5話―5 最強を生かす策謀



 切り結んで分かる――それはまさに第三王女ヴィーナへの盲信とも思える思い。

 そして今、第三王女の容態は急変を向かえていると推測した。

 攻撃の一つ一つから伝わって来る、真祖らのあせりがその証拠。


 そして彼らのあせりは自分のあせりへと変換される。

 けどこの目を、目先の危機で曇らせるわけにはいかない。

 息の合う見事な連携――攻撃の全てを受けながら、チラつくほころびに向けて神経を研ぎ澄ます。

 あの豪胆で圧倒的な武将 呂布りょふの様に――そして、周到で狡猾こうかつな策謀の化身であるノブナガの様に。


 私の中に記憶された戦術は、最早かつて醜態しゅうたいさらしていた頃の比ではない。

 我が身に宿る究極と、最愛の親友ベル――その存在が、無数の戦術に揺るぎなき自身を与えてくれる。


「あなた達はやはり、真の吸血鬼だな!尊敬に値する!」


 口から放つは紛れも無い真祖らへの賞賛――が、今の彼らにはそれに対し悠長に返答する事すら出来ぬ余裕の無さを感じた。


 後方で指揮を取るあの女性の機体――純粋な戦闘兵器の体を成すそれが、重機関砲の支援弾幕をき散らす。

 それにあわせ触手の男の機体は、本人のごとく触手を模した爪状ビットでかく乱。


『逃しはせんっっ!!』


 人型となった両の腕部が、一撃必殺の破壊力を物語る機体――その姿を先の顔合わせで確認する限り、あの呂布りょふよりも巨体である男。

 機体の腕部は男の身体の一部がごとく、こちらを強襲する。


『下等な吸血鬼などに遅れは取らんっ!食らうがいいっっ!!』


 巨躯の真祖と見事な連携でふところを脅かす、褐色肌に白銀髪の優男――こちらが繰り出すは人型の機体の数倍はあろう、片刃の斬鋼刀ざんこうとう

 魔界の技術で作られたであろうその切れ味は、こちらの鎧の防御障壁を容易く抜き、私の顔に身体に――あと数ミリで、筋繊維への紅蓮の空隙を生む程の距離を舞いかすめる。


 真祖らの戦術的な立ち位置、気性、機体の特性――情報が脳髄へ運ばれる度、構築されるほころびへ付け入るための


 二人の真祖が猛追する攻撃を、ベルへ我が奥の手の状況を確認する。


『ベル、のエネルギー充填はどうだ!』


『ハイ、現在60パーセントまで上昇!あと少し時間を下さい!』


 戦術を組む中で、ベルの本体――稼働エネルギー充填状況を問うた。

 調整はすでに終えているが、壱京いっきょう殿よりまだ本質的な魔法力上限が不死王ノーライフ・キングリリよりも低い私では、機体へ始動の火を入れるのに不足と言われた。


 そのため、事前に魔法力をフル充填して稼働させるのが望ましいと助言されている。

 しかし、あれ程の機体へ魔法力をフル充填する――それも戦闘の最中、のはかなりの時間を要するはずだった。


「60パーセント……、ならばぶち抜いて一芝居打つか……!」


 そこへ私の思考が必要なピースを組み上げる。

 真祖は私の力を侮り、致命的なミスを犯した――大方私が下等であれば、主星の全貌を拝めるこの【ネツァク】でも、満足な力を汲み上げる事が叶わぬと推測したのだろう。

 ――残念だったな……それがあだとなり、私は今あのを行えている。


 当然だ――本来あの機体は不死王ノーライフ・キングリリが所有していたのだから。

 主惑星が一望出来る場所が戦場なのは、幸運以外の何物でもない。


 わずかな時間をひと稼ぎ――思考が高速回転、その仕掛けに相応しき相手を算出し、ほころびへ刃を突き入れる。


「どうした触手の――ファンタジアと言ったか!先の襲撃未遂――今が挽回のチャンス、そんな小手先のけん制で満足か!?」


