3話―3 求むるは一騎打ち
シスターテセラが命を奪われ、その内に導師ギュアネスの道具と化していた間―― 一番長く
――そう、ずっと少年だと信じて疑わなかった。
けど思えば、そこかしこに少女の様なしぐさが
そんな事にも気付けぬほどに、余裕がなかったんだと思い知らされた。
「――その……何だ。すまなかったな……全然気付く事が出来なくて……。」
我が使い魔の激白に、最早謝罪の意しか浮かばない。
それにも関わらず彼女は笑って答えてくれる。
「今更ですよレゾン。けどせめて、これからは私の事を名前で呼んで下さい。――出来れば、リリが呼んでくれていた様に――」
ん?リリ?聞いた事の無い名前が出たな。
「あっ!?ごめんなさい、リリは【竜魔王ブラド】の名でブリーディア・リリ・ドルシェ。私は彼女からいつも、ブラックの頭二つを取って≪ベル≫って呼ばれてました。」
姿だけではなく名も少女の様だったのか――最強とのギャップは壮絶だな。
――最強という言葉、自分でイメージしていた物からかけ離れた、不死の魔王の実力。
そう、それを踏まえても自分に立ち止まる時間が無くなって来ている。
テセラに救われ、被害者のつもりでいた自分の前に現れた――
きっと、今度は私の番だ――
「では――ベル、お前に頼みがある。この修練に悠長に時間を取られている暇が無くなった。」
大事な言葉を今この時に贈ってくれた使い魔――友となる事を求めてくれた。
彼女とならこの修練を越えられる――そしてその先、悲しみに囚われる少女の事だって――。
「――だから二週間の後。それを目標にあの呂布を越えるまでいかずとも、対等に立てる用取り組む。力を……貸してくれるか?――友として……!」
彼女の眼からそらさずに、真っ直ぐ見据え返答を待つ。
ベルも顔を赤くしながらだが、こちらを見て
「はい……!レゾン……まずはあの侍大将――越えてみせましょう!」
使い魔から友となった少女は、私にとっての最大の武器へと昇華した。
****
「やっとひと月か、思ったより長いの~」
そもそも
――しかし
最初は
「しかし流石に三ヶ月は……吹っかけすぎたかの~。のうミツヒデよ。」
いつもの会議用の一室――思わず
まあ帰って来る返答は予想の
「今更ですね殿……。私も流石にそれはと思ったものですが、何せ殿の判断――なにかしらの意図があるとあえて口にはしませんでしたが……。」
「ミネルバ卿へ、レゾン様修練の
【テフィレト】へ
――同時に四大真祖と王女ヴィーナの件、せめてミネルバ卿の耳には入れておく必要があるとあわせて連絡済み。
しかし残り二ヶ月――レゾンの身にまた彼奴等が関わるとなれば、それは王女ヴィーナの状況に異変が生じた場合と考えられる。
――二ヶ月とその後から、先の事を見越した客観的立ち位置で魔界の動きを見定めよう――
その思考を頭に巡らせていた時――報が走る。
この【マリクト】が天下城【キヨス】への訪問者――。
バタバタと慌てた家臣が、血相を変えて部屋前に座し、
「も、申し上げます!殿――レゾン様が……レゾン様がお見えです!!」
「ほう、レゾンが
努めて冷静に答える――やはりすでに一ヶ月の間、あの様な無茶をさせたのだ。
ここは一つ譲歩して期限の短縮を――
「いえ……!それが……レゾン様が申されますに――最後の一騎打ちで修練を卒業させて貰えないかと……!」
――思考が停止する。
待て、一騎打ちじゃと?まさかとは思うが――しかし修練卒業などとは大きく出た――
「ノブナガ殿……いるか?」
ワシは目を疑った――そこにいたのはレゾンという吸血鬼。
余程
だが、そこから
「待て、レゾンよ……!まだ予定の三ヶ月は満たしておらん……。少なくとも、我が軍の兵が襲撃で一巡するまでは、最低でもそれぐらいの――」
こちらが、その程度ではまだ早いと言葉にするより先――あの娘は、よりにもよって言い放ちおった。
初めて目にした時、まだ焦りが顔より
「ああ、面倒だったからこちらから襲撃して、ノブナガ軍全員から参りましたの言葉を貰って来たぞ?」
――な……何じゃと……!?
「だから、最後の勝負にあいつと――
衝撃が、吸血鬼の口から超重の重さを
弾かれる様に配下のミツヒデを見る――そうであろう、ミツヒデの目が完全に見開いておるわ……!
ワシの心の奥に、今までにない程の高揚感が
「ミツヒデ!!大至急
その声で我に返ったミツヒデは、輝く表情のまま我が軍最強を呼びに文字通り飛んだ。
「お呼びにより、
我が軍における最強の巨躯――地球は大陸の戦国にて名を轟かせ、この魔界でも同様に武門最強を誇る。
参じたその将はすでに興奮が抑えられないのか、
「レゾンよ、一騎打ちを所望と申した様だが――予定より早すぎる。
興奮交じりであるが底知れぬ怒気――我が軍でもこの
魔界についたばかりのこの吸血鬼では、早々に意識を飛ばされて堕ちたであろう――だが倒れる所かこの
「見損なうなよ、最強よ。これでも冗談は嫌いな方だ――あなたを冷やかすためにここに立ってるつもりはないがな?」
予想だにしない、吸血鬼の怒気による反撃――もうこの巨躯の最強を押さえてはおけぬな……。
今にもその魔槍を抜き放つ勢いで
「待て待て!
もはや吸血鬼の覚悟は決まっておろう――それでも最後の確認をこの勇ましき娘へ投げ――
「ああ、元よりそのつもりだ。――魔王ノブナガ……せっかく組んで貰ったプランを崩してしまった……が感謝する。」
本人より意志の確認を得――同時に感謝を贈られた。
そういう所は抜け目無く律儀な娘じゃ。
――故にワシ含む皆が、協力したいと願い出るのじゃが。
そして、予定を遥かに繰り上げた修練最終試験のため―― 一行は【キヨス】の城下に設けた広大な修練施設へ向かう。
ここは我が軍の兵を鍛え上げるために用意した施設じゃが、呂布の様な者が心置きなく訓練に打ち込める充分な広さと、周囲外壁に強度を持たせた修練場である。
しかし今回ばかりは、ここも無事では済みそうにない予感がしてならぬ……。
何せ、あの
さあ、その予感が霧散せぬ様せいぜい見せてもらおうかのう。
「では試験の条件を提示する。何――簡単な事じゃ、レゾンの能力
「――これは一騎打ちではあるが果たし合いではない。じゃが、レゾンの実力を測るための物――そのつもりで挑め、良いな!」
「では試験――開始じゃ!」
右手を挙げ、振り下ろし開始の合図とする。
が、予想に反して双方がゆっくり武器を構え――じりっ、と
なるほど、これはなかなか――あの
それも反撃を狙う構え――じゃが、あろう事かあのレゾンが虎の子の突撃を封じ機を
その目は――何かに追われる様な焦燥感が消え、得体の知れぬ境地を悟った様な半端者とはとても思えぬ鋭さが宿っておる。
「――なんと、あの娘まさか……本当に――」
今までに感じた事がない高揚感が、もはや止まる事なくこの身の内で
その中で、ついに吸血鬼が動く――じゃが突撃ではない。
軽やかに駆け、助走から攻撃を仕掛けるのか――そう考えが過ぎった瞬間、吸血鬼の姿は一陣の風に消え――衝撃音。
遅れて見たその目に映った物――
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