神帝ルシファー】とは何かしらのやり取りが生じるやも知れぬと準備済み。


 城の中央、天を仰ぐ王の間の直下――

 名だたる魔族を収集出来る30㎡前後の、【美麗殿アテニア・キャセル】特有の装飾が四隅に配される空間――中央に必要設備を集約した金属製のテーブルを、参集した者達が囲む。


 それは私が放つ、魂の宣言を聞き届けて欲しい者達――その錚々そうそうたる面々は、恐らく魔界の歴史上でもまず集まる様な事態は訪れないはずの者。


「まずは今回、私の様な者の呼びかけに応じ――参集して頂いた方々への礼をのべさせてくれ。本当にありがとう。」


 面々の存在を確かめ――心からこうべれる。

 そこに集まった者達が居なければ、そもそも今の自分は存在しない――すでにどれ程口をついたか分からないが、何はなくとも礼を贈りたかった。


 【ティフェレト】を代表する【魔嬢王】であるミネルバ様と、もはや私にとって無くてはならない大切な存在――第二王女ジュノーことテセラ。


 【マリクト】からは頂いた尽力の数々に、頭が上がらない新世代の魔王――ノブナガとその懐刀ふところがたなミツヒデ殿。

 さらには今回かなめとなる、【マリクト】の二強――呂布 奉先りょふ ほうせん魄邪軌はくじゃきに、地球から訪れてからはノブナガへ譲渡された技術の管理を一手に任される緋暮 壱京ひぐれ いっきょう殿。


