―反論決闘―

 5話―1 力の名は霊装機神



「あなたが……【不死王ノーライフ・キング】……。」


 使い魔が友になったあの日、過去の映像に映る姿には言いようも無い恐れを感じた。

 異形の化け物でも無く――ドラキュラ伯爵の様な吸血鬼の代名詞ですらない、ただの幼き銀のしずくを振りまく少女。


 立体映像とは言えその姿を間近で見れば、そこに【竜魔王ブラド】が居ると言われて誰が信じよう。


「私はどうやら、あなたの血を受け継ぐ事になってしまった者、故あって地球は地上より参りました。」


「レゾン・オルフェス――友となったブラックファイアから、魔法少女マガ・スペリオル・メイデンシステムと言う力を借り得てここまで辿たどりつきました。」


 映像であり、本人は未だ天にある暗黒惑星【ニュクスD666】で私達と相対する不死王ノーライフ・キングリリ。

 自分もその容姿から来る油断に誘われぬ様、一先ずかしこまっての自己紹介――これ程の存在であれば、私の事など全て見透かしているだろうが、やはり礼は失するべきではないと判断した。


 すると予想通りの返答が返り――予想外の質問が不死王ノーライフ・キングより投げかけられる。


『はい、心得ておりますよ~。ベルの本体を通して必要な情報は聞き及んでおりますから~。――地球から訪れた者である、それはもしやかつては野良魔族であったと言う事ですか?』


