2話―3 真紅の突撃 戦乙女形態
「そなたも食事を済ませたとは言え、万全ではないだろう。今回は肩慣らし――この戦いを、今後の己に必要な物を見極める手立てにするが良い。」
ノブナガ軍最強を誇る武将【
一瞬の気の緩みも見逃さず、叩き伏せられるのは明白。
肩慣らしとは言ってくれる――いざ対峙すれば、自分の戦い方の
与えられた
そこを一騎打ちと称した手合わせの場とした。
本気のこの武将を相手にしていたら、
密かに気に入っているのもあるが、それを壊してはノブナガにどやされそうで嫌だ……。
「分かった。この戦いで得られる物があるなら、どんな
自分で承諾した手合わせ――下がる道など無い、ただ前に進むだけ。
その気迫にて、眼前に
それを受ける巨大な壁は防御などしない。
つくづく義に
これは本気でこの男から学ばなければならない――私の真価を輝かせる手段を。
「では――いくぞっ!!」
地球での戦いの中、無謀な突撃は
ならせめて一撃を決め、そこから得られる手答えをキッカケに修練の
衝突音――金属と金属がかち合う、高周波の様な強烈な響き。
その腹部へ
「――冗談……だろ……!?」
私の攻撃は確実に
だがそこに
弾かれるだろう――それ所ではない、鎧表面飛び石レベルの
「……全力で願おうか……!」
巨躯である男が頭の上から、ズンッ!と見下ろす――それは不満に満ちた表情。
「――ゴフッ!!?」
空を切る音が音速に達する勢いの魔槍――
「――っ!!?」
声にならぬ
叩きつけられた時点で内臓が二、三と一部骨がイカれた鈍い音。
裂けた血管より
肩慣らし段階でこの容赦無さ――これは、吸血鬼の再生力も含めた修練である事を確信した。
ひらりと巨躯に似合わぬ軽やかさで飛び、クレーター状に
「――申したはずだ……赤子の様に
――完全に意図を読み違えた。
私が、一人で
一人で敵わぬなら力を借りればいい――
「――ごほっ!……くっ、とんだ思い上がり……だったよ……!」
岩肌より落ちる様に体勢を
「ブラックファイアっっ!!私はこの
待ち望んだ呼びかけに、量子体を
ここの所、
私が
やはり私にとっての使い魔は、無くてはならない存在――だからこそ、敵わぬ相手に勝利するために力を借りるのだ。
「ハイ!我が
使い魔の言う現状における最強――地球では共に戦うのがやっとだった。
だが今なら、それ以上も可能な力を内に感じている。
その手段――どの様な形で力として
「ああ!行くぞ――
「
私が使用する
充分に力を使いこなせない――時には暴走していた私が力に飲まれぬ様、どんな時も絶妙な
故に地球で、二人が
けれど今なら――いや、今発動せずして何とする。
これが私の最強なら、この力を修練し物にすればいいではないか。
きっと、この
「
私の身体に半物質化する、黒竜の
各所の真紅に輝く装飾は、
――これが今の私の最強――
その力の
「――そう!……それが見たかったのだ……!」
鎧の全てを
竜の
初お披露目でどれほど扱えるかは分からないが――今のうちに利点と欠点を洗い出し、修練終了までに使いこなす。
その覚悟を構えに乗せ――各部スラスターを起動。
全力の真紅の突撃となり、最強の男を強襲する。
****
魔界修練という試練の中、吸血鬼の少女が放つ
待機する姿は大型のコウモリを思わすそれら――四大真祖の乗機【マガ・バットラウド】。
今まさに修練の場に向かい、吸血鬼の動向に対した偵察を目的とする。
後に訪れる機を逃さぬための偵察である。
「――おかしい。先だって偵察に向かったはずのファンタジアから報告がない……。」
四大真祖の紅一点。
切れ上がった目つきに、理知的な思考――キツめの印象に反する様な、穏やかさと凛々しさを兼ね備えた長身の女性。
長くはないが、肩まである紫色の髪は自然に流れるストレート。
紅一点――
魔導兵装【マガ・バットラウド】のモニターを注視しながら、羽織る魔導製の防護コートのまま腕組みし眉を
他の仲間も不安に駆られるほど短絡的思考ではある――が、それは王女ヴィーナが絡んだ場合、崇拝のあまり湧き出る感情が操作出来ない故。
だからこそ、必要以上に押さえ込まず――ほどよく感情を解き放たせるため、あえて単独で接近しての偵察を指示していた。
【帝魔統法】上では保護観察対象への直接的な戦闘は厳禁であるが、相手を見定めるための情報収集に関しては、制限付きで法への抵触はないとしている。
「あからさまな戦闘に発展していれば、モニターでも状況が確認出来るはず――」
――彼女が想定した状況は最悪のケース、万が一そうなる前に自分が制止に入らねばならない。
最悪のケース――それは
そうなってはあの魔王シュウが治めた【ネツァク】は、導師ギュアネスを初め罪人ばかり
最凶であったが、魔界での誇りは誰よりも高かった魔王の名声と【ネツァク】の名――そして今、そこに君臨するに相応しい素養を持つ王女ヴィーナの尊厳を――
「ファンタジア……事を焦らないで下さいよ……!」
コウモリが翼を広げる様に、魔導兵装【マガ・バットラウド】の一機が浮上――そのまま光学的な視界から、光を屈折――魔導式ステルス状態へ移行し周囲探索へ飛ぶ。
****
「――ええ、その通りです。【帝魔統法】に抵触しない手段――私が講じて差し上げようと言っているのです。」
それは森林の中、一際高い大木に立ち言葉を降らす様に語りかける。
言葉を浴びせられているのは4本の触手が背中より生える魔獣系吸血鬼ファンタジア。
彼の短絡的な思考は、目の前に突如として現れた者が不審である――その認識を王女を救うためによい手段がある、その言葉でかき消され現状に至っていた。
「ほ……本当か……!お前が策を立てれば、法に触れずにヴィーナ様を【ネツァク】の王にする事が叶うのだな・・!?」
地球であれば、最早
森に溶け込む様な魔導製と思しきローブ――口元だけを
この誰もが想定していなかった横槍の様な介入――
「――相変わらず単細胞な吸血鬼だ……。やはり四大真祖を操るのは、容易であったな……。」
交渉に選んだ触手吸血鬼を、まるで古くから知る様な口ぶり。
森林を抜ける一時の強風が不審者のフードをなぎ払う。
それと同時に、銀とも白とも取れる髪がフードと共に後方に走った。
現れたのは女性――その顔、両の頬に魔術式タトゥーが刻まれた姿。
だが――生命としての
再びフードを
――それはまるで負の極限、【オロチ】に浸蝕されたかの様な――
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