3話―4 全力で願おうか
巨躯の武将は魔王の開始の合図を耳にした。
始まりと共に、いつもならあの吸血鬼の突撃が襲う。
しかしあろうことか、吸血鬼は構えを取り――間合いを計る。
「(レゾンめが間合いを……。ふむ、これは
巨躯の武将は、吸血鬼が突撃を封印し間合いを取る姿に口だけの事はある――その成長に、ならば自分からと
――だが、巨躯の武将
「……!?突撃っ!?」
両手両足には黒竜鱗の推進システム内蔵鎧――竜鱗製のショルダーガード、背部には大型推進器内蔵の魔導式竜翼。
レゾンは超音速の突撃の寸前――刹那の
「
完全に視界から消えた吸血鬼――刹那、巨躯の武将が弾き飛び吸血鬼は
その一瞬――魔王ノブナガにすら悟らせぬ一瞬の奇襲。
しかしそれは半端者であった吸血鬼の、脅威の成長が示される予兆に過ぎなかった。
「ぬおおおっ!!」
巨躯と思えぬ軽やかさで身体を
くっ!と吸血鬼を
「ここだ!
反応するも、視界に吸血鬼を
ただの打ち下ろしではない――超高速の螺旋回転を加えた、大地を砕くドリルの様な一撃。
超高速回転する切っ先を、
「ぬがあああっっ!!」
体勢も整わぬ所への、刹那の連撃に強引に身を返しながら、辛うじてそのドリルの様な一撃を逸らす。
直撃が逸らされ、火花を散らし
すると、今しがた攻撃したはずの吸血鬼はすでに後方へ下がりながら思案に
「これでもまだ浅い傷程度――とんだ防御力の鎧だな……!」
魔王、そしてその
それもそのはず――ノブナガ軍、引いては魔界武門最強と名高いはずの武将が二度までも重い一撃を貰う事態。
辛うじて攻撃を
唯一該当するならば、この地で聞き及ぶ魔界史上最強の
しかし、その
「――ミツヒデよ……。我らはもしかしたら、とんでもない化け物を目覚めさせてしまったやも知れんぞ……!」
「やはり……殿もその思考へ
――とんでもない化け物――その言葉は、決してレゾンと言う吸血鬼を
現に同じ思考を共有した主君と家臣は、まるで何かしらを制覇した直後の様な――止まらぬ笑みで満ち
「おのれーーっっ!!」
巨躯がその間にも体勢を立て直し、魔界の大気を
しかしその表情――もはや興奮冷めやらぬ笑み。
この魔界にて
魔槍の一薙ぎで、大方の魔界最強を名乗る者を打ち払い――勝負と言える戦いも遠き昔。
――その最強が今、かわしきれぬ連撃をまともに食らい――あまつさえその巨躯ごと弾き飛ばされた。
それは同時に心の奥底に、表には出さぬが
巨躯は再び構え、魔槍を
身体表面を滑る様に巡り、斜めに構えた片側――左腕に身体を巡った魔槍がしかと固定されると、一切の油断が
「
「……全力で願おうか……!」
鮮烈な歓喜の昂ぶりが、その言葉を耳にした居合わせた者の背筋をゾクリ!と駆け抜ける。
立会いを担当する魔王が――その家臣が、そして相対する巨躯の武将もが同時に全身を激しく武者震わせた。
吸血鬼が放った言葉は、そもそも彼女がまだ未熟な折――巨躯の武将より叩き付けられた一句も違わぬ言葉。
それを
吸血鬼は見抜いた奥の手を――隠した真価を
巨躯の男の目が見開かれ――魔槍を眼前に、垂直に突き立てついに放つ。
「たった一月――にも関わらず、そなたの真価――いや進化には恐れ入った!そして自らが放った言葉を、
「ならばレゾンよ、見せてやろう!我が真価――その力を以って、そなたの修練相手を努めさせて貰う!後悔するなよっっ!!」
この【マリクト】の魔王に合わせた、漢字を崩した様な独特のスペル――無数に刻まれたそれが大きく広がると、魔槍の柄表面が次々と同様のスペルに包まれる。