 予想外の質問に一瞬言いよどむ。

 ベルもあえてそこは報告していないと言った所か。

 何故だと眉をしかめながら友を見る――気付いた友は、片目を閉じてウインクがてらに親指をクイッ!と立てた。

 くっ、確信犯だなこいつ……!あからさまに人の反応を見て楽しんでいる。


 一方後方では、むしろ関係のないはずのノブナガやミツヒデ殿が、逆に冷たそうな汗を額で躍らせている。

 無理もないな――恐らく彼らはこの魔界統括者であるルシファー卿とは異なる、異質の恐れを眼前の幼き姿の不死王ノーライフ・キングへ抱いているはずだ。


 すぐにでも究極の力継承の儀を始めたい――その気持ちを抑えつつ、不死王ノーライフ・キングが求める質問の解を述べる。


 そう――私の過去が凄惨であったとしても、それを忘れるつもりは無い――いや、忘れる事なんて出来ない。

 凄惨であった過去の中に、あの大切なみすぼらしい少女とのささやかで――暖かな日々が含まれているから。


 私はなんの躊躇ちゅうちょも無く――述べる。


「はい。私は元々野良魔族――生命に仇名す害獣と等しき存在でした。」


 生命に仇名す害獣――地球においてはそんな扱い。

 しかし魔界においては、魔族の存在価値を著しくおとしめる

 ほこり高き魔族が悪魔とののしられ――さげすまれる諸悪の根源である者達。


 私がそれをこの口より語った瞬間――立体映像が激しく乱れる。

 それは通信不良などではない――それを乱す程に強大な魔霊力が、暗黒惑星から放たれたのだ。

 きっとその日、その瞬間――天楼の魔界セフィロトに内包される全ての世界に、原因不明の魔法力マジェクトロンの乱れが生じたであろう。


 そしてその力の余波は、違うことなく私――いや、この場にいた全てを万雷が襲うごとく貫いた。

 そのあまりにも強烈な力――かの精悍なノブナガ軍の猛将らですら、野次馬所ではなくなり卒倒する者が続出した。


「……なんと……!?」


「これは……流石に!!」


 想像を遥かに上回る力の余波。

 流石に今まで持ち堪えていた来訪者――緋暮ひぐれ氏に影響が及びそうになり、咄嗟の判断でノブナガとミツヒデ殿が魔法力をまとう楯状の囲いで彼を覆う。


 原住民と言える魔族の様に魔法力が扱えぬノブナガらでも、それなりの魔霊力には耐えられると聞いていたが――これは完全に想定外の力の様だった。

 あのノブナガ軍最強の二柱ですら、余波で五体が縛り付けられそうだ。

 額に吹き出す汗は、恐ればかりではないだろうが。


『なるほど、あなた――まさしく生まれは害獣のようですね?身体の遺伝子的な――見させて頂きました~。』


 口調は先とは何も変わらない――ふわふわぽわぽわ。

 だが放たれる余波で、名だたる魔王らが身動きすら取れないこの状況――不思議だった。

 私はを踏み出していた。


「ぶしつけである事は理解している。だが、私はあなたの持つ究極を必要としている。大切な少女とともにあるため――そして、救いたいと思う少女に思いを伝えるため……!」


 恐らくすぐにでも【反論決闘】を申し込むつもりの四大真祖。

 あの者達に勝利出来てもその後――気に掛かっている謎の不審者。

 きっとそれら全てを越えるためには、なんとしてもこの不死王ノーライフ・キングの力を会得しなけらばならない。


 最早その思いは自分の確たる自信として、銀色の幼女の放つ強大な力――その余波すら受け流し歩み出ていたのだ。


 と、その力が急速に弱まり――銀色の幼女が、暖かな陽だまりの様な微笑みと共に私へ語る。


『――ベルはとても素敵なお友達を見つけました……。あなたはまるで、昔の私ですね~。』


 不死王ノーライフ・キングリリが放った言葉――脳裏に一つの疑問が過ぎった。

 《《昔の私》……》?

 疑問に頭をひねる私へさらに告げる不死王ノーライフ・キングリリ――それは、私が待ちに待った言葉。


『いいでしょう~。私はあなたに我が究極の力たる存在――今片割れに居るベル……ブラックファイア本体の使用権限を委譲します~。』


『では――目覚めなさい……霊装機神ストラズィール赤蛇焔せきじゃえん】よ~。』


 銀の不死王が宣言する。

 それはこの魔界へ伝わり――積層型魔量子立体魔法陣ビルティ・マガ・クオント・サーキュレーダーを、この天下城【キヨス】大修練場へ出現させた。


 術式――量子長距離跳躍クオント・ディメンディ・ハイペリオルが展開され、魔量子の本流――魔法力マジェクトロンが無数の帯となって魔法陣から放たれる。

 この魔法力マジェクトロン源泉が魔量子マガ・クオンタムではなく光量子フォニック・クオンタムなら、この場にいる全ての魔族が消滅しかねない程の光量。

 その帯に包まれ闇の深海から、浮かび上がるがごとく現れる機体。

 

 背部・両肩・腰両側に巨大なスラスターを兼ねた形状に取れる6枚の翼。

 竜鱗が文字通り装甲となった、曲線を幾重にも重ねた竜の鎧。

 細身である――だがそれは西洋式の竜がそのまま直立した様な、無骨さとは無縁の流れる様な曲線美。


 そしてその頭部は竜ではなく、戦いを楽しむ戦神――否、女神の様な表情を持つ双角を備えた頭部。


 例えるならば――【竜の女神ドラギック・フレイア】――


「これ……は!?まるで、テセラがあの時搭乗した【魔導装女神マガ・デウス・フレイア】じゃないか!?」


 私の驚きを見てクスクスと笑みを堪えるベル。

 まさにその通りと言葉を返してきた。


「レゾン、同じも何も同じ時代のテクノロジーですよ?そしてこれは熾天使してんし時代のルシフェルが、魔界にもたらした力です。」


「これが私――かつて不死王ノーライフ・キングリリと共に、天界の神霊らへ一矢報いようとした真の姿です。」


 全高が20mを越える機械式の竜の女神ドラギック・フレイア赤蛇焔せきじゃえん】――これこそが私が求めた、不死王ノーライフ・キング【竜魔王ブラド】のつかさどりし究極。


