―求められる物―
1話―1 王都ティフェレト
何もない世界――いや、存在するがあまりにも遠すぎて傍にある実感が無い。
それが私の宇宙を見た感想。
地球を発ち、魔界へ着くまでは地球上の基準で換算出来ぬほどの距離。
地球の一部地域しか知らぬ自分には、想像を絶する世界。
時に思う――自分はなんて世界を知らなかったのだろうと――
けど――
「うわあああ~、レゾンちゃん見て見て☆地球があんなに綺麗~!うわっ!?何かお星様って宇宙に来てもこんなに小さいんだ~!すご~い!」
そうだった……、テセラも実質宇宙は初めてだった。
私なんぞ非にならん位にお登りじゃないか……。
この航宙旅客船は、宗家専用という訳ではないというのに――客が見てる……止めてくれ……流石に私も恥ずかしい……。
「……おい。頼むから大人しくしていてくれ……。流石に私も……」
「え~~、何で~~こんなに綺麗なのに~~。レゾンちゃんも一緒に見ようよ~~☆」
ちょっと待て……何だかいつもと立場が逆だぞ……。
……オイ、そこの使い魔二人――なんでそうニャニヤしている……。
いやそもそもこの二人、こんなに仲が良かったのか?
魔界への唯一の交通手段である航宙旅客船は、少々のデブリや隕石程度ではびくともしない様、高硬度かつ軽量な素材で出来ていると聞く。
それでも宇宙に飛来する物体の速度たるや、音速を軽々と
テセラや宗家の者達からの聞き伝え――さらにはささやかな授業で習った
――それを聞く
そんなお登り王女(それでも日の本では、大都会のお嬢様のはず)を
――いや、それにしては大きすぎる。
宇宙コロニー【ソシャール】と呼ぶそうだが、聞き及ぶサイズと比べるまでもなく大きい――何だこれは……。
「おい、ローディ。あれはなんだ……聞いていた物と比べようもなく巨大なのだが……。」
現状もっとも魔界――引いては宇宙を知り得る者に質問をぶん投げる。
王女が魔法少女となるキッカケであり、彼女の
「ええ、巨大ですよ?太陽系内で一部惑星を除いた、準惑星を含む巨大衛星を上回る大きさですから。」
さらっと流したが、それはつまり衛星で言えば月や木星最大の衛星よりも巨大という事か?
魔界恐るべしだな……。
恐るべし魔界は巨大さもさる事ながら、その美しさは
その証拠に、さっきからテセラの口が開いたまま閉まらなくなっている。
――君は王女だろ……その顔はどうかと思うぞ(汗)
闇に覆われた宇宙空間に、無数に散りばめられた都市の光。
さらにそれら光が花びらの様に湾曲した、広域巨大構造物を取り巻き――幾重にも折り重なってソシャール全容を形作る。
その全体像はテセラから聞いていた物とは、美しさも巨大さも桁違いのスケールだった。
大輪の――で例えるならば薔薇が相応しい。
魔界の美しさに言葉を失った王女と私達を乗せ、航宙旅客船が花びらより離れた大型の国際宇宙港にドッキングされた。
そして私達は、いよいよ魔界の地へ足を踏み入れる事となる。
****
しかし近年の望まぬ形――ではあるが、双方が事件や抗争に巻き込まれた結果手を取り合う形となる。
だが姿も見えぬ魔界と協力するのは無理があるといった地球側の意を汲み――積極的とはいかないまでも、魔界の姿を明かしつつ交流をキッカケに協力体勢を整えて来た。
地球でいう所の
魔界を構成する世界の内、最も高位の世界【ケテル】を統治する【観測者】と【調律者】両面の顔を持つ最高位の魔王【魔神帝ルシファー】。
彼の義兄弟ともいえる者【魔王ヴェルゼビュード】の魂を救われた事で、【魔神帝ルシファー】自身が日本という国を信頼し、後押ししているのだ。
テセラ一行は、その魔界から招待された超VIPの待遇ではあるが、なにせ地球との交通機関が民間の航宙旅客船しかなく、魔界の国際宇宙港までは普通に旅をするハメとなる。
「うわ……。」
「……何事だ……?」
流石の二人も宇宙港に到着するや目を疑った。
彼女らは地球と魔界救済後、今の今までささやかな日常を穏やかに過ごしていた。
しかし二人は最も重要な事案が抜け落ちていた事を、その光景を目にして思い出す。
