5話―6 激突 超常の機神達



 反論決闘も佳境。

 赤き吸血鬼と【ネツァク】四大真祖――求めるはたった一人の王女の安寧あんねい

 互いに相容れぬ信念にて、今激闘は終局を迎えようとしていた。


 その頃――切なる想いを向けられし【ティフェレト】第三王女ヴィーナ・ヴァルナグスは、その身も心も闇を越えた無にむしばまれ始めていた。


 「シンソサマタチ……ハヤク……!ワタクシのココロがコワレテシマワヌウチに――ハヤク……ハヤクハヤクハヤクッッ!!」


 決闘が終局を迎えるまでは、【ネツァク】の王都にある城を出てはならぬと、真祖らより言いつけられていた第三王女。

 限界を越えようとするその強烈な嫉妬の心が、今にも忌まわしき地球から来訪した吸血鬼へ向けられようとしていた中――その者は音も無く現れた。


「それ程までにあの吸血鬼を憎むならば、その手で亡き物にしてしまえばいいのですよ。」


 精神の限界を彷徨さまう王女以外、誰も居なかったはずの王都の一室。

 だだっ広く飾り気の無い部屋へ、もがき苦しむ王女の傍――古ぼけたローブの者がいつの間にか立ち尽くす。

 顔の半分を覆うローブ一体のフードからのぞく、怪しいタトゥーを刻む色白のつら

 口角を吊り上げ、もがく王女へ悪魔の囁きを吐き捨てた。


「アナタハ――ナニモノ……。いえ……それよりワタクシガナキモノニ……。ワタシノ手で……?」


 思考はすでに蝕まれ、正常な判断など出来るはずもない哀れな王女へ――そのローブの者は負への階段を指し示す。


「大丈夫、何も心配はいりません。あなたが望む四大真祖の勝利は最早絶望的――なればあなたのその手を汚してでも、あの下等な吸血鬼を討ち滅ぼせば――」


「あなたが望む安寧あんねいはきっと訪れる事でしょう……。」


 最後の砦――王女の意志が暗闇に溶け落ちる。

 怪しき者の誘惑の言葉は、疲弊した王女の心へ最後の一押しをするのに、したる時間を要さない。


「ワタクシガ――カトウナキュウケツキヲ――」


 瞳が光を消失し、真っ黒な深淵に染め上げられる。

 崩壊した心のままフラフラと歩み始める、負に駆られた第三王女――待ち構えたかの様に、ローブの者が一振りの小剣を差し出した。


「これをあの下等な吸血鬼へ突き立てれば、安寧あんねいはあなたの物です。――さあ、この魔を討つために用立てた銀霊気をまとう剣を――」


突き立てなさい……!」


 その銀は魔を払う【震空物質オルゴ・リッド】――強き祈りを凝縮した剣。

 渡された王女も当然その霊気に身を焼かれる――だが最早彼女にその痛みを感じる理性など消え失せてしまったのか、焼かれるその手を放す事無く王都を後にした。


 秘めたる魔法力マジェクトロンでその身を宙へ浮かせると、王女の姿は薄闇の空へ消えて行く。

 彼女が目指したその先は――憎き嫉妬の対象である、吸血鬼レゾンの元である。


「……これで、求める瞬間への準備は整った……。せいぜい無駄な決闘と、時間を潰して下さい。」


 この状況をあざ笑う不審なる者――触手の真祖を、赤き吸血鬼襲撃未遂へ駆り立てた狡猾なる策を弄する者。

 ローブの下へわずかにチラつく表情は、まるであの乗り移ったであった。



****



 竜双角を向けた先――感情が爆発したのを感じた。

 それはあおりが彼等の闘争心へ、真の火を入れた合図。


『我等をそこまであなどるとは……!最早連携などと言う稚拙な策に頼る事など出来ぬっ!!』


夜魏都よぎとよ!まだ動けるならば、力を貸せ!この下等を我等の真の姿で打ち倒す!!』


 外部通信で、司令塔である女性へ言い放つ巨躯の真祖。