 触手の真祖ファンタジア――私の修練前期に、不審者による手引きで襲撃敢行を行った。

 未遂に終わった事で、ミネルバ様からの保護観察を受けていた私への襲撃により、この度の反論決闘が無に帰す事は避けられた。

 彼らが非礼を認め潔く引いた心がけに配慮し、あの呂布りょふが口利きをしてくれたのだ。


 だが奴も、自粛の念はあっても決してその思いは途絶えてはいないだろう。

 ヴィーナを――慕う者を盲信していたからこその襲撃未遂。

 そこには少々短絡的な思考が、少なからず絡んでいただろうと推測――まずはそこへ


『あの時はオレが至らなかっただけ!だがそれ程までにオレの一撃を受けたいならば、見事しのいで見せろっ下等がっっ!!』


 短絡的な思考は常に不安定――いくら連携の最中にあろうとも、くすぶる本能を押さえる事は難しい。

 よく言えば純粋であるが、戦いの中では弱点になり得る。

 まずはそのほころびへ突撃――空隙を確実にする。


『……!?ファンタジアっ、挑発に乗らないで……!くっ……!』


 溜めの後――全スラスターを後方へ。

 真紅の突撃【竜爆超弾道フレア・バリスティアー】の魔法術式展開。

 魔竜双衝角ドラギック・フォーディスへ音速の螺旋を伝え、前方に発現させた魔量子立体魔法陣マガ・クオント・シェイル・サーキュレーダーまとう様に突撃。

 

 呂布りょふの時の様にはいかない魔導兵装が相手――確実な防御のための、魔量子フィールドを多重展開。

 真祖ファンタジアへ超音速の竜双角で肉薄する。


『くっ……おおおおおっっ!!』


 寸でで止めた真祖は流石、見事な反応――だが浅い。

 音速で回転する我が竜双角を防いだ事には賞賛を贈ろう――しかしそれでも、この一撃は格別だ。

 交差する、触手が変化した四本の魔導剣――が、真祖の武器は回転する竜双角に猛烈な火花と共に削り取られる。


「はああああっっ!!」


 その防御諸共もろとも一気にぶち抜く。

 螺旋が真祖の機体腹部を強襲――だが、私の目的は彼ではない。

 そのまま超音速の竜双角でなぎ払い、回転のまま方向転換――向かうは突出した味方を慌てて援護に飛来した頭脳、真祖らの司令塔 夜魏都よぎと


 本来彼女は、持ち前の冷静さで真祖らをまとめる役を担っているはず。

 それがあの触手の真祖の行動を制御しきれぬばかりか、自ら墓穴を掘る始末。

 目撃した私の力に戸惑い、仰ぎ盲信する王女の状況にあせり――勝ち急いだがための失策。


 ならばその失策を招いた司令塔を最初に叩くと、目標に定めた。


「司令塔は突出するべきじゃなかったなっ!」


「なっ……!?」


 構える重機関砲が虚しく空へ弾幕を撒く。

 旋回と回転――彼女の視界から完全にロストした私が、竜双角を真上より打ち下ろす。


「あぐっっ!?」


 鈍き衝撃に、真祖の女性が機体制御を大きく誤った。

 虚を突いた――真祖 夜魏都よぎともあの死角からの一撃では、まともな受身も取れぬだろう。

 高速でその機体が地面へ叩き付けられるか否かの間で、私は更に飛び――


『お……おのれーーっっ!!』


 憤怒と共に襲来した斬鋼刀ざんこうとうを、回転を制止させた竜双角――その間隙で受け止め、力の反動を利用し薙ぎ払う。


『何……だと……!?』


 刹那の出来事で思考が停止する、褐色肌に白銀髪の真祖――その人型を成すコウモリ型機体へ竜双角を突きつけながら、もう一体の豪腕の機体へ魔竜咆哮焔牙ドラギック・ガン・ブロウを定めて拮抗状態へ持ち込んだ。