――そう、王女テセラが行った事。
彼女は魔界という世界を救ったのだ。
眼前に広がるのはミネルバが治める【セフィロト】に止まらず、信長の治める【マリクト】――さらには、上位界層の世界住人まで詰め寄せている。
歓声と賛美――魔界の国際空港が、異様な熱気に包まれ王女一行を迎え入れたのだ。
「そう……だ。私……世界を――この
「……忘れていたな。完全に……。」
歓声に包まれ、拍手が巻き起こり――旅客船から伸びた降り階段の下段から、宇宙港奥まで伸びる赤い
両隣には王都より使わされた、ミネルバ配下の高位魔族―― 一行を出迎える。
「よくお帰りになられましたジュノー王女殿下。――そしてようこそ、吸血鬼レゾン様……。」
吸血鬼の少女は救われた側――むしろ導師の策への加担側である。
その歓声と出向かえを、とても居心地の悪い物に感じていた――が、彼女を目当てにやってきた魔族の言葉で自分への価値観が一変する。
「……ああ、あんたが魔王を……!我等が魔王の力を受け継ぐ――後継者様……!!」
レゾンは時が止まる――思わず自分の背後に、その言葉の該当者がいるのかと見回して――自分だけなのを確認し、素っ
「……は?もしかして――それは、私の事か……??」
「あなた様以外に誰がおられると!――今はいろいろあるでしょう……。ですが、落ち着いた
どこかで聞いた世界の名――吸血鬼が頭の中にある思い出の引き出しを、必死でかき回して見つけた言葉。
「……そうか。【ネツァク】はあの少しめんどくさい魔王――
ようやっと合点がいくレゾン――だが、力を受け継いだ事を知るのは自分と使い魔以外は、限られた者。
状況説明した事もある、一部宗家の人間辺りしか知りえぬ身辺状況。
「なぜ、あなたはそれを知っている……?」
思わずそれを聞き返すと、その
「貴女様よりシュウ様のお力が感じられます。我等は民の大半が吸血鬼――魔人種族系と魔導種族系がおりますが、皆シュウ様同様――竜魔王ブラドの血脈を継ぐ者にございます。」
あらかたの状況は飲み込めたレゾン。
確かに吸血鬼――それも高位の種族ならば、血に宿した魂の波動を感じていても不思議ではない。
高位吸血鬼にとって吸血とうい行為は、吸われた側の魂と尊厳を尊び――それを背負う事を意味するからだ。
「あいつはやはり――魔王だったんだな……。」
彼女が
よもやこの魔界に訪れて最初に、かの魔王の偉大なる片鱗を垣間見るとは想像していなかった。
あいつは魔王だった――まさにシュウに対する感嘆の言葉であった。
――同時に、自分がどれだけ畑違いな存在であるかが、見えない
かくして王女一行は今だ歓声覚めやらぬ宇宙港から、厳重に警備された王族御用達の重厚な馬車へ導かれる。
ちなみに馬は魔界に住む魔獣族に属する、銀色の
「……馬車……なんだ……(汗)」
思わず本音がポロリと漏れ出てしまう王女。
そこに、苦笑しながらその使い魔がフォローを入れる。
「すみません王女殿下……。魔界の技術体系はかなり変則的に進んでいます。――特に移動手段は、地球の様なエンジンで動く機械製品は一般的ではないのです。一番近い時代でいえば、中世ヨーロッパに毛が生えた程度とご理解下さい。」
乾いた笑いが王女を包む。
流石に一時は崩壊しかけたといえど、日本の大都心で数年間を過ごした王女は異世界とも取れる魔界の壮絶なギャップに肩を落としてしまった。
「……私はこの方が居心地がいいがな?」
乾いた笑みのままうな垂れる王女を見ながら、特に違和感も無く――むしろ故郷に帰ったかの様なくつろぎの中、吸血鬼は語る。
レゾンにとっては、野良魔族上がりとして過酷な日々を送っていた頃は、この様な
一行を乗せた黒馬の重厚な馬車が、【ティフェレト】と宇宙港を繋ぐゲートを
馬車ではある――がそれは魔導の馬車。
みるみる加速し、普通に航空機に乗っている様な速度で王女達を魔王ミネルバの待つ王都へ運ぶ。
まさに変則的な魔導科学の進歩である。
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