 【ネツァク】では反論決闘にて刃を交え、第三王女のために尽くして止まない吸血鬼界がほこるる最強の四大真祖の夜魏都よぎと、ケイオス、ボーマン――そしてファンタジア。


 【イェソド】の仮管理者として協力を申し出てくれた、髑髏どくろの将ヴォロス。


 だが今回――【ティフェレト】の表立った力添えは期待が出来ない。

 他でもないヴィーナが関係するこの宣言には、【ティフェレト】勢へ裏方の力添えを求めるものだ。

 すでにヴィーナ・ヴァルナグスは王族から追放された、ただのである。

 ゆえの妥当な案として、事のバックアップをミネルバ様へ依頼するつもりだ。


 そしてここから始まる策の立案――そのために私が、最初に宣言しなければならない自身が選ぶ唯一の道。

 皆の意識と視線が向けられる中――私はゆっくりと、事の全容を紡ぎ出す。


「皆へ私から伝えたい事がある。――私は彼女を……ヴィーナを、科せられる懲罰から救いたい。だがこれは、普通で考えれば不可能な事は重々承知している……。」


 そこまでを口にし、一度目蓋を閉じてそこへ光明を与えてくれた者達――四大真祖を直視し――


――だがそれを可能にする行動は、四大真祖らがすでに私相手に実践済みだ。」


 息を呑む声が聞こえる。

 四大真祖が実践済みと、宣言の前からその手段の全貌が見える物言い。

 それを耳にしただけで、常軌を逸した宣言と皆が受け取ったのだ。


 それでも私は止まらない――止まれないんだ。

 ヴィーナに科せられるであろう、死刑と同義の判決から彼女を救うために。


「――私は、【ゲブラー】を治めし【峻厳しゅんげんの魔王】……。アーナダラスへの反論決闘を申し込むことにした。」


 揺るぎなき決意――ついに私は実質のおおやけの場にて、驚天動地の宣言を解き放った。


 しかし、この宣言――四大真祖が私にした物とは訳が違う。

 それはヴォロス殿が語る、昔語りから得られた情報。

 相手が上層界の魔王と言う事実へ、不可能度合いを上乗せする点――あの魔王はいにしえの伝説が一人。


 もう一点――あの魔王が長けている力は

 私が得意とする一騎打ちからはかけ離れた、絶望的な戦いとなる条件のバーゲンセールだ。


 それを知ってか知らずか――いや、恐らくはあの最強の一角を使いすでに調べ上げているだろう男があえて問う。

 それでも今回ばかりは表情が厳しいが。


「お主……想定はしておったが、本気のようじゃな。」


 険しい表情には、いつもの余裕が無い魔王ノブナガ。

 策も何もこの手段しかないのは、この場にいる皆百も承知――それでもいざそれを宣言するとなると、ミネルバ様やノブナガですら気後れするのが伝わってくる。

 魔界の法を守護する魔王――アーナダラスとはそういう存在なのだ。


 ――そう、確かに不可能の度合いが無限に上昇しそうな手段。

 けれどあるじゃないか――この私の目の前に。


 私は多くの戦いの中――最初にテセラと敵対していた時分までさかのぼれば、思い出される自らの決意がある。

 ――その考えに辿りついた私は、力の提供を申し出てくれる信頼する友ブラック・ファイアと協力して戦った。

 何も見ず知らずに頼むと言う事じゃない――私は知っている……ここにいる者達が、私に協力したくてうずうずしている者達ばかりであると言う事実を。


 その事実が不可能とも思える私の宣言へ、一筋の光明を導いた。


「ああ、だからそのために……皆をここに集めたんだ。ヴィーナを――私を姉様と呼んでくれたあの娘を、助けるための力を借りるために!」


 ヴィーナが裁判にかけられる前に何としても活路を見出す――そのための算段に取り掛かる。

 これは彼女を取り戻すための、反論決闘と言う名の大戦なのだから。



****



 赤き吸血鬼の魔界を激震させる宣言、そこへ口を挟む者はだれもいない。

 少女の呼びかけで集まった者達は、少女の変貌を目の当たりにしているから。

 そして赤き吸血鬼の望む物は、皆も同様に望む物――しかしそれを成せるのは、その吸血鬼の少女を置いて他にいない事も知っているから。


「皆も知っていると思うが――いや、ここは魔界の先輩方の方が知っていると言うべきか……この反論決闘は、通常考えられる物とは訳が違う。」


 【ティフェレト】の中心に聳える【美麗殿アテニア・キャセル】――その中にあって、かつての地球と魔界救済時に活躍した大会議室。

 室内中央のテーブルを囲み、今まさに魔界の歴史を動かすための準備が粛々しゅくしゅくと進んでいた。

 その部屋は本来多用する事があってはならないが、いざ事が発生すればいつでも名だたる魔族を終結させられる様準備されている。


 天楼の魔界セフィロトにおいての【ティフェレト】は、地球の魔術的な意味を擁するセフィロトの樹で表される【ティフェレト】同様――魔界世界の中心を担っている。

 世界の頂点である【魔神帝ルシファー】が、魔嬢王ミネルバといかなる時も連携しているのは先の戦いでも分かる事実。

 

 有事の際への対応として、【ティフェレト】界へは最も信をおけるを配置しているのだ。


 吸血鬼レゾンも直接この場へ訪れた事はなかったが、友人ベルからの情報で知りえていた。

 魔族参集をこの場と決めたのは、友人からの情報で最も相応しき場と認識したからだった。

 しかしそれは、本人も気が付いている己の変化――最強を目指した、個の強さを得るための渇望とは違うを振るえる場所である。

 それは自分が知りうる中で、合戦と言う場に抜群の相性を持つ魔王ノブナガへと連なる力。


 ――知略と策謀――


「私が挑む相手は、あの魔界の伝説の一人――しかしまず出向いて一騎打ちを受け入れてくれる感じは……ないだろう。それは彼が軍勢を統率する力で、魔界の法を司っているからな。」


 魔界の名だたる者達――そこに地球からの支援者や、事の深き所までは聞き及んでいない友人テセラが含まれている事も考慮し――この件の全容を一つずつ整理していく吸血鬼の少女。


 そこへ情報の中、反論決闘ばかりに頭が行っていてはその後の対応を誤るリスクを霧散させるため、おそらくとなる事態へと触れる。


「――そして、僅かな情報ではある……が、このヴィーナが関わる件へ首を突っ込む不審な存在が見え隠れしている。……私、それにノブナガの推測が正しければ――そいつは確実に、反論決闘の前後いずれかに……仕掛けて来る!」


 大会議室を包む魔霊力がいっそう強張った。

 そこにある空気が重く――そして圧力を増してし掛かると、地球からの支援者である【真鷲組ましゅうぐみ】統括部長 緋暮ひぐれも額に汗を噴出させよろめく。

 この会議の場では、いわゆる彼は力の面で場違いである。

 だがそれでも踏ん張り――倒れんとする気概には、ノブナガも感嘆を洩らす。


「カカッ!壱京いっきょう殿……やりおるなそなた。魔王クラスの力の本流がし掛かるこの場で、倒れず踏みとどまるとは。いや、感服致した!」


 カラッと笑い、世辞を送る魔王へ圧力に耐えながらでも、その鋭き眼光で本来祖先である魔王を見返した。


「こ……いちいち気を持っていかれる様では、レゾン嬢の補佐も勤まりますまい!――続けてくれ……レゾン嬢!」


 その言葉が向けられると、赤き吸血鬼も地球での戦いを思い出す。

 自分が敵対し――人柱とされた時でさえ、テセラとのやり取りの端々から聞こえていた三神守護宗家と言われた組織の者達――その人となりを。

 彼等はいにしえより地球の日の本――引いては地球から太陽系に至る世界を守護した、伝説の存在と聞き及ぶ。

 言うなればここへ参集したヴォロスや魄邪軌はくじゃき――そして決闘の相手であるアーナダラスに近しい存在意義を有す。


 緋暮 壱京ひぐれ いっきょうと言う男はやはり紛れもなく、あの三神守護宗家に関わる者――あのテセラを支え続けた、光に生きる人が持つ強さを吸血鬼はその身で体感していた。

 少し心配して緋暮ひぐれへ向けていた視線へ、余計なお世話と言わんばかりの眼光と少し釣りあがった口元を返され――了解と目蓋を閉じ、話の続きへと移る。


 そして赤き吸血鬼が口にした言葉に――参集した者達は絶句した。

 ――否、【マリクト】の王とその懐刀ふところがたな以外が……だ。


「私はこの反論決闘と、その後の憂い――想定する不審者への対応を万全とするために、今ここで仮ではあるが……一つの策を提案したい。」


「――それは、関与出来ない【ティフェレト】を除く三国にて、魔界の有事に備えるための策――【マリクト】【イェソド】【ネツァク】の三国で同盟を結び事に当たろうと思う!」


 その宣言は即ち――三国に関わる者が、互いに所有する兵や武装と軍を共用せしうる策。

 三国それぞれの信頼が最高潮である今、正に取りうる最強の手段。

 彼女はあの【峻厳しゅんげんの魔王】の司る軍勢と言う力、そしてその後の憂いへの対抗手段として――と宣言したのだ。

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