 真の姿と言うその言葉――それを私は聞きたかったのだ。


 地面へ叩きつけられる寸前、ギリギリの所で大破をまぬがれたのは流石の司令塔の真祖――少しの戸惑いの後、飛翔した機械製オオウコウモリは声を発した者の傍へ飛行。

 程なく残りの機体も一所へ集結した。


 その場から――言いようの無い魔法力のほとばしりが周囲を包み、四機のコウモリが宙へ出現した積層型魔量子立体魔法陣ビルティ・マガ・クオント・サーキュレーダーから膨大な力を抽出すると――


 一つの巨大なる者へと変貌させるための印を宙に出現させる。


『お前が望むのであればとくとその目に焼き付けるがいい!――我等が偉大なる祖先より授けられし、!!』


 力の本質が似通っていた――故に容易にそれは想像出来た。

 当然と言えばそれまで――彼らもまたあの不死王の血統を継ぎ、この【ネツァク】を守護せし者なのだから。


『魔・導・合・身――竜皇戦士……キング・ドラギック・ウォーリアっっ!!』


 四機の機械製オオコウモリがその姿を複雑に変容させる。

 巨躯の真祖が操る機体は二つに割れ――その豪腕がそのまま二対の腕へ。

 触手の真祖が操る機体は機体を流線型の――竜脚へと姿を変えて下半身へ。

 司令塔の真祖が操る機体は――それらを連結する胴体へ。

 そして最後――褐色肌白銀髪の真祖が操る機体は、背部へと折れ曲がり頭部と上半身を形成する姿で、すでに結合した三機との最終合身を終える。


 魔法力マジェクトロンが満ち、閃光がほとばしる。

 その雄々しき姿は、まるでベルの本体の同型を思わせる竜の化身。

 私が待ったのはこの真祖の素の力――彼らの本質であり奥の手、やはり残していたのかと心が躍る。

 まるで自分があの巨躯の武将、呂布りょふに成り代わったかの錯覚を覚えた。


『もはや手加減など必要無い!!オレ達が勝利し、ヴィーナ様への安寧あんねいを――』


 優男な真祖の巨大な斬鋼刀ざんこうとう――機体に対し長大な代物しろもの、似たもの同士の感じはあったがなるほど――その姿では、あの褐色肌白銀髪の真祖ケイオス・ハーンが主役となる訳か。

 豪腕にその片刃の長刀が、機体に見合った姿で握られる。


 かくして真祖らは私のあおりを受けて、その真実の姿をさらした。

 ならば私も遠慮などしない――私こそ見せてやろうじゃないか!

 この身を育ててくれた幾つもの想いと、親愛がくれた我が究極の姿――


「ベルっ!今こそ私たちの真の姿を顕現けんげんさせる!いくぞっっ!!」


『はいっ、レゾン!見せてあげましょう!!』


 力がこの身を満たす。

 同時に意識に流れ込む、過去の醜態しゅうたいの歴史。

 耐え抜いた我が身が、今までの自分すらも包み込む器と化し――周囲を所狭しと囲む積層型魔量子立体魔法陣ビルティ・マガ・クオント・サーキュレーダーからを呼び出した。


『――なん……だと!!?』


 竜の機体外部音声――真祖らの表情が目に浮かぶ。

 恐らくは全くそれを想定していなかっただろう。

 まさか下等とあなどっていた相手が、自分達の真の姿をも越える化け物を持ち出す事態など――


「見よ!これがあの不死王ノーライフ・キングより授けられた御姿みすがたにして、我が古き友の真の姿――この私が持てる究極の力っっ――」


「――霊装機神ストラズィール赤蛇焔せきじゃえん】っっ!!」


 真祖の持つ竜の機体。

 それがほとばしらせた魔の光をも上回る、薄闇が真昼のごとき明るさを解き放ち―― 一際巨大な積層型魔量子立体魔法陣ビルティ・マガ・クオント・サーキュレーダーより出でる。