 そしてその不死王ノーライフ・キングリリは私に告げる――新たなる希望を見る様な、羨望せんぼうの眼差しで――


『私はいにしえの盟約に従い、今はここを離れる事叶いません。ですからあなたに――私を継ぐに相応しき吸血鬼レゾンに、この力を授けます~。』


『――では魔界の事、頼みましたよ~。』


 この儀は言わば暫定措置である。

 真に魔王を継ぐためには本来、魔界の上層界にある世界――知識をシンボルに持つ【ダアト】で正式に魔王即位の儀を行う必要があると聞く。


 けれど【反論決闘】を目前に控える私にはその時間が無い。

 その決闘に勝利出来なければ、勝者の望み通り地球へ強制送還と言う懲罰が待つのは明らか。

 そうなってはテセラと共にある事も、ヴィーナを救う事も叶わなくなる。


 その思いでようやく辿り着いた不死王ノーライフ・キングの力継承の儀。

 暫定措置ではある――が、決闘への準備は最終調整へ全てを委ねる事になる。

 不死王用に調整された【赤蛇焔せきじゃえん】のシステム解析と、私用へのコンバート。

 この場でそれは流石に無理との事で、私達は不死王ノーライフ・キングへの礼もそこそこに速やかに移動を始めた。


 向かうはこの機体調整が可能な施設を内包する、地球と魔界の技術の結晶――魔界の国際宇宙港でその出番を待つ、大和型弐番艦・魔導超戦艦【武蔵】の元へ――



****



 「あら~、早々に向かってしまいましたね~。けど嬉しいですね~、こんなにも早く力の継承者が現れて~。」


 そこは暗黒に包まれた世界――天楼の魔界セフィロトが衛星軌道を周回する主惑星【ニュクスD666】。

 暫定措置ではあったものの、新たなる吸血鬼へ力の継承を終えた銀色の不死王ノーライフ・キングが再びふわふわした足取りで、ひっそりたたずむ別荘へ戻っていた。


「どうだい?彼女は。あれが光の希望ジュノー・ヴァルナグスの【惹かれあう者スーパー・パートナー】――闇の希望をまとう魔法少女だ。」


 別荘の中、先の儀には参加していない者が別荘の中――映像で展開された状況を静観し言葉を向けてきた。


 不死王ノーライフ・キングの銀のしずくとは異なる輝き――それはまばゆいばかりの金色こんじき

 腰まで届かんとする金色こんじきの流れは、暁の陽光を思わせる。

 まるでかの【魔神帝ルシファー】を思わせる男性とも女性とも取れるその姿

――少し前、魔界であのブラックファイアとの昔話に興じた少年瓜二つの男性。


 金色を包み込む様な、黒を基調とした装飾の衣服をまと使がゆったりと長いすへ腰掛けていた。。


「ジュノー姫は素敵なお友達に恵まれています。――そして、あの子レゾンも信頼出来る者に囲まれて……。あなた達古き者が、出しゃばった甲斐もあった様ですね~ルシフェル様~。」


 主惑星【ニュクスD666】――そこには異名が付けられる。

 かつて神霊のくわだてた魔族の殲滅戦争――そこで彼らに魔族の可能性を訴えるため、刃を向けた者達が封印される暗黒の大地。


 魔界の最上層【ケテル】から霊的に連結された大地の名は【万魔殿パンデモニウム


 神霊らの信仰心暴走が招いた争いであったが、魔族は光に刃を向けた。

 しかし当時光の軍勢をまとめた大天使長ミカエルの温情により、力のみの剥奪と言う譲歩を受ける。

 後にミカエルが【観測者サタン】に属する神々に真実を提示し、神霊らの行為は主の意向に反する物とされたからだ。


 それ以降、その戦いに組した高位魔族たちが世界に関わる事無く住まう大地こそ、ニュクスと言う惑星なのである。

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