4話―4 技術を纏う者



 天楼の魔界――

 【勝利】のシンボルを持つその地はかつて、びゃく魔王シュウが治めた吸血鬼達の故郷。

 【ネツァク】と呼ばれた大地が吸血鬼達の、決闘の舞台となる約束の日――その数日前に【マリクト】の魔王の元へ一人の男と、共に従う同行者らが訪れていた。


 かねてよりノブナガが欲していた地球がほこる、L・A・Tロスト・エイジ・テクノロジーに魔導技術の融合の結晶――そしてそれを扱う専門の技術者集団。

 地球と魔界滅亡の危機をからくも回避出来た裏には、厳しい技術使用制限下ながら巧みな応用と常識に捕らわれぬ発想――それらを如何いかんなく発揮した技術者達が支えていたと言っても過言ではない。


 太陽系全土に渡り、類稀たぐいまれなる業績を轟かせるかの集団【真鷲組ましゅうぐみ】――その経営幹部に属する重鎮じゅうちんが、遠くこの魔界【マリクト】の地へ参じていた。


「よう参られた!そなたがあの【真鷲組ましゅうぐみ】の……!」


 天下城キヨスの一郭――要人をもてなす客間へ、魔王謁見の許しを得た者らの代表者が座する。

 多分に漏れぬ様相の和室――用立てられた座布団に胡坐あぐらをかく地球よりの客人。

 流石に重鎮じゅうちんと言えど、相手は本来故人であるはずの知る人ぞ知る戦国大名――緊張の中ではあるが、しかと魔王を見据え揺るがぬ決意をたかぶらせていた。


 重鎮じゅうちんらしく正装ではある――が、あえて魔王であり戦国を生きた武将の御前である事を意識し、和装をチョイスしていた。

 ただの和装ではなく、所々に派手過ぎぬ様あつらえた華やかさをあわせ持つデザイン――そこへ現代のアートを盛り込んだ≪現代風の和装≫で、との謁見に臨んだチャレンジャーな男だ。


「はい、私が【真鷲組ましゅうぐみ】の太陽系内縁部門・統括部長――緋暮壱京ひぐれ いっきょうと申します。この度は信じらぬ事ではありますが、まさかあの戦国の豪傑に謁見出来るとは――」


 難しそうな顔ではあるが決して嫌味では無い、ツーブロックでサッパリとした茶髪。

 まだやんちゃな風貌が抜けずとも、宇宙を股に掛ける超一級の企業を背負う稼ぎ頭――その青年が、成りは幼くとも強烈な威圧を放つ眼前の魔王へかしこまる。


 そのいささか行儀が良すぎる青年を、ジッと値踏みし言葉をさえぎるる公。


「お主……慣れぬ茶番は止せ。ワシが織田信長であると言う事を疑ってかかっておるのは察している。今日それについてはさておいてでも、持ち込んだ兵装の話が優先――お主の本性で当たってよいぞ?」


 ピクリと眉をおどらせる青年――いとも容易たやすく見せかけの世辞を見抜かれ、わずかに鋭さが増した眼光で取引相手を見定める。

 なるほどと口端が少しばかり吊り上がるが、それでも魔王の御前ゆえ努めて冷静を演じる。


「――恐れ入ります。何ゆえこちらは、元々荒くれ者である者達をまとめる立場――常に相手の素を疑って掛からねば舐められます。この身に付いた性分が、公のお気に障った様であれば謝罪致しますので、それでご容赦願いたい。」


 謝罪を言葉にしながらも眼光は緩まぬ青年に、魔王はかつて地球が日の本で天下を目指していた頃――海原で戦火をくぐり抜けていた海賊上がりの兵らを思い出す。


 おまけにこの青年――日の本海賊兵の中でも最強を誇りし、村上の血筋を継ぐ子孫。

 すでに三神守護宗家より得ていた情報――その眼光に遠い昔の事にも関わらず、未だ衰えぬ村上水軍のほこりをしかと確認していた。


「ふむ、まあワシも主の様な者だと話甲斐がある。こちらもそちと同じ――魔界と言う場所も、疑って掛からぬと舐められる世界故にのう。」


 思わぬ好敵手を相手取り、生き生きとする魔王。

 戦国の世に帰ったかの様な口撃の応酬に、話が進まんと業を煮やした者――傍で成り行きを見ていた懐刀ふところがたなが、口撃に割って入る。

 

「ええ~ゴホン!――殿、いささか悪ふざけが過ぎます。今はレゾン嬢が、これから歩む道――その手助けとなる力を早急に段取らねばならぬ時期。程々に願います……。」


 いい所でと言う表情に舌打ち交じりで、魔王が眼光を逸らす。

 子供の様にねる(見た目は子供なのだが……)主君を見やり、そののち客人へ進めてくれと目配せするミツヒデ。

 この懐刀ふところがたなも、気が付けば主君の扱いに手馴れて来た感が見て取れる。

 

 目配せの先で村上の血を引く青年も、一先ず持ち込んだ兵装群の取引が優先は承知の上――企業マンとして魔王へ必要なむねの伝達に入る。

 準備した携帯端末を起動――和室におおよそそぐわぬ立体モニターがいくつも浮遊し、それらを指し示しながら青年の口が淡々と言葉を刻み始める。


「それではこちらをご覧下さい。【マリクト】が現状必要としている諸々の兵装――そして、我等が技術の結晶。メガフロートウエスト-1・新呉市で建造、竣工しゅんこう致しました【大和型】魔導超戦艦――その弐番艦【武蔵】にございます。」


 営業マン然とした青年が提示した、兵装群に含まれる巨大な戦艦――現在は魔界の花びらに位置する、国際宇宙港で受け入れを心待ちに停泊するその影。

 それはあの地球と魔界滅亡の危機の際、王女テセラを支援するために三神守護宗家の指揮の元、地球の空を舞った魔導超戦艦【大和】に連なる船。

 この魔王は、すでにその弐番艦の存在を宗家より知り得ており、あまつさえ自らの軍へ導入するための交渉を懐刀ふところがたなへ指示していたのだ。


 地球側としても、魔界最高権力者【魔神帝ルシファー】を初めとした各魔王の力添えにより、両世界滅亡を回避出来た事には感謝の念に絶えない所。

 多大なる感謝の意を現す御礼品――その一つにこの各兵装譲渡が含まれていた。


 だが今回の地球側からの譲渡はこれだけに止まらなかった。

 ――それは、国の軍全体へ行き渡る兵装にL・A・Tロスト・エイジ・テクノロジーが少なからず応用されている事――さらには弐番艦【武蔵】を運用するために必要な、有識者及び技術者が必要不可欠。

 それも踏まえた彼――【真鷲組ましゅうぐみ】統括部長・緋暮壱京ひぐれ いっきょうの出向であった。


 そして技術支援に含まれる件、吸血鬼レゾンが今手にしようとしている最強を越えた究極の力――その最終調整にも地球の技術者の協力を仰ぐ事となっている。

 これはレゾンの使い魔ブラックファイアより、あらかじめ依頼を受けた件だ。


「各兵装と【大和】型弐番艦【武蔵】、それらと吸血鬼レゾンの力の最終調整――そのために我ら【真鷲組ましゅうぐみ】の精鋭達、そして私 緋暮壱京ひぐれいっきょうが魔王ノブナガ公にお力添えしたいと、この【マリクト】に参上致しました。」


 地球より待ち望んだ品々――それらを【マリクト】が求めたのは、魔王ノブナガの類稀たぐいまれなる先見の明で見通した遥か先――最悪の結末が関係している。

 そこにチラつく言いようのない影の存在――レゾン襲撃を真祖の一人をそそのかす事で実行、そして未遂の結果へ辿りついた


 それが策であるならば、この先確実に策を必要とする程の狙いに向けて謎の影が動き出す。

 魔王は良く似た行為を一時ではある――が、先の地球と魔界の滅亡の危機で目撃している。

 これより何があろうとも一切の油断が許されない――今求める品々はそのためのである。


「では緋暮ひぐれ殿、吸血鬼レゾンへ事は通達済みです。そちらの件を最優先で処理して頂きたい。」


 魔王の懐刀ふところがたなは、事前に別室へ待機させていた吸血鬼の少女の件を第一の対応案件とし、今しがた訪れたばかりの客人を急かす様に、同行を願い出た。


「ふぅ……我々は古巣である黒い企業の様に、急ぐあまり重要な事をないがしろにするのは御免被りたいのですが……。今回は致し方ありません。」


 事は数日後に控える【反論決闘】の行く末を――引いては吸血鬼の少女とそれを取り巻く少女達の命運すら左右する件。

 緋暮ひぐれと言う青年は、古巣と称した企業に何の感慨も沸かない様子。

 かつて居た企業は自分達しか見えぬ、そのあまりの身勝手さで末端――最も重要な働き手達の尊厳を、長きに渡ってないがしろにしていた。

 その家族経営の持つ闇に耐えられず、一族を担う身でありながらグループ本体とたもとを別ち――流れ流れて【真鷲組ましゅうぐみ】に辿りつく。

 

 その辿りついた先で、彼は真の職人集団の魂を見た。

 磨かれた職人達が思いのままに職をこなす企業――それが三神守護宗家のお抱え技術者集団【真鷲組ましゅうぐみ】だったのだ。


真鷲ましゅうの者には私が伝えます。すぐに吸血鬼の力の制御――】、その新たなるあるじとの魔導融合に取り掛かりましょう。」


 【反論決闘】において、赤き少女が心置きなく戦える様――そしてその後に訪れるであろうほふるため。

 地球での戦いで三神守護宗家がそうであった様に、今この大地では【マリクト】がほこる魔王とその軍勢が、一人の吸血鬼――赤煉せきれんの魔法少女の未来のため、襲い来る事に対峙するすべを着実に、且つ速やかに整えて行くのだった。

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