 これだけの流れる様な立ち回り。

 あの頃――醜態しゅうたいさらしていた頃の私に見せてやりたくなる程の刹那の連撃は、紛れも無く私が今までつちかった戦う技術。

 巨躯の武将に策謀の魔王――そして、テセラや地球で出会いを心待ちにする大切な友人達。


 そこから見聞きし、教わり、磨きあった私がほこる最強。

 そして真祖らが知らない―― 一番傍で寄り添う使い魔であった友人と私が、共に振るう究極の姿。


 未だ彼らがあなどりの目で見るのであれば、宣言してやろう――彼らもまた全力ではないのは、私には見えているのだから。


「私に勝利したいのであれば、後悔せぬ内に見せておいた方がいい――四大真祖……あなた達の――全力で願おうか……!!」



****



 それを最初から見抜いていたのだろう。

 故にレゾンは決闘開始から、エネルギー充填を開始していた。

 恐らく真祖らがもっと冷静であれば、微弱な魔霊力――その不自然な蓄積に気付けたはず。

 それが、とうとうその力が満ちた時すら気取れず不利へと追い込まれた。


「ミツヒデよワシは夢でも見ているのか――いや、これは現実であろうな……!」


 地球で導師側に付いていた頃――それは、何とも小さくか弱き魔族かと嘲笑ちょうしょうすら覚えた。

 地球の宗家側にはあのミネルバ卿に匹敵する魔法力を持つ、第二王女ジュノー嬢がいたのだ――無理も無いという物。


 その後この魔界に訪れて、原石を見たとは感じたがよもやそれが、あの不死王ノーライフ・キングを認めさせる存在になろうとは夢にも思わなんだわ。


「真祖らの魔導兵装―― 一見の魔導兵器かと思ったが、それにしては不自然な形状。――だが、彼奴等は連携が可能なあの形態での決闘を選んだ。」


 恐らくは司令塔である、あの夜魏都よぎとと言う女子おなごの策であろう。

 あの者はレゾンの修練の大半を偵察し、その実力の片鱗を見ている。

 レゾンと言う吸血鬼とのは避けるべきと判断したに違いない。


 あの呂布りょふめが慢心を突かれたとは言え、手痛い一撃をこうむったのだ――警戒するに越した事は無い、と。


「ええ、しかし彼女の策は見事に破綻――結果レゾン嬢が最も得意とするフィールドへ引きずり込まれた形になりますね。ですが――」


 ミツヒデめ、嬉しそうな顔をしておる。

 その自らが得意とするフィールドへ、真祖らを誘導したあの娘レゾン――用いた手段は明らかに


「ですがレゾン嬢が、まさか殿のごとあおりを混ぜた駆け引きを駆使して、戦況を有利に導くとは……。」


「あれはではまるで――ですね……。」


 笑いが巻き起こる――心の内より。

 ミツヒデの言う通り、レゾンのはかり事はまがう事なき我等が【マリクト】を統一した際に振るった


 導かれたフィールド――そもそも今のレゾンであれば、軽くあの真祖らを凌駕しているはずじゃ。

 だがそこへ持ち込んだ理由――我等にも想像が付いた。

 あの娘は、第三王女を救うためにこの決闘に応じた。

 しかしこの決闘――真祖らと剣を交えて何かを感じ取ったのじゃろう。


 吸血鬼レゾンは絶対的な勝利によって、あの者達――四大真祖ですら救おうとしていると――


「カカッ!よもやこの決闘の最中――また聞けるとはのう……。〈全力で願おうか……〉真祖らの真の力を引きずり出して、その上で勝利する気じゃぞ?レゾンめは……!」


 最早あの赤き吸血鬼のたかが、底知れず巨大化している。

 どれ程の大器となるか想像も付かぬ事態。

 たかぶる好奇心と羨望せんぼうの眼差しにて、今はただ決闘の行く末を見守ろう――


 これよりあの娘が放つは、不死王ノーライフ・キングより受け継いだ究極。

 ここ【ネツァク】に相応しき〈勝利〉を導く新たなる伝説の誕生を、しかとこの目に焼き付けてやろうではないか。

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