 両の腕部を胸前に組み、その凛々しき表情で仁王立つ戦神――竜の女神。

 淀みなくその全貌を、水面みなもより浮かび上がる様に魔法陣上へ顕現けんげんした。


 そして私の身が、胸部に輝く紅蓮の真核球へ魔光と共に吸い込まれ――見開く先は、全天視認式の映像に包まれる機神の内。

 程なく自分の身体と五感全てが、機神のコアとなる親愛なる友――ベルと共有された。


 人機一体となった女神の双眸そうぼうへ、我が魔法力マジェクトロンほとばしりが閃光を灯し――

 眼前の同型である竜の戦士と相見あいまみえるべく、超魔竜双衝角メガ・ドラギック・フォーディスを振りかざす。


『四大真祖よ!この姿を目にしたあなた方――そろそろ私へのあなどりは、終わりにした方がいい。……この機神は、まがう事なきあの不死王ノーライフ・キングの超常の鎧――』


『【竜魔王ブラド】が光の神々と対峙した魔界究極の御姿みすがただからなっ!!』


 外部音声から放たれた私の宣言に対し、しばしの沈黙――最初に口を開いたのはあの優しさを宿す真祖 夜魏都よぎと


『――いいでしょう。最早疑いの余地はありません――私が監視していた時点でその片鱗はうかがえた……。異存はありませんね?皆さん』


 外部通信のまま仲間らへの通信を、竜戦士に備わった操縦機構の一つより放つと――夜魏都よぎとへの返答は次々に返される。

 肯定の意志と共に。


『お前が見た物は現実であった――その意をないがしろにしたのは、我等の失態。』


 巨躯の真祖は失態を認める。


『すまない夜魏都よぎと!いつも俺は足を引っ張るばかり……、だがもう慢心などしない!相手を究極と認識して対応すると誓おう!』


 触手の真祖より慢心が消える。


『……信じたくはなかった……。だが、現実を突きつけられた以上――オレもそれを考慮した思考で決闘を終えよう。我等の勝利でな!!』


 褐色肌の優男の真祖は、究極を目にして尚――勝ちに来ている。

 そして――優しき真祖 夜魏都よぎとが最後の決着のための宣言を解き放った。


『では改めて、【竜魔王ブラド】の意志と力を継ぎし者、赤煉せきれんの魔法少女レゾンよ――我等四大真祖が、その与えられた究極の座から引きずり降ろして差し上げます!!』


 宣言が耳に心地良い。

 彼らからあせりが消えた――慢心とあなどりが霧散。

 そして何より王女への心酔した心が、今まで以上に洗練されたのを宣言から読み取った。


 どうにも私はこの一騎打ちと言う舞台がしょうに合う。

 テセラは私が、呂布りょふとの戦いで充実を覚えていた事を聞き「レゾンちゃんは武人さんだね~。」と例えたが、正にそうなのだろう。

 あの魔王ノブナガの与えた修練内容に加え、私の攻撃スタイルがそれをさらに確実な物としている。


 最高の力を奮える舞台こそがこの一騎打ち――さあ、真祖らへ見せてやろう。

 私が今まで気付き上げた戦い方の全て――そしてそれが一体誰のためであるかを。


 どちらからと無くその声を張り上げる――あの巨躯の武将と対峙した時の様な、裂帛れっぱくの気合を込めて――


『いざ――』


『尋常に――』


『『勝負っっ!!』』






 〈勝利〉をシンボルに持ち、今は亡きびゃく魔王が治めたこの【ネツァク】で――

 びゃく魔王の意志を継ぎ、悲しき【ティフェレト】第三王女の命運を賭け――

 等しく魔界の究極の力【竜魔王ブラド】の力をかざす吸血鬼達が――


 超常の機神を駆り、【反論決闘】の名の元に激突する。


 後に訪れる悲劇とそれすらもほふる、魔界史上伝説と言われた存在の誕生――それを未だ知らぬ究極の戦士の衝突が今、【ネツァク】の大地を揺るがした。

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