そして巨躯の背後――後方に大きく広がる法陣より出現するは、魔導機械によって構成されし巨大馬。
「我が人として地球は大陸――現中華国の三国時代を駆け巡りし愛槍【方天画戟】と愛馬【赤兎馬】!今、それを振るうに相応しき相手を前に打ち震えておるわ!」
魔槍の柄後端と切っ先が光を放ち展開――そこより
愛馬により強化された鎧は、さらに重厚且つ防御力を劇的に向上した重魔導鎧へ変化。
体組織などに原因があるのかは魔界で研究段階との事であるが、本来その様な出生をした魔族がこの魔界で生きる術がないとされていた。
しかし、その常識をあざ笑うかの
魔界に根付いた一つの常識を
巨躯の武将がその中で、常識を
「やっぱりな……。全く――私はどれだけ手加減されてたんだ……。自信がガラスの様に砕け散りそうだよ。」
そう言ってのける吸血鬼の表情は、言葉とは正反対――自信に満ち
それは過去の自分の弱さをしかと刻み――新たなる強さを手に入れんとする真っ直ぐな戦士の眼差し。
「いざ――!」
「尋常に――!」
巨躯が全力を出す力の展開を終えると同時に、吸血鬼も全力をぶつけんと己が武装に魔霊力を充実させ――静かな構えと共に放つ言葉は、巨躯の武将と重なり合う。
「「勝負っっ!!」」
【マリクト】の昼
それは、吸血鬼の偵察に訪れていた第三王女を慕いし者――四大真祖の意志すら揺るがす激震を運んでいた。
「な……なんて事……!」
切れ長ながらも、優しさを
彼女もそのありえない異変に気付き、冷たい汗が額を躍っている。
四大真祖ともなれば視力的な身体能力が魔術的に強化され、裸眼でも1km前後遠方の状況を余すことなく確認出来る。
今まさにその視界に映る超常の激闘を目の当たりにし――彼女の心が激しく揺さぶられていた。
「地球の、
「――こんな事が、あり得るのですか!?」
四大真祖はレゾンがいかにして生まれ、戦いの
しかし真祖クラスの吸血鬼であれば、レゾンという少女に宿るかつての主君
優れた吸血鬼が行う吸血行為は、吸われた者の魂を
高貴なる吸血鬼一族の血が、何故あの様な下級魔族に――真祖の皆も同じ見解であった。
そのルールに
それは吸血鬼レゾンという少女の可能性に――その計り知れぬ
「動揺のあまり周囲の警戒が
不意にかけられた声――この偵察は先の仲間の先走りを恐れ、彼女が単独で行っていた。
そこに仲間がいないはずの木陰で、自分に掛けられた声に
声のした方へ武装とともに殺意を投げる。
「安心しな、あんたが偵察目的である以上――【帝魔統法】上は問題ない、こちらも手出しはしないさ。それを守っている間ならな。」
真祖の生身での攻撃射程外に、彼女を完全に攻撃射程に
だが武装展開はしていない――彼の言う様に、【帝魔統法】を厳守している限りは攻撃しないとの意志表示。
その男は、別件での周囲の監視偵察をノブナガより任された
「まあいい機会だ、あんたもよく確かめておくがいいさ。本来【帝魔統法】で定められる偵察はそういう意味を含んでいるからな。」
「重大な過ちを回避するための許された偵察行為――あんた達が間違いを犯さないためにも、あの吸血鬼の本質――刻んでおくといい。」
クイッと親指を立てて修練場を指し、無警戒に木陰に
攻撃の意志がないノブナガ軍の手の者に
真祖
しかし今は修練を偵察するほか、手段を選ぶ余地すらない――その思考の中、彼女はただ呆然と視界の奥を凝視しているのだった。
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