―愛憎の章―
―愛と憎の狭間―
4話―1 親愛なる愛と深淵なる憎
「それまでじゃっっ!!」
天下城【キヨス】の大修練場が無数の衝撃がにより
試練の終了を知らせる魔王の声が響き、鬼気迫る表情で打ち合っていた二つの力の
全力の力の激突――小さな吸血鬼は
息の乱れは見えるが、大きなダメージを受けた様子は見受けられない。
対して巨躯の武将の視線――自ら
そこには超音速で回転するドリルに
「
巨躯の男に言葉をかける魔王、しかしその口元はニィと吊り上がり――してやったりの表情。
「クククッ……これは弁明の余地もありませぬ。……今回は
魔王の言葉に反論の余地無しと目を伏せる――
「であるか!――と言う事でレゾンよ、今回はあくまで修練過程での成り行きぞ!
巨躯の負け宣言を聞き入れるも、あくまで修練である事を強調するノブナガ――それは武将の最強に対する
その最強を名乗る男の
「……お……終わった……!」
ノブナガの言葉を聞き、ようやく修練の終わりが見えた吸血鬼――完全に力が抜けて落ちその場にへたり込む。
彼女も力の全力を出し切った――ここからまだ襲撃が始まると言われても、流石に断固拒否しそうな勢いが感じられる。
「レゾン……お疲れ様……!」
使い魔から友となった少女ベルも、その素晴らしき成果に惜しみない賞賛を贈り、吸血鬼の
その状況にもはや文句なしと言わんばかりに――いや、やや皮肉混じりで魔王ノブナガは告げた。
「吸血鬼レゾン・オルフェスよ――よくもワシが煮詰めた修練過程を台無しにしてくれたのう!じゃが――
「――よいじゃろう!修練はこれにて卒業じゃ、よくぞあの襲撃に耐え抜いた!そなたの実力――この魔王ノブナガが、しかとこの目に焼き付けた!」
魔王の宣言と同時――静まり返っていた無残な修練場に
声援が割れんばかりに響き、数千を越える賞賛が天下城【キヨス】を震わす嵐の様に飛び交った。
強大な力の激突――あまりの凄さに、野次馬と化していたノブナガ軍の兵士達は言葉を失っていたが――思い出したかの様に湧き返り、そして称えた。
――当然称えし相手は、強大な力の対決を披露した二人の最強。
程なく修練の決着――その一部始終を目撃した兵士らにより、【マリクト】界の魔導式通信や口コミにて魔界全土へと拡散された奇跡の対決――
凄まじいその拡散力で、数日とせぬ内に魔界の各下層世界へと広がりを見せる。
――そして、魔王ノブナガの思惑通り魔界の世に知れ渡る吸血鬼の名と、そこに暗躍する【マリクト】の魔王の名声。
しかし、すでに偵察によって対決の全容を知りえた四大真祖――彼らにとってそれは全く予想だにしない事態。
奇しくもこの修練上の対決が、王女ヴィーナに関わる事件を悪化させる引き金となる。
自分に降りかかる事態――そこから導かれる最悪の結末。
回避出来るか否かの選択の時が、吸血鬼の少女の元へ音も無く忍び寄りつつあるのだった。
****
「それでねぇ、凄いんですよ姉様!レゾンちゃんがあの
【ティフェレト】の王宮内、広間で職務が終わりひと段落していた私とミネルバ姉様。
テーブルに姉様が地球から取り寄せてくれた、今度は普通に紅茶と洋菓子を
そこで一足先に、積み重なった魔界文字の書類の山から開放された私は、ミツヒデさんからの吉報映像を見せて貰い、さっきから興奮が止まりません。
その映像の中で、信じられない様な力を嵐の
修練最後の卒業試験を兼ねた一騎打ちを見た私は、頭のなかで盛大に疑問が大回転していました。
確かノブナガ様がレゾンちゃんに課した修練期間は3ヶ月――なのに、1ヶ月と少ししか立っていない中での卒業試験。
その経緯をミツヒデさんから聞いた私は、大切な友達のあまりの凄さに――思わず感涙の中で打ち震えそうになってしまいました。
「そう、確かにそれは凄いわね――ふふっ、それならジョルカも全てを賭けた甲斐があったと言う物です。レゾンに会ったらお礼を言わねばなりません……ジョルカの分まで……。」
当然レゾンちゃんを魔界に招待した当人である姉様も、その事に多くの思いと共に喜んでくれました。
お茶会でレゾンちゃんが手も足も出ないその武将さんと、3ヶ月後には再び戦う事になると聞いた時――修練以前にとても彼女の事が心配になりました。
最初にノブナガ様に
お友達と一緒に居られると喜んでいた私にとっても、魔王さんの突き付けた現実は寝耳に水でした。
――でもレゾンちゃんはノブナガ様も予想しない速度で成長し、彼女を支える誰もの予想を遥かに越え――修練卒業を勝ち取ったのです。
そのレゾンちゃんの凛々しさと勇猛さが――映像を思い出すだけで……何かこう私のお顔が……。
「それはそうと――テセラ……あなたの顔、ちょっと殿方に見せられない様な事になってますよ?」
「ふへっ!?ウソっ……やだ、私……あぁ~姉様見ちゃだめです~~(照)」
だめです……レゾンちゃんが凛々しくて、かっこよすぎて――頭の中がお花畑になってるのが自分でも分かってしまいます。
そうです、私はその映像を見てからずっとこんな感じなんです。
けれど――私は気付いていませんでした。
私がお友達を思えば思うほど、そこからどんどん距離が離れてしまう思いがある事を。
地球での暮らし――たとえ記憶が封印されていたとしても、ずっと幸せの中にあった私は誰かの絶望を感じ取る事に、鈍感になっていたのかも知れません。
私から少しずつ離れていく絶望――暗き闇の
すぐ
そして、その絶望が
****
【ティフェレト】王宮がある敷地――その
そこは通常めったに使われない建物であった。
その館へ
だが――異様な雰囲気、
窓に映る姿は影――手に持つ形状は短剣。
短剣は人形の様な物へ何度も突き立てられている。
何度も、何度も、何度も、何度も――
「――ナンデ、姉様……あんなに幸せそうなの?……ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ??」
館の中には一人の少女が、ただ
焦点などあってはいない――見えているのは絶望。
少女の影がただ呪う様に、人形へ短剣を突き立て――もはや人形であった物は原型を止めず、ただのズタズタにされたぼろ布へと
それでも短剣は繰り返す様に突き立てられ――影が大きく振り被る。
鈍い音がゴキンッッ!と響き――人形であった物が置かれたテーブルが、ぼろ布ごと真ん中から真っ二つにぶち割られる。
「――真祖様方?早くして下さい……
少女の影から短剣が離れ――床へとその切っ先を突き立てる。
すると少女の手が己の顔を
「ハヤク!ハヤク!ハヤクハヤクハヤクハヤクハヤク――ハヤクッ!!!」
薄緑の淡い髪がほんのりと赤みを帯びる程、
そして言いようの無い寒